表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/60

010

「ほぉ。それじゃあ、お嬢様は、ミドリちゃんをいたく気に入ってるんだ」


 ミドリがシノと初顔合わせしていた頃、藤村には来客があり、アオイが応対していた。

 今は、シノの相手をミドリに任せたエリも合流し、応接室で客人が帰ったあとの片付けをしているところである。


「何に惹かれたのか知らないけど、いい具合に懐いてるから任せてきたの」

「人徳って奴じゃないの? 好戦的な誰かさんと違って、癒しのオーラが出てるもの。――うおっ、あぶねっ!」


 鉄製のフォークを片付けていたエリは、それでアオイの手の甲を狙った。が、アオイは寸前で攻撃を察知し、手の甲の上に銀盆を伏せて防御した。


「惜しいな」

「油断も隙も無いなぁ、もぅ。――それにしても、今日のお客様は、香水を瓶ごと頭から振りかけたような婦人だったよ。お相手をしなくて正解だね、エリちゃん」

「そうかもしれないわね。――まぁ、お上品ないただき方だこと。一番美味しいところだけ召し上がって、あとは全部残しちゃうのだから」


 そう言いながら、エリはリンゴが乗った皿を手に取る。リンゴは、芯を中心に一時の針の内角分だけ切り取られ、あとは皮ごと残っている。


「僕としては、おこぼれが頂戴出来て良いけどね。ヤミーヤミー、ボーノ」


 アオイは、皿の上からヒョイとリンゴを手に取り、クシャクシャに置かれたナプキンで軽く皮を磨くと、シャリシャリと食べ始めた。


「ちょいと、アオイくん。お行儀の悪いことをしなさんな」

「ムググ。良いじゃないか、別に。ゴミとして捨てるより、よっぽどリンゴに優しいよ」


 エリは、それ以上何を言っても効果が無いとみて、ナイフとフォークを入れたカゴを台車の上段の置き、続いて、大小の洋皿を片付け始める。そして、呑気にリンゴを食べ進めるアオイに、声のボリュームを抑えて質問する。


「ところで、例の訓練は進んでいるの?」

「へっ? 何の話?」

「とぼけないで。お嬢様が外出できるように、人化の術を授けると言ってたでしょう?」

「あぁ、その話ね。身体が成熟するまでは、制御が難しいんだ。先代の奥様も難儀したけど、まだ十一歳の子供なら猶更だよ。一日二日で簡単に習得できるものじゃないんだ。――ごちそうさま」


 アオイは、言いたいことを言い終わると同時に、芯だけになったリンゴを、台車の下段にある屑カゴにシュートした。テーブルの上は、ランチョンマットや花瓶まで片付けられ、もうテーブルクロスしか残っていない。


「厄介なものね。隔世遺伝で、女性にしか現れない変異症状なんでしょう? ――そっちの角を持って」

「そうらしいよ。藤村様の研究成果が確からしいものなら、という条件付きだけど。――こっちだな?」

「三世代分しか研究材料が揃ってないから、あくまで推測の域を出ないという訳ね。――ここを、それと合わせて持って」

「何事かを成すには、人間の生涯は、あまりにも短いのである。――あとは、これを折り込めばいいだけだな」


 テーブルクロスを畳みながら、ふたりは人生の儚さを語り合った。

 もう、勘の良い読者様はお察しかもしれないが、このふたりもまた、人であらざる存在なのである。しかし、それについては、また章を改めてお話しよう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ