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異形のお嬢様と新米メイド  作者: 若松ユウ
■ミドリ篇
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004

「今、入ってきたところは、使用人だけが使う通用口だから、間違ってもお客様をお通ししないように」

「はい」

「屋敷の中は、西洋風に土足で上がるように出来てるけど、必ずマットの上で泥や埃を落してから入るように」

「あっ、はい」


 屋敷の中は、部屋の中にも廊下にも、一幅の絵画が控え目に飾られたり、小ぶりな花卉に草花が生けられたりと、主人の品の良さをうかがわせるに足る趣向が凝らされている。

 ミドリは、両手で柳行李を持ったまま、それらをもの珍しそうにキョロキョロ見ながら歩いていた。が、先を行くクラシカルなメイド服に身を包んだ女は、ミドリの歩みが遅いのに痺れを切らした様子で立ち止まり、小言を並べる。


「あなたね。見慣れなくて新鮮に感じてるのは結構だけど、わたしも暇じゃないのよ。早いところ、屋敷のどこに何があるかを覚えてもらわないと、手間が省けるどころか二度手間になっちゃうんだから。そりゃあ、新米の教育係として、覚えるまで何度でも教えるつもりではいるけれども、可能な限り一回で覚えて欲しいの。いいかしら?」

「はい。ごめんなさい、エリさん」


 ミドリが足を止めてシュンと項垂れると、エリと呼ばれた青丹色のロングヘアで真紅の瞳をした女は、持っている柳行李を指差しながら質問する。


「それ、何が入ってるの?」

「これですか? 着替えと、歯ブラシと、石鹸と、それから……」


 斜め上を見ながら、ミドリは中身を思い出しつつ、正直に答えていく。すると、エリは途中で発言内容をまとめ、ミドリの手から柳行李を奪う。


「つまり、身の回りの品を全部持ってきたのね。ご苦労様だこと」

「エヘヘ。何が必要か、まったく見当が付かなかったものですから」


 のんきに笑うミドリにあきれた様子で、エリは片手で軽々と柳行李を提げ、さきほどまでより早足で歩き出す。


「教育のし甲斐があって、わたしとしても腕が鳴るわ。スパルタ式にビシバシしごいていくから、覚悟なさい」


 エリは、ミドリから返事が無いので立ち止まって振り返り、ミドリが窓外を飛んでいる鳶に気を取られているのに気付く。そして、その気楽そのものの様子に頭痛でも起こしたのか、空いてる手で額を押えて、駄目だこりゃとでも言いたげに首を横に振った。

 ピィーヒョロロロロロ。

 このあと、エリが何度もミドリに注意する羽目になるのは、想像に難くないところであろう。

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