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3、勘違い

 俺は椿のことが見えるが、ゴゴは椿のことが見えないらしい。なんで俺だけ見えるんだろう。でもそんなの誰もわかるわけないだろうと思って特につっこんではいない。見えていようが見えてなかろうが俺たち三人は友達だ。

だから、思い切って言ってみることにした。成仏大作戦のことを。

「…成仏、か」

「なんだよゴゴ、ご不満?」

「ううん。なんか、三人離れ離れになる日が現実みを帯びて…いたッ」

「別れの日を思うより、今を楽しもうぜゴゴ。それに、幽霊がいつまでもこの世界にいていいわけない。そうだろ?」

「…椿ちゃんはどう思うの?」

椿の方を見ると、椿は「私は成仏してもらいたいよ」というのでそのまま伝える。

「そっか。椿ちゃんがそう思うなら俺もお手伝いするよ」

「よっし、一緒に頑張ろうぜゴゴ」

「うん!」


「「学校に行く?」」

俺とゴゴの声がハモる。最近気が付いたのだが筆談をすれば俺がいちいち介さなくても会話が成り立つのだ。まあ、その書いたものをこっそり処分するのが難しいんだけど。その紙に書かれたのは「学校に行く」というかわいらしい文字。

「どういうことだよ椿?」

「さーくんとの約束。思い出してみてるんだ。で、一個思い出した。学校にいきたいなあっていう私のこと、いつもさーくん、学校に連れてってやるっていってた!」

「なるほどなあ」

「え、なになに?」

椿は急いで紙に書き、ゴゴに見せるとゴゴは椅子から立ち上がった。

「なら早速いってみようよ!ここの病院の目の前には小学校もあるしね!」

「お前意外と行動力あるよな…」

「ね、いこいこ!」

「はいはい…。ほら、椿もいくぞ」

「う、うん…」


 久しぶりに外に出る。屋上閉鎖されてからかれこれ一か月、ほとんど部屋からでずにこいつら二人と遊んでたからなあ。

「あっつい…」

「もう夏だもんねえ」

「幽霊だから季節感じないなあ、暑いも寒いもなにもないもん…」

「は?羨ましい」

「…!ばか!ほんとデリカシーないさーくん!ぷんぷん!」

「はあ…?」

「ふふ、二人とも仲好さそうでいいなあ」

「よくねえし!」「よくないわよ!」

そんなこんなで学校についたが小6で病気になって以来来ていないからなんか校舎もきれいになっているし変わり果てた小学校に俺はぽかーんとしてしまう。

「ここ、ナナ君の母校?」

「まあな」

懐かしいな、この校庭をみんなで走り回ってサッカーをして、鬼ごっことかして…。そんなみんなはもう、いないけどな。

「ね、ね、私遊具で遊んでみたい!」

「ほら、好きに遊んで来い」

「わーい!」

嬉しそうに飛んでいく椿は遊具を自由自在にわたって遊んでいる。俺とゴゴはその様子を笑って眺めた。

「嬉しいな…。はは、楽しそう」

「椿ちゃんはもうずっと小さい時から病気だったんだっけ」

「ああ。もう生まれてからずっと病院暮らしだったみてえ。だから学校にも一度も通ったことがない。こうやって遊ぶこともできなかったんだ」

「そ、っか…」

「おい椿!あんまはしゃぎすぎて遊具から落ちるなよ!」

「あー!さーくん馬鹿にした!落ちないもん!幽霊だから!」

幽霊だから。あいつがそういうたびにあいつが死んだ事実を突きつけられるようで胸が痛かった。でも、幽霊だから、今こうしてのびのびと遊ぶあいつを見ていられるんだ。なら、幽霊の椿だっていいじゃないか。死んだって、あいつはあいつなんだ。

「あ、さーくん、さーくん!」

遊具からおりて俺の元へと駆け寄る椿。

「一緒に走ろうよ!」


“さーくん、いちもいつかさーくんみたいにこんな管だらけの身体じゃなくても生きていけるかな”

“あったりめえだろ。そしたらもっと広い場所で思いっきり走ろう”


「ああ。…ゴゴ、お前も走ろう」

「え、お、俺は…」

「もしかして病気で走れねえとかか?なら休んでろ」

「ち、違う!走る!」

「そっか!じゃあ三人で走るぞ!」

そして俺は何年振りかに思いっきり走った。隣に椿がいて、隣にゴゴがいる。

右をみれば椿がこの上ないほど気持ちよさそうに走る。

「さーくん!私きもちい!走るのきもちい、さーくんとこうして走れて、嬉しい!」

左をみればゴゴが楽しそうに走る。でも運動は慣れていないのかな。

「ゴゴ!ほら手つかめ!」

「ナナ君…!うん!俺、走るの楽しい!」

ぐっとゴゴの手をつかみ、ひっぱりながら俺は走った。追い風が俺たちの背中を押していた。


 校舎のなかがみたいという椿の願いは流石にやめておこうと思ったがどうやら世間では夏休みらしく校舎に誰もいなかった。

「あーここだ、俺が病気になる直前までいた教室。五年三組」

「すごーい!ほんとにドラマとかでみるような…!ねえねえさーくんの席は?」

「3番だったからそこ、右の前から三番目」

たたたっと椿はそこへ駆け寄り、席に着く。

「さーくん先生!」

「はいはい」

ぱたぱた…

「やっべ!誰かくる!ゴゴ、どっか隠れろ!」

「え、え…?」

俺は急いで教壇の下に隠れた。ゴゴは掃除用具入れに隠れたらしい。

「…おかしいな、なにか物音がしたような気がしたんだが」

聞き覚えのある声だな。

「何してるんだ、3番」

「ひッ」

その聞き覚えのある声で俺の学校での呼び名を呼ばれる。俺は腹をくくって教壇から出た。そしてその声の主の顔を見る。

「…!先生!」

それは五年三組の担任の先生だった。

「先生…俺のこと覚えてるんですか」

「当たり前だろう。自分の生徒だぞ。3番、君は入院したんじゃ。もうよくなったのか?」

「いえ…。ちょっとその。いろいろあって…」

「お見舞いにいけずに申し訳なかった。あと、俺のせいで君のことを傷つけてしまったかもしれない。それが謝りたかったんだよ」

「はい?」

思い返しても先生に謝られるようなことはないように思える。

「君が入院した時、君の友達は一回お見舞いに行ったそうだね」

「そうですね。そのあと二度と来ませんでしたけど。あんなのは友達じゃありません」

「違うんだ。それは私のせいなのだよ。お見舞いにいった彼らが変わり果てた君の姿にかなりショックを受けてしまってね。良くなったらいうから、そうしたらまた見に行ってあげなさい、と言ってしまったんだ」

「え…」

「でも君のお母さんから特によくなったという連絡はないどころか…」

「余命宣告、ですか」

「…そうだ」

やっぱりされてたか。俺には絶対母さん言わなかったけれどまあどんどん番号が若くなっていくんだから余命宣告されているようなものだ。

「だから私が行かせなかったんだ。申し訳ない。君を一人で辛い思いをさせてしまった。この通りだ」

そういって先生は頭を下げた。

信じられなかった。ということはあいつらは別に一回こっきりの仲じゃなかった…?本当はまたお見舞いに来たかったんじゃないのか…?


 帰り道、俺の意識はふわふわしていた。

椿がわめいていても、ゴゴが心配そうに声をかけても。

「ねーさーくん?さーくんってばあ」

「ナナ君どうしたの?さっきからずっと上の空で…」

「あ、ああ…」

今まで俺が疑心暗鬼だったのはなんだったんだろうか。もう何が真実なんだ。なにもわからなかった。遠ざけたのはあいつらじゃなく俺なのか?

ガツンッ!

「ッ」「ナナ君!…す、すみません」

人とすれちがいざまにぶつかったらしい。しかし上の空の俺はそれにも気が付かなかった。…のだが。

「…?サン?」

俺はその呼び方に心当たりがあった。足を止めた。振り返った。

男が三人、並んでいた。その顔だちは見たことがないが、なんだか見覚えのあるような、ないような…。

「お前、サンだろ…?覚えてるか?俺ハチだよ!」

「俺キュー!」

「俺ジュウ!」


“おーいサン!鬼ごっこしようぜ。三秒数えるからな!ハーチ”

“キューウ”

“ジューウ”

“まてーーー!”


「お、お前ら…!」

思い出した。こいつらは小学校の時一番俺とよく遊んでいたハチキュージュウ三人組だ!

「ナナ君のお友達?」

「あ、ああ…」

三人は俺の元へと駆け寄る。

「もう二度と会えないかと思った…」

「悪いな、一回しかお見舞いいけなくて…」

「俺たちもいきたかったんだけど、かなり病状悪そうだったから迷惑かけたくなかったんだよ」

なんだこれ、泣きそう。

「担任からも止められて、でもいつかよくなる連絡がくるって待ってる間に卒業しちゃって…」

「連絡取るすべがなくなっちゃったんだよ」

「病院に直接いこうにも忙しかったり勇気がなかったりで…」

俺がずっと今まで信じ込んでたのは嘘だったんだから。

地位のために俺と友達だった?こいつらが?

「会いたかった、サン!会いたかった…!」

「元気そうじゃん、よかった!」

「サン、また遊ぼうぜ!」

こんな、泣きそうになりながら俺を抱きしめるこいつらが?そんなわけないだろう。だからこそ俺は言えなかった。もう余命わずかなこと。まだ病院にいること。

「ありがとな、お前ら。俺、引っ越して県外にいるんだよ。今日はばあちゃんちにくるためにこっち来てただけなんだ」

「そっか…!また遊ぼうぜ、連絡先、ほら」

三人は連絡先を丁寧に紙に書いてくれた。俺は苦し紛れに受け取った。俺から連絡することは絶対に、ない。

こいつらに別れの悲しさを味わわせるわけには、いかない。

「またな!」「遊ぼうな!」「連絡して来いよ!」

「ああ、また、な」

そうして去っていく三人の背中に向かって俺は小さく「ありがとな」と呟いた。



 その夜。ゴゴはもう部屋に戻っていた。

「さーくん、良かったね」

「あ?」

「今日。さーくんにはまだ大切なお友達がいたじゃない」

「…そうだな。全部俺の勘違いだったんだ」

「ほんとにね。連絡はしないの?大切なお友達」

「大切な友達だからしないんだよ。連絡とったってまたすぐ別れがくる。死別という一生の別れだ。そんなつらいおもい、あいつらにさせたくない。だからこれでいい。また昔みたいに笑えたから、それでいいんだ」

俺は三人からもらった連絡先の紙をゴミ箱に捨てた。

「…そっか」

「でもお前はまだここにいる、と」

「なによお、ご不満?」

「いや、でも成仏できてねえから約束はこれじゃなかったんだなって」

すると椿は天井にはりつくように浮遊した。

「そうだねえ。でもいいんだ。今日すっごく楽しかった!はじめての学校で、はじめて一緒におもいっきりさーくんと走れた。すっごく幸せだった。いつか一緒に走りたいってずっと思ってたの。でも私の身体じゃ無理なのわかってた。だから、死んで、こうして幽霊になってまた会えてよかった」

「…椿」

その言葉に俺は迷うのだ。

成仏させたらこいつはどこかへ行ってしまう。そしたら今みたいに走ることもできなくなってしまうかもしれない。それはこいつの本望なのだろうか。

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