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現代における黒猫が目の前を横切る時に運んでくる不運について

作者: 沢沢沢山

 この前の話だ。

 とある仕事帰り、街の明かりが目を刺す中を私は自転車に乗って走っていた。

 私が通勤に自転車を使い始めたのは最近の事で、慣れるまで少し時間はかかったが、何度も使っている内に何とか普通に自転車で通勤している人間らしくなってきたところ、具体的に言えば転ぶ事や人を引く事への恐怖より、早く走った時の風を切る気持ちよさが上回て来た時の事だった。

 私の通勤に使う道には川の近くにある道を走る区間がある。

 片側は川、もう片側はやれテニスコートやらサッカーコートやら、住宅やらが立ち並ぶ道だ。

 その道を私は走っていた。

 風が強い日で、しかもそれが向かい風のせいか、自転車の速度がこいでもこいでも出ず、足が疲れる始末、それでも早く帰りたかったので必死に濃いでいた。

 すると、目の前の道路を川側からテニスコートの方へ私の前を横切る形で黒猫が通り過ぎて行った。


 黒猫が道を横切ると悪い事が起こる。


 私の脳裏にその言葉が浮かぶ。

 しかし、何のそんな迷信、黒猫は遠目で見る分には可愛いモノだし、はてさてどんな災いが起きるのやらと思いながら私はその事を少しは気に留めたが、ほとんど忘れて風を浴びながら別の取り止めもない事を考えていた。

 やはり風が強く、なかなか進まない、スピードが出ずにふらつく。

 どうにか勢いが出ないものか考えた時に、私はふと思いついた。

 どこかのアニメで見たように、そこらの人間でもやっているように、立漕ぎをすればいいのではないかと。

 自転車初心者である私は立漕ぎをしたことがいまだになかった。

 だが、モノは試しだ、一度やってみようではないか、そう思い立つ。

 街中で急いでいる学生がやっていたように、主婦が電動アシスト自転車を立漕ぎし坂を行くように、あんな風にやれば私にもできるであろうと思っていた。

 思い立ったが吉日、私はサドルから腰を浮かしてみる、がこれが難しい、何が悪いのかペダルがうまく回らないのだ。

 一度サドルに腰を落とし、一息、何が悪かったのか思案を巡らす。

だがなんだかいけそうな気がする、行けるのではないか。

 胸に期待を持ってもう一度、踏み出す。


 ぐらりぐらりと車体が揺れて次の瞬間、私の体の下から自転車がいなくなり、道路にカエルのような恰好でたたきつけられた。


 かなり強かに打ちつけられ、私は少しの間呆然としたが、体の痛みで我に帰ってこのまま道の真ん中で倒れていては邪魔になるし最悪他の自転車に轢かれる、と思い立ちあがり、道のわきの雑草の群れの中に倒れた自転車を起こして、押しながら歩き出す。

 長いズボンでひざが隠れていたのですりむきはしなかったが歩くたびに鈍痛となんだか骨がおかしくなったような感覚がして、手袋なんてしていない手、それも聞き手の右腕が切れて血が出てキリキリする。

 もう自転車をこいで行ける体ではなくなってしまい、渋々歩いて帰った。そして次の日は膝がまだ痛んだので自転車に乗らずに電車に乗ったのだ。



 この出来事から私は思う。

 今回の私の不運は私が黒猫が横切ったから起こったのではないかと。

 何も昔の迷信が世界の真実だったという事ではない。

 その迷信の事を知っていて、実際はそれは迷信だから不運なんておこらないと思い込み、心に慢心を生んだ事で、自分には出来ない立漕ぎが出来るかもしれないと勘違いをしてしまったのかもしれない、という事だ。

 迷信は迷信、不運が起こるか起こらないかとは全く関係ない、なのに頭の隅にその考えを置いてしまったがためにそんな錯覚を起こしてしまったのではないかと思った。

 昔の迷信を色々と知っている人間は実際にそれが目の前で起こった時に油断しない方がいい、もしかすると私のように痛い目に合うかもしれないから。

 まあ、私みたいな頭の悪い人間だからそんな事が起こったのだろうが。

自分が世界に対して見せた情けない姿を、どうにか賢い風に言い訳つけているように見えなくもない。

逆に滑稽。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 黒猫の伝説、一例だけでも、確実な実例があれば十分だと思います。良い情報を頂きました。 [一言] 黒猫がわざわざ目の前を横切るなんて余り無い。 自転車で怪我をするのも、年に一回あるかどう…
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