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《現実世界の章》 3.テスト終了! お守りを買いに行こう 異世界にも行こう


 一日目のテストは眠気で散々。二日目のテストはそれなりに手ごたえはあったけれど、一日目のことを考えるとバイトの許可がもらえるくらいの上位になれるかちょっと不安だった。

 クラスの雰囲気も、テストからの解放感とテストそのものへの不安感がないまぜになっていて、いつもとちょっとざわついた。


「テ、テスト……どうだった?」


 あまねもちょっともじもじしていた。


「うーん……、五分五分ってとこかな」


「五分五分って?」


「昨日は大爆死、今日はちょっと自信ある。総合したら……中間よりも上に行けるかどうか、微妙……って感じ? あまねは?」


「みさきちゃんと似たようなもの、かな」


「大丈夫! あまねなら余裕で上位十人には入れるよ! バイト先にパン買いに行くからね!」


「ほ、ほんと?」


「アップルパイとかもおいしいじゃん? あのお店。買いまくっちゃう」


「あ、じゃ、じゃあ、私、担任の先生にバイト許可の申請してくるね。その、待っててくれる?」


 いつも待っているのに確認されてしまった。


「わかってるって、神社に行ってお守り買って、それから異世界行くんでしょ? 約束忘れてないよ」


「う、うん! 急いで行ってくるね!」


「ほーい。気を付けてー」


 ぱたぱたと教室を出てゆく親友を見送ると、その姿が消えた後に少し色素の薄い長身の男子が見えた。

 ブラスバンドの副部長、流星君。

 その視線の先にはきっと天音がいるんだろう。


「はぁ……」


 やっぱりあまねのことが好きなんだろう。胸がツキツキと痛んだ。

 流星君とあまねが付き合ったりしたら、どうやってあまねと接すればいいんだろう。くやしい、流星君を好きなのは私もなのに、なーんて思いながら笑っていなきゃいけないんだろうか。

 でも、あまねは流星君の呼び出しから逃げてきたみたいだし、きっとそんなに好きじゃないはずだ。あの呼び出しはなんだったのだろう。デートの申し込みだろうか。それとも告白だろうか。デートの申し込みだったら、緊張と恥ずかしさでパニックになったって可能性もある。あまねは引っ込み思案だから、好きになっても素直になれないのかもしれない。

 だとしたら、二人は両想い?


「ああああー、だめだ! テスト終わったから変なことばっかり考えちゃう。こんなことならずっとテストだったらいいのに」


 勉強してたら恋だとか付き合うだとか考えてる暇がないのに。


「みさきちゃん、どうしたの?」


 いつのまにかあまねが戻ってきていた。


「なんでもない!」


 むちゃくちゃ恥ずかしくなって思わず叫んでいた。あまねはちょっと目を丸くしていたけれど、ふんわりと笑った。

 かわいい。

 これは、勝てない。



 部活再開もあって、学校には活気が戻っていた。


「みさきちゃん、弓道部に顔を出さなくていいの?」


「だって私、とっくに幽霊部員だし。いいのいいの」


「もう辞めちゃうの?」


「どうしよっかなー。バイトもする約束だし、バイトしてたら部活なんてできなしさ」


「……みさきちゃんのはかま姿、好きなんだけどなぁ」


「正直、はかま姿にあこがれて入部したようなもんだから、弓道自体はそんなに興味ないんだよね」


 高校の弓道部は女子に大人気だ。一時期ははまったけれど、大会に向けてのレギュラー争いとかに嫌気がささして足が遠のいてしまっている。今更顔を出しても、何しに来たんだって思われるだけだ。


「あ、あのね、これから行く神社って弓道場みたいなのがあるんだよ。……部活がだめならそこに通うとかは?」


「んー、弓道って簡単にお稽古できないんだよね。なんかいろいろ面倒でさ」


「そっか……、残念だな……」


 弓道は好きだし、はかまも好きだけれど、面倒なことをしてまで続けるほどではない。




 

 あまねの言っている神社はちょっと遠く、普段は使わない電車を利用して二駅先にあった。

 駅前にはアーケード商店街があってにぎわっているけれど、異世界に行けそうな雰囲気はみじんもない。


「商店街には入らなくて、こっちみたい」


 あまねはスマホを見ながら、大通りのほうを指さした。そちはら商店街とは打って変わって静かだった。

 そちら側には丘のような山のようなものが見える。生い茂る緑の中に、赤い鳥居が見えた。


「あそこの神社? 山の上の?」


「うん。あそこの神社。けど、不思議スポットはあの神社のある山の、反対側のふもと? っていうのかな。そこに禁足地があって、しめ縄で入れないように囲ってる場所があるんだって」


「……入って大丈夫、なの?」


「……わかんない」


「なんだか……怖いね」


「……うん」


 しめ縄で囲ってる禁足地。入っては駄目な感が半端ない。


「……ひとまず、お守りかおっか」


「うん!」


 小山までの道には影になるような場所がなくて、私たちは真夏の太陽光にじりじり焼かれていた。

 途中でコンビニに避難しようと決めたのだけれど、よりによってコンビニが見当たらない。探してないときはたくさん見つかるのに、探すとなかなか見つからないものだ。


「あっつーい、とけそーう」


 ほとんど溶け出してるような声であまねが言って、


「とけるぅぅぅぅ」


 とわたしもほとんど溶けかけた声を返した。

 しかも、辿り着いた小山のふもとの鳥居の向こうに、目もくらむような長い階段が待っていたのだ。


「え、まじでこれをのぼるの?」


 石造りの大きな鳥居がつくる影で涼を取りつつ、私はタオル地のハンカチで汗を拭いた。


「……ねえあまね、今日はあきらめない?」


「だ、だめ! 約束でしょ!」


「う、でもさぁ」


「……不思議スポットは夏休みに入ってからでもいいけど、……神社は行きたいの」


「……神社が目的だったの?」


 私はてっきり異世界に行くのが最重要課題だと思っていたのに、あまねにとっては違ったようだ。もしかしたら、そもそも異世界に行きたっていうのも、本音は別にあるのだろうか。


「あまねちゃーん?」


「え? な、なに」


 私はにやっと笑った。


「あまねちゃんは、なにを隠しているのかなー?」


 ギクッとあまねが体を震わせたので、やっぱりこれは何かある。


「そ、それは、その」


「異世界とか不思議スポットとか、ほんとはどうでもいいんでしょ?」


「ちが、それはすっごい興味あるの! 肝試しとか、占いとか、……したいし。あと……、」


 ちらっとあまねの目が動いた。そこには神社の赤いノボリがある。


 恋愛成就。


「……お守り……欲しくて」


 そう言ったあまねの顔は、日焼けだとか暑さとはまた違った理由で、真っ赤だった。




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