第6話 高校-こうこう-
俺為永為四郎は今日から高校生だ。というわけで新しい高校の制服を着た。
「おお、為四郎似合ってるなぁ〜」
この人は俺の二つ上の兄為永平八。家族の中で唯一俺に優しい。
「おお、ありがとう兄ちゃ〜〜ん!」
俺がそういって兄ちゃんに飛びつくと
「いや似合ってないから。てか朝から2人して暑苦しいんだけど」
と姉ちゃんにゴミを見るような目を向けられながら言われた。
「姉ちゃんもそんなこと言ってる暇あったら彼氏でも作れば?」
「あんたねぇ!最近彼女できたからって調子乗りすぎだからね」
「え!?なんで姉ちゃん俺が彼女できたの知ってんの?」
「わかるわよ。だってあんたここ一ヶ月くらい部屋でめぐみ〜、めぐみ〜とかブツブツ言ってんのよ」
「マジ!?俺そんなこと言ってた?」
「いつも言っててホントキモいから!」
「まあまあ、姉ちゃんも為四郎も喧嘩はそこまでにして」
兄ちゃんがそこで止めたので俺は言い返すのを辞めた。すると姉ちゃんが
「でさ、その子とは同じ高校なの?」
といつもより小さい声でボソっと言った。
「いや違うよ」
「じゃあ取られないように気をつけなさいよ」
姉ちゃんはさっきよりも小さい声でボソっと言った。
「わかってるよ。それじゃあいってきまーす!」
俺は家のドアを開けて言った。
「おう。初日頑張ってこいよ為四郎」
「いってら為四郎!」
今日は珍しく姉ちゃんも返してくれた。
「それではこれで入学式を閉式致します」
校長っぽい人がそう言うと入学式は終わった。これから俺たち新入生はもう一度教室に戻って話を聞いて下校らしい。
「はぁ〜、小五郎も誠一郎も豊太郎もいないしつまんないなぁ〜」
俺は体育館から教室までの道中、思わずそう呟いてしまった。友達作ろうとか思ってたけど、やっぱり行ってみたら行ってみたで中学の時の楽しさを思い出して憂鬱な気分になる。まあ初日から友達なんてできるわけないんだけどね。そんなマイナスな事ばかりを思いながら教室まで歩いていった。
「はぁ〜」
自分の席に座ると思わずため息が出てしまった。
「それじゃあまず筆記用具出せ〜」
先生の話が始まった。いきなり筆記用具か。持ってきといてよかった〜。でも忘れてる人多そうだな。俺も昨日兄ちゃんに言われなきゃ持ってこなかったし。
「やばい筆記用具忘れたー!」
案の定、俺のすぐ前の席からそんな声が聞こえてきた。まあなんていうかドンマイだな。
そんな事を思ってるとそいつは後ろを向き手を合わせながら
「なぁシャーペン1本でいいんだ!貸してください。頼む、ほんとお願いします」
と俺に言ってきた。前の席の奴から借りればいいんじゃないか?とも思ったけど可哀想だし貸してあげる事にした。
「う、うん。これでいい?」
するととても嬉しそうに
「ありがとう、君めっちゃいい人だな。よかったら名前教えてくれない?ちなみに俺は谷岡森羅」
「俺は為永為四郎。よろしく谷岡君!」
「こちらこそよろしく!為永君」
初日からこんなに話せた俺はやっぱりかなりの幸せ者なのかもしれない。
俺は菊地零二。今日から高校生だ。俺は幸せな事に好きな人と同じ高校に進学する事ができた。だがその好きな人、丸之内恵には彼氏がいる。さてどうしたものか…
「あ、おはよう零二君」
そんな事を思ってたら恵とその友達の圭子が来た。
「おはよう恵、圭子」
「ねえ、なんでこいつとまで一緒に行かなきゃ行けないの?」
「まあまあ圭子、同じ電車で同じ学校なんだよ。しかもうちの高校行くの私たち3人だけなんだし仲良くしようよ」
ああ、やっぱり恵は優しいな。それにひきかえ圭子は…はっきり言って圭子さえいなければ俺は恵と2人きりで登校できるんだよ。
「ならお前が1人でいけばいいだろ?」
「なんであんたと恵が2人で行く事になるの?どう考えてもおかしいでしょ!?」
「お前がそんな事言うから言っただけだ」
「あんたねぇ!大体冗談でもそんな事言っわないでよ。恵には…」
「2人とも喧嘩しないでってば!それにもう電車来ちゃうよ」
ガタンゴトン!恵が俺と圭子の口喧嘩を止めると待っていた電車が来た。
「それじゃ乗ろっか」
恵が俺と圭子の方を向いて笑顔でそう言うと俺たち3人は電車に乗った。
30分くらい電車に乗り、そこから15分くらい歩くと目的地の高校に着いた。
「やっと着いたか」
結構距離があった為俺は思わずそう呟いていた。
「そうだね。結構遠かったね」
こういう風にちょっとした呟きにも答えてくれる恵が俺はやっぱり好きだな。まずは今日一緒に帰る事から始めてみるか。
「恵、今日の帰り…」
「恵、零二、あの昇降口に貼ってある紙にクラスが書いてあるんじゃない?」
「そうだね。じゃあ見に行こうか」
俺の声が聞こえていなかったのか途中で圭子の声に遮られてしまった。まあいい、焦る事はないんだ。クラスが一緒になればいくらでもチャンスはある。
「あ、私C組だ」
どうやら恵はC組のようだ。
「うちはB組だね」
圭子はB組のようだ。まあ俺には関係ないけど。後はこれで俺がC組なら良いんだけどな。
「あ、零二君の名前B組にあったよ」
「うわっ」
!?Bなのか?てことは恵とクラス違う上に圭子とクラス一緒じゃないかよ。しかも圭子の奴ガチでうわっとか言ってやがったな。俺と圭子はお互いを睨み合った。そして
「こいつと同じは嫌だ!」
俺と圭子はお互いに同じ言葉を同時に発言してしまった。なんか嫌だな。向こうもそう思ったのか、俺たちはまたお互いを睨み合った。
入学式も無事終わり、俺は小五郎たちと約束していた公園に着いた。
「おうため来たか!」
着いてすぐに小五郎が声をかけてくれた。この辺からだと俺が行く高校が一番遠いからか誠一郎も豊太郎も来ていて俺が一番遅かったようだ。
「それじゃあとよ、全員揃ったことだし今日の夜の話するか」
誠一郎が真剣な表情でそう言うと予定通り今日の夜のとよの告白についての話が始まった。
「俺と凛那が2人とも100%飯も風呂も終わってる夜10時に作戦を開始しようと思う。グループ通話するしみんなも10時くらいには時間を空けといてくれると助かるね」
「おう」
「わかった」
なんだよ作戦って。そんな大層なものでもないと思うんだけど。
「お、おーけー」
まあよくわかんない所もあるけど俺も一応乗ってみた。
「ありがとう」
とよはそう言うと少し間を空けてから続けた。
「そういえば小五郎、いい感じの子とはどうなった?」
「そうだな。結局あの日は会わなかったしどうなったかも聞いてないしな」
え?なんの話?俺だけわかんないの?
「それってなん…」
「あの日はあの子が急に体調崩して行けなかったんだよ。あ、でも日曜日に改めて行く事になったんだ」
おい小五郎!俺の質問遮って言うなよ。
「で、その子にはいつ告白するの?」
とよは凄い興味津々に言っていた。でも今日はお前だからな。
「その日曜日にしようと思う。それと俺の告白の時もみんなにグループ通話で繋げようと思うけどいい?」
「ああ」
「もちろん!」
とよ、人の告白には興味津々だな。まあよくわかんないけどあの時小五郎には世話になったし。
「おう、頑張れよ小五郎!」
「当たり前だろ!任せろため!」
そして俺と小五郎は拳を合わせた。
ブリブリ。俺はうんこをしながら携帯で時間を確認した。
「9時55分…そろそろだな」
ブー!ブー!
「お、始まったか、もしもし」
「お、ためが一番乗りか」
「すまん、急いで風呂出たんだけど遅くなった」
「お、次は誠一郎か。まだ自分の部屋いるし大丈夫だよ。小五郎も出てないしね」
「ちなみに俺も今ケツ拭いてるんで大丈夫です」
「小五郎が出たら凛那の部屋に行こうと思う」
え?豊太郎君無視ですか?
「わかった。後為永、汚い」
誠一郎は反応してくれたけど一言で終わった。みんな俺の扱い酷くない?まあケツも拭き終わったし俺も部屋に戻るか。
「おうすまん。遅れた」
俺が部屋のドアに着いた頃に小五郎がやっとグループ通話に出た。
「これでみんな揃ったね。じゃあみんなマイク切って。行くよ!」
とよがそう言うと電話越しにドアを開けて閉める音がした。そして少ししてコンコン!という音の後に再びとよの声が聞こえてきた。
「凛那、入っていいかな?」