第9話 予感-よかん-
「え?そ、そうなのか?」
小五郎はめちゃくちゃ驚いていた。この様子を見て逃げるのはとても気がひける。
「なんか小五郎が心配になってきたからトイレ行くの後にするわ」
俺は誠一郎たちの方を振り返ってそう言った。
「いいのか?ここからはお前かなり気まずいだろう」
「そうだよため」
「いいんだよ。ここで逃げたら漢じゃないからさ」
自分でも何言ってんのかよくわかんなかった。案の定とよは首を傾げていた。誠一郎に至っては無反応だった。いや、なんか反応してよ。ガチで言ったと思われるじゃん。
「そうなんです。加藤先輩は為永先輩の親友だって聞きました。それで加藤先輩に色々聞こうと思って連絡先を交換しました」
昌子はとても申し訳なさそうに下を向きながら言った。
「それで卒業式の日に俺に声をかけてきたのか」
「そうです。利用する様な真似してごめんなさい」
昌子が頭を下げてそう言うと小五郎は優しい口調でこう返した。
「でもそれを今言ったって事は昌子ちゃんは俺を利用はしてないよな。本気で利用しようと思うんならずっと黙ったまま俺からための事を聞き出せばよかったんだ。俺に気を使って言う必要なんてなかったんだぞ」
「私は加藤先輩を利用なんてしたくないんです。最初は為永先輩の事の為に話しかけました。でも話してくうちに加藤先輩が凄くいい人でこの人を利用したくないって思うようになりました。例えば今の話だって、もし加藤先輩は私の考えに気づいたとしても為永先輩について色々教えてくれたりしたと思います。今ではそんな人を利用しようとした自分が許せなくて」
そう言った昌子の様子は自分に怒っているようだった。
「結果的に利用してないんならそんな事気にする必要ないぞ」
そこから小五郎は少し小さい声になって続けた。
「それに俺は立場上気づいても気づかなくても協力はできないからな。俺の方こそごめんな」
「そう、ですよね。それに利用してしまいましたし、謝るのは本当に私の方ですよ」
「だからそんなに気にしなくて…」
小五郎が言い終わる間も無く昌子は続けた。
「為永先輩たちが朝からずっといますよね?もう出てきても大丈夫ですよ」
ヤバイ、バレてたのかよ。やっぱり付いていくんじゃなかったわ。いや待てよ、バレてたんならなんであんな事言ったんだ?いやそれよりもこれは素直に出てきた方がいいのかな?俺はそう思いながら誠一郎の方に視線を向けた。すると誠一郎は俺ととよをそれぞれ見て
「ここは素直に出るぞ」
と言った。誠一郎がそう言うと俺たち3人は立ち上がって小五郎と昌子がいる場所まで行った。すると小五郎は物凄く申し訳なさそうな顔になって昌子に謝った。
「俺ちょっした事情があってこいつら呼んでたんだ。本当にごめん昌子ちゃん!」
続けて土下座をして
「ほらこの通りだ」
と言った。俺も自分が絡んでる話だっただけに申し訳なくなったので俺も公衆の面前で土下座は出来なかったけど頭を下げて
「俺の方も聞いちゃっててごめん」
と謝った。
「すまなかった」
「ごめん」
誠一郎ととよも頭を下げて謝っていた。
「謝らないで下さい。私はむしろ皆さんに感謝しているので」
?どういう意味なんだ?
「それじゃあ私先に帰るので加藤先輩は皆さんと一緒に帰って下さい」
俺が考えてる途中で昌子はそう言って駅の方へ一人で走って行ってしまった。すると小五郎は俺の方を見てこう言った。
「なんで昌子ちゃんがお前らがいるのがわかっててあんな事言ったかお前はわかるか?」
「………。俺にはわからないな」
「そうか。わからなかったか」
そう言った小五郎は悲しそうな表情をしていた。そんな小五郎の表情をみて申し訳なくなった俺は小五郎に謝ることにした。
「なんかごめんな小五郎」
「いやいいんだため」
そこから小五郎は俺の肩に手をポンと置いて続けた。
「ただお前は俺らには見えない所で色々気を回したり人がわからないような事がわかるのに女の子の優しさだけはわからないんだな。俺が言えた義理じゃないんだけどな。でもそこだけは本当に気をつけろよ。丸之内を知らず知らずの内に傷付けたりすんなよ。菊地に取られたりしたら元も子もないだろ?それが言いたかっただけだ」
小五郎は本当に俺の事をよく見ていてくれている。だからきっと小五郎の言っている事は事実なんだろう。俺は自分自身が小五郎が言う程人がわからないような事をわかっているつもりはない。だけどそれは俺の主観であって他の人からしたらわからない事なのかもしれない。逆に普通の人が気付けるような事を俺は気づけていないのかもしれない。だけどそれに気付けないと大切な物を失ってしまう。そうなる前に小五郎は正直に俺に言ってくれたんだろう。今ならまだ遅くないから。
「ありがとう小五郎」
気付いたら俺はそう呟いていた。すると小五郎はいきなりのありがとうに驚いたのか照れたようにこう言った。
「お、おう。んじゃ今日帰ったら丸之内にLI連絡しろよ。最近してないんだろ?」
「わかった」
「おう!じゃあ俺らも早く帰ろうぜ!」
「そうだな」
誠一郎が小五郎に同意すると俺たちは駅へ向かって歩き始めた。失恋こそしてないけど小五郎は告白する前に告白できない状況になってしまった。それはきっとフラれるのと同じくらい辛いのかもしれない。そんな状況でもこいつは俺を心配してくれている。なんで俺の周りはこういう奴ばかりなんだろうな。でもなんだろう、あの修羅場が終わっても朝から感じた嫌な予感がまだ消えない。このまま今日が何事も無く終わる気がしない。もっと大変な事が起こるような気がする。なんでだろうか…
「あと二駅だな」
「そうだな」
誠一郎と小五郎がこんな会話をしてると不意に携帯が鳴った。なんだろう?まあ出てみるか。そう思ってポケットから携帯を取り出すと映っていた名前に驚きを隠せなかった。
「すまんちょっと電話だから」
俺はそう言って小五郎たちと離れて電話に出た。
「もしもし恵?」
「うん。そうだよ。ため今から時間ある?」
恵の声はとても小さく聞こえた。
「今電車乗ってるけど二駅くらいで着くから後10分くらいしたら大丈夫だよ」
「うん、わかった。じゃあ駅に着いたらその近くの公園に来て」
「お、おう」
「大事な話があるから」
なんだろうか大事な話って。でもいい事じゃないのはわかる。いや本当はもう心のどこかでなんの話かわかってるのかもしれない。けど俺はそれを認めたくなかった。そして俺はふと朝見たあの黒猫を思い出した。まあそんな訳はないか。ほんと、迷信なんて信じたくないんだけどな…
「わかった。それじゃあ後で」
「うん」
そこで俺は電話を切って小五郎たちの方へ戻った。
「なんの電話だったんだ?」
小五郎が聞いてきた。
「いやなんでもない」
「お前のなんでもないはなんかありそうなんだよな〜」
これ以上この話をすると小五郎には怪しまれそうだな。話題を変えよう。
「それよりお前ら高校どう?」
「ごまかすなよため。お前が隠し事する時はいつも自分が傷付く時だ。だから1人で背負い込まないで言ってくれ。俺たちなら4人全員で喜びも悲しみも共有出来る筈だ!」
相変わらずこいつの言葉は俺の心にグッとくるものがあるな。もう誤魔化せないし言うしかないか。それにこいつらに隠し事なんてやっぱしたくないな。
「わかった。その代わりお前らも辛い時は言えよ」
「おうよ」
「わかった」
「そうだね」
そして俺は小五郎たちにさっきの電話の内容を話した。ちょうど全部話終わる頃に俺たちの最寄駅に着いた。
「じゃあね。また今度」
「じゃあなため。近いうちにまた遊ぼうぜ」
「じゃあな為永」
「またねため」
俺は小五郎と誠一郎ととよに送り出され近くの公園へと歩きだした。嫌な予感てのはつくづく当たるもんだ…