表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/60

009

 その後、ミドリは脳内の演算処理を超える情報量に気絶した、かと思いきや。


「これと同じ植物を、お父様の図鑑で見たことあるわ。何ていう名前だったかしら? 上品な紫のお花が咲くのよ」


 シノの特異な姿に、興味津々であった。

 そばに寄ってシゲシゲともの珍しそうに観察するミドリに対し、シノは、その予想外の反応に戸惑っている。


「ミドリ。あなた、わたしが怖くないの? わたしの姿を見たら、みんな驚くのに」

「えっ? どうして? こんなに綺麗なのに」

「だって、明らかに普通の容姿とはかけ離れてるでしょう? 瞳は金色だし、髪は蔦みたいだし、肌だって……」


 シノが自身を卑下し始めると、ミドリはシノの前に膝をつき、緑色をした小さな手を両手で包み込み、それを愛おしげに撫でながら、シノの顔を見上げて微笑む。


「瞳は澄んでいるし、髪はツヤがあるし、肌はキメが整ってるわ。藤村様に、大事にされてるのね」

「……そうね。あなた、変わってるわね」

「よく言われるわ。女学校に居た時分も、しょっちゅうお作法の先生にお小言をいただいてたの」

「フッ。なんとなく、想像できるわ。――エリ。入ってらっしゃい」


 凛とした声で、エリがドアに向かって言うと、すぐにドアが開き、エリが姿を現す。

 エリは、ふたりがすっかり打ち解けている様子を見た瞬間、一時的にフリーズした。が、すぐに通常モードに戻り、シノに向かって訊ねた。


「わたしが部屋の外で待機している寸時に、何があったのですか?」

「あら、聞こえてなかったの? あなた、ひとより耳が良いはずなのに」

「どこぞの庭師とは違って、聞き耳を立てるような真似は、いたしません」


 よろよろと庭に向かっているであろうアオイが、クシャミでもしてそうだと思ったミドリは、クスッとふき出す。

 エリは、それを見逃さず、一瞬、ミドリの方へ鋭い眼光を放つが、すぐにシノへと視線を戻す。それと同時に、シノはミドリに指示を出す。


「ミドリ。そうやって、いつまでも手を持っていられると、何も出来ないわ。立つから、引いてちょうだい」

「はい、お嬢様」


 ミドリは先に立ち上がり、次いでシノの手を引いて立たせ、手を離す。

 シノが、そのままドアに向かって歩き出したので、エリは、素早くドアに向かい、ノブを持って訊ねる。


「どちらへ行かれるのですか?」

「いやぁね。屋敷の外へ逃げるとでも思ってるの? お花を摘んでくるだけよ。すぐ戻るから、安心なさい」


 返事を聞いたエリは、ドアを開け、シノを廊下へと通し、シノが廊下の先を曲がって姿が見えなくなるのを確かめてから、ボーっと手持ち無沙汰に佇んでいるミドリに手招きをする。

 ミドリが、それに応じてそばに駆け寄ると、エリはミドリに疑問をぶつける。


「あなた、いったい何をしたの? お嬢様が初対面の相手に気を許すなんて、これまで一度も無かったわ」

「う~ん。わたしは、ただ、お嬢様に興味を持っただけですよ」


 そう言って、ミドリは、首を傾げ、コメカミに指を当てた。

 エリは、これ以上ミドリに質問しても時間の無駄だと判断し、話を先に進める。


「それで、あなたの初仕事だけど、せっかくだから、お嬢様のお話し相手をしてちょうだい」

「はい。えっ? それだけですか?」

「最初は、お皿洗いでもさせようかと思ったけど、考え事をしてるうちに舶来のカップやソーサーを割りそうだから、よしとくわ。それに、気難しいお嬢さまのお話し相手なんて、そんじょそこらの小娘には務まらないもの。きっと、あなたは、お嬢様の眼鏡にかなう、何某かの特別なモノを持ってるのよ。――あっ、戻ってきたわ」


 こうして、ミドリの初仕事は、彼女が持って生まれた好奇心により、異形のお嬢様のお話し相手に決まったのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ