第4話 対峙-たいじ-
「ったく為永のやつどうしたんだ?一言も連絡してこないぞ。夕方には帰るんじゃなかったのか?」
「夜はこれからだからな、連絡できない状況なのかもしんないぞ?」
「いやそれはないな加藤。あいつがそんな事できると思うか?」
「………。無理だな。あいつの事だから緊張でそれどころじゃ…」
ピコン!
「おい加藤携帯鳴ったぞ。為永からじゃないか?」
「おうちょっと見てみる」
そういうと小五郎はポケットから携帯を取り出し開いた。
「『今恵送って来たとこなんだけどどこいる?』だってさ」
「おのれリア充め!」
「あいつ、帰りの電車乗ったら連絡するって言ってなかったか?まあいい、いつもの公園いるって送っと…」
ピコン!
「今度は誠一郎の携帯か?」
「おう、そうだな」
「まさか彼女じゃないよな?誠一郎まで俺を裏切らないよな?」
「ごめん彼女からだ」
「え?」
「あれ?とよ知らなかったのか?誠一郎も卒業式の日の夜後輩からLINEで告られて彼女出来たんだよ」
「ちくしょう!最近は誠一郎にも小五郎にも彼女いなくてみんな非リアだったのにどんどんリア充になってく。せめて小五郎は裏切らないでくれよ?」
「ほんとすまんとよ、凄く言いにくいんだけどさ、俺も今いい感じの女の子がいるんだよな…ちなみに明日はその子と2人で出かけるんだよ」
「まじか。俺も彼女と出かけるの明日だな」
「おおまじかよ!どっかで会うかもな!」
2人がそんな会話をしていると豊太郎は真剣な表情でこう言った。
「俺は今日帰ったら妹に告る!」
豊太郎のその言葉を聞き、小五郎と誠一郎は凍りついた。
よし!もうちょっとで着くぞ。俺は今チャリをこいで小五郎たちが待ってる公園に向かっている。
「おい為永為四郎」
ん?今俺の事呼んだ?まあ気のせいだろ。先を急…ガタン!急に何かにひっかかり俺のチャリは激しく横に倒れ、俺もその反動でチャリから投げ出されて地面に倒れ込んだ。
「痛っ!」
立ち上がろうとしても全身が痛み立ち上がることができない。
「よお為永為四郎。デートから帰って来た気分はどうだ?」
ん?誰だっけこの声。なんか聞いたことあるような気がする。少し痛みがひいてきたので俺はなんとか立ち上がった。
「き、菊地零二」
こいつは菊地零二。同じクラスだったけどそこまで関わりがあるわけでもなかったからそんなに詳しくは知らない。そういやこいつも恵が好きだっていうのを聞いたことがあるような…まあ、噂聞いたの結構前だし大丈夫だろ。てか今デートって言わなかった?なんでこいつ知ってんだ?………。は!誰かバラしたのか?
「覚えてたか。じゃあ俺の好きな人が誰かも覚えてるか?」
ま、まさか!?いやここはしらばっくれよう。
「いやごめん。わ、わからないな〜」
やべ、ちょっと動揺して噛んだ。
「なんだ知らないのか?じゃあ教えてやるよ」
ふう、なんとか誤魔化せた。でもこれって強制的に教えられるパターンじゃん。恵のことで因縁つけられたりしたら嫌だから逃げよう。
「俺の好きな人は…」
菊地が言い終わる前に俺は急いで倒れているチャリを起こし、公園へ向かって全速力で走り出した。そこから公園までそんなに距離はなかったからとばしたらすぐ着いた。辺りはもう暗くなりかけていて、はっきりとは見えないけどその場に立ち尽くしてる3人の人影のような物が見えた。あいつらかな?でもいつもならもっと動いたり話したりしてるよな。声も聞こえないから話してるようにも見えないし違うのかな?俺は他の人影を探すことにした。しかし、周りを見渡しても公園の人影はさっきの3人だけだった。
「やっぱりあいつらかな?だとしたらなんかあったのか?」
俺はその人影に近づいてみた。
「やっぱりお前らか!お前らがサッカーもしないし何も喋んないなんてなんかあったのか?」
俺が聞くと小五郎が俺と誠一郎にだけ聞こえる声で
「お、ためか!ちょっととよが変なこと言ってな、俺たちがそれを否定したら微妙な空気になっちゃったんだよ」
と言った。いったいこいつは何を言ったんだろうか。
「じゃあためも来たし飯行こうぜ!ラーメンでいいか?」
誠一郎がそう言うと俺たちはラーメン屋に向かった。
ラーメン屋に入っても微妙な空気は変わらなかった。相当変なこと言ったんだなとよ。すると、とよが沈黙を破るように口を開いた。
「ためも聞いてくれ。俺は今日帰ったら妹に告る!」
え?こいつ何言ってんの?小五郎と誠一郎もこれ聞いてどう答えてやればいいのかわからなかったんだな。でも今だからわかる。妹だろうが何だろうが自分の想いを届けることは大事だ。
「おう、頑張れよとよ!」
まあ結果はどうであれな。
「さすがためだ。やっぱり同じ変態のお前なら理解してくれると思ったよ!」
おい、確かに俺は変態だけどお前程じゃないぞ!
「おいため本気か?もし失敗したらとよは妹と元の関係に戻れないんだぞ?」
「こいつは妹が大好きなんだぞ?その妹との関係が崩れるのがどんなに辛いことか」
小五郎や誠一郎はこう言っている。確かにその通りだ。だけど好きな人に想いを内に秘めているとずっと心の何処かでモヤモヤする。多分こいつもそうなんだろう。しかもこいつは相手が実の兄妹、一緒に暮らしてる分余計モヤモヤするんだろう。
「お前はここで妹に告らなかったら一生後悔する。でも告って失敗しても後悔する。でもどうせなら挑戦しないで後悔するより挑戦して後悔する方がいいだろ?それにもし告って失敗しても妹と仲良いままでいられる可能性だってある」
俺は自分の考えを全てとよに言った。俺にはとよが妹と今までと変わらずにいられるようにする作戦があるからな。実の兄妹で恋愛なんかあるわけがない。そんな事は俺だってわかってる。きっとよもわかってるはず…いやあいつの場合は微妙だな。
「さすがためだ、やはり同じ変態はすごい」
小五郎、褒めてんの?貶してんの?つかこれ前にお前が俺に言った言葉だからな!
「わかった!入学式の夜に俺は告る。決めた!」
は?入学式の夜?
「おいとよ、今日じゃなかったのか?」
不審に思ったのか小五郎が先に聞いていた。
「やっぱり入学式の夜の方がいい雰囲気になりそうじゃないか?」
そう言うことか。結果は変わらんと思うけど。まああんなに自信満々で言われちゃ何も言えないけど。
「いやどっちも大して変わんないだろ。妹じゃなくてお前の入学式なんだから」
うん。誠一郎が言っちゃったね。
「いや変わるかもしれない。と、とにかく今日は辞めとこう」
そんな事言ってこいつビビってるだけなんじゃないのか?まあ言うとめんどくさそうだから黙っとこう。
「そんな事言ってビビってるだけなんじゃないのか?とよ」
うん。小五郎が言っちゃったね。やっぱりみんな同じ事思ってんだね。
「いや違うよ。あのためが成功できたのは卒業式効果だから俺は入学式効果を使う」
こいつ俺で落とさなきゃ気が済まねえのかよ。まあどうせ誰かが言うし言わないけど。
「おおとよもなかなか考えてるんだな!確かにあのためが成功できたんだから卒業式効果は凄いよな」
「確かにあの為永だからな。なら入学式効果も少し効果あるかもな」
「そうだね、俺とためは同格。つまり俺も成功するな」
こいつら誰も言わないどころかむしろ全員で俺を落としてきた上に納得までしやがった。つかとよもそういう問題じゃない…
「だがそういう問題でもないだろ豊太郎」
そこは言うのかよ。
「そうだぞとよ。大体お前の場合は妹なんだし」
小五郎がそう言うと少しの沈黙の後とよはこう言った。
「卒業式の前の日のための告白、俺は悔しいとか羨ましいとかってのもあったんだけどさ、何よりも感動したんだ。いつも俺とふざけてるためがあんなに勇気がある奴なんだなって、それと同時にいつも同じだ同格だ言ってるくせに俺はそんな勇気もない情けない奴なんだなって。だから俺はためと同格になるために妹に告白するんだ。結果なんてのは最初からもう見えてる事も知ってるよ」
なんだかんだいって実の妹を好きになったこいつは俺なんかよりもずっと辛いのかもな…
「じゃあ入学式の夜頑張れよ!それとその日の告白グループ通話で俺らにも聞かせてくれよ?俺もみんなの前でやった訳だしさ」
俺が笑いながらこう言うととよは
「わかった。ありがとうため」
と少し嬉しそうに言った。そしてさっきまで微妙な空気だった俺たち全員に笑顔が戻った。
「そういや為永、春休み最終日俺たちどっか行こうって話してたんだけどお前も来るよな?」
「おう!行く行く!」
そこから帰るまでの俺たちは春休み最終日の計画やら今までの思い出話やらいつも以上に楽しく話しているような気がした。