第3話 映画-えいが-
「例の日は今日だよ。どうする?」
「そうか、なら今回は俺が動く」
「どう動くつもりなんだ?」
「なぁに、ちょっと為永くんとお話でもしてくるだけさ」
「ああそう、でも俺の事は伏せといてくれよ」
「わかってるさ。バラすのは俺が恵を奪った後だ。女を盗られ、さらには仲間にまで裏切られていると知ったらどんな顔になるか見ものだな」
「まったく、趣味が悪いね〜零二は」
「お前ほどじゃないさ。なあ?裏切り者の豊田くん」
「そんな言い方はやめてくれよ。おれはもう一度ためと仲間に戻りたいだけさ」
「非リアに戻してか?」
「そうさ。ためは俺と同じじゃなきゃ意味がない」
「ったくホント趣味悪いなお前は」
「お互い様さ。じゃ健闘を祈るよ」
そこで電話は切れた。
あ、どうも為永為四郎です!重大なことを発表します。あと2時間したら俺は映画を見に行くのです。なにが重大かって?それは彼女と行くからだよ!すげーテンション高いけど、変な失敗して恵に嫌われるかもって思うと緊張もすごい。でもやっぱり初デートだと思うと最高の気分だ。
「なんて良い日なんだー」
思わず呟いてしまう。
「なによあんた気持ち悪いわね」
今ゴミを見るような目で見て俺を罵倒してきたのは俺の姉為永七瀬。三人兄弟の一番上で俺とは三つ違いで4月から社会人。家族の中で俺への扱いが一番酷い。というか母さんにもこんな感じの対応されるし、父さんは相手にすらしてくれないし、優しいのは兄ちゃんだけかもしれない。
「うっせーな俺だって幸せな日くらいあるんだよー。あははー」
「相変わらず気持ち悪っ!」
いつもなら言い返すところだけど今はとても気分がいいから何を言われても何とも思わなかった。俺はそのまま鼻歌を歌いながらトイレに向かった。ブリブリ。
「うんこはちゃんとしないとね」映画見てる時にしたくなったら終わりだからな。
その頃、小五郎と誠一郎と豊太郎は公園でサッカーしながらこんな話をしていた。
「ため今日デートだって言ってたけど大丈夫かな?」
「あいつの事だからデートで失敗しないか心配だな」
「ためデートで大失敗して振られるんじゃね?そしたらまた俺と同じ万年非リアに逆戻りだな」
「いやとよも頑張って彼女作れよ」
「それができたら苦労しないんだよ」
「まあこんな風に遊べるのもあとちょっとかもな」
「いきなりどうしたんだ?誠一郎」
「いやもう少しでみんなバラバラの高校に行くわけだしさ。それでちょっとな」
「何言ってんだよ!高校行ってもこのメンバーとためでみんなで遊ぶぞ!」
「か、加藤。それじゃ春休み最終日にみんなでどっか行こうぜ!」
「おう!」
やばいもうこんな時間だ!時計を見ると11時30分、集合時間まであと30分だ。ちなみに集合場所は駅で家から駅まで約20分。そろそろでるか。
「いってきまーす!」
俺は大声で叫びながら玄関を出て自転車に乗る。ドキドキだよ。ばかやろー!テンションが高くてすれ違った女子高生に元気な挨拶してみた。
「こんにちはー!」
「………」
案の定無視された。しかもすごく怖がっていた。そして集合時間の15分前についた。
「少し速かったかな?」
と思ったらもう恵はそこに来ていた。
「ごめん、まった?」
「まってないよ」
優しい笑顔で返された。うれしー。あれ?これ男と女逆じゃね?ま、いいか。そして俺たちはホームに向かう。予定より早く駅に着いたから少し電車が来るまで時間があった。やばいなんか緊張する。こういう時って何話せばいいんだろう?そんな事をずっと考えていると一言も話せないまま電車は来てしまった。
「じゃあ乗ろっか」
と一言だけ言って俺たちは電車に乗った。今度こそなんか話すぞ!と気構えてた。でも何も話せないまま2駅が過ぎてしまった。恵の方をチラ見して見るとどうやら恵も緊張しているようだ。そんな気がするだけだけど。それにしても私服かわいすぎだろ。ふと気が付くと俺は恵をガン見してしまっていた。俺の視線に恵も気づいてしまったようでこっちを向いたので勇気を出して言ってみた。
「私服かわいいね」
「ありがとう」
「うん」
なんかすげー恥ずかしい。
「ためってば緊張しすぎだよ」
今度は恵から話しかけてくれたぞ!
「そ、そうかな?め、恵は緊張してないの?」
思いきって俺も聞いてみた。すると
「うん。ちょっとだけ」
と少し恥ずかしそうに答えてくれた。恥ずかしそうにしてるのもかわいな〜。
「だよね〜!やっぱり緊張するよね」
そこから俺たちは少しずつ打ち解けていき次第になれてきた。
「あ、次の駅だねもう降りようか」
「そだね」
俺たちは席を立ち電車を降り、映画館へと向かった。平日ではあったが混んでいて太陽もでていたので3月だけど少し暑かった。ワキガ臭ってないよな。心配になった。映画館につき券を買い中に入った。中は空いていたのでほとんど人がいなかった。二人で隣に座る。なれてきたとはいえさすがに映画館は緊張するな。
「楽しみだね」
と話しかけてみる。
「そだね」
笑顔で返された。なんか嬉しい。それにしても映画館ってなんかエロいよな。ってなに考えてんだ。そんな事を考えているとじきに映画が始まった。
「ポップコーンうま」
思わず呟いてしまった。あぶねー!恵には聞こえてなかったようだ。よかった〜。そして映画が終わり映画館の講堂を出た。
「おもしろかったね」
「うん!」
こんな会話でも幸せだった。
「なんか記念にストラップでも買わない?」思いきって聞いてみた。
「いいよ」
やったあ!恵がそう言ってくれたので俺たちは映画館の売店へ向かい買い物をすることにした。
「うーん、何がいいかな?」
恵は首を傾げながら呟いていた。よしここは男らしく俺が決めるか!
「さっき見た映画のストラップ買うのはどうかな?」
俺は提案をしてみた。かなりベタだけど。
「うん。じゃあそうしよっか!」
恵が俺の提案に乗ってくれたので俺たちは今見てきた映画のオソロいのストラップを買った。
「じゃあ帰る?」
「うん」
そして俺たちは建物を出た。外に出ると来た時に真上にあった太陽がもう沈み始めている。後は帰るだけ…幸せな時間も終わりが近づいてきたな。
「今日は楽しかったね」
「うん。ため映画館でポップコーンうまとか言ってたでしょ?あれ聞こえて笑いそうになっちゃった」
まじかよ!あれ聞こえてたのかよ。絶対聞こえてないと思ってたのに。
「え?あれ聞こえてたの?すごい恥かしい」
「そんな事ないよ、ポップコーン美味しかったもんね」
なんという事だ。俺のフォローまでしてくれたぞ。
「あ、駅見えてきたよため」
「そうだね」
そこからしばらく歩くと駅に着き、電車に乗った。帰りの電車での会話は行きの電車の時とは全く違って二人とも心を打ち明けたみたいな会話だった。そして駅まで着いた。最後くらい男らしい事しないと。
「どうせなら家まで送ってくよ」
まあ当たり前っちゃ当たり前の事なんだけどちょっと照れながら俺は言った。
「ありがとう」
拒否られなくて良かった。家まで付いてこないでとかは恵だし言わないと思ったけどごめん大丈夫くらいは言われると思った。まあ本当は嫌だったのかもしれないけどありがとうって言ってくれたので俺は恵を家まで送る。
「バイバイ」
恵はそう言って俺に手を振ってくれた。
「じゃあ」
俺は照れながら手を降る。俺の頬が夕日と同じように赤く染まったいった。
「あ!」
俺はここで重要な事を忘れている事に気付いてしまった。
「やべっ!あいつらに連絡するの忘れてた。この後飯行く約束してたんだった」