『気持ち』
「はぁ...はぁ...いた!」
スマホを見ながら走って数分で、篠崎が送ってきた場所に着いた。
「おーい!篠崎!桃!」
「せ、先輩!?あ、あぁ...えっと...」
「急に走ってったから心配で...探したぞ桃。」
「あ...その...ごめんなさいなのです。」
「いや謝る事じゃ...ああ、篠崎もありがとな。助かったよ。」
「今度このお礼はしてもらうので、問題ありません。」
「...お、おう...」
...しまった。面倒な相手を頼ってしまった。
「...と、とにかく。桃、どうしたんだ?俺、なんかまずい事でも言ったか?」
「ち、違うのです!先輩は何も悪い事はしてないのです。私が...その...」
うつむきがちに話す桃は、何か恥ずかしそうに、目を向けては反らしを繰り返す。
これってもしかして、本当に篠崎の言ってた通りなんだろうか?
そう思い、篠崎を見るが、相変わらずすました顔で紅茶を飲んでいた。
「えっと...なんて言うか、先輩が褒めてくれたのは嬉しかったのです。でもその...は、恥ずかしくて...」
...おい。マジか。本当に篠崎の言ってた通りだぞ。
また篠崎の方を見るが、やはりすました顔で黙って座っている。
一体こいつは俺含めどこまで人を見透かしているのだろうか...。
「ま、まぁ、あの時言った事は本当にそう思っただけだし、そんなに恥ずかしがらなくてもいいと思うぞ?」
「〜〜〜〜〜!!??」
「......はぁ...」
...え?何?その二人の反応。
ーー
「ふぅ〜〜いやぁ〜楽しかったなぁ?色々あったけど。」
「今更出てきておいて色々で済ますなよこのやろう。」
午後6時。ショッピングモールからの帰り際。
みんなクタクタの中、ただ一人いつもの調子を維持するこいつを見ていると無性にどついてやりたくなる。
「(まぁ確かに、色々大変だったなぁ。)」
結局、午前は桃の件で潰れてしまった。
その後も、竜が厄介事(女性客を手当たり次第にナンパして警備員のお世話になる)を起こしたり、竜の面倒事(試食コーナーの食べ物を一人で全部食ってその場の全員ごと白い目で見られる)を起こしたりで大変だった。
「あ、じゃあ俺こっちなんで。じゃな!」
終始変わらぬ陽気な声で、諸悪の根源は去っていった。
が、例え一人帰ったところで然程の変わりはない。なぜなら...
「ったく、結局あんたは何がしたかったのよ!?」
「私は皆さんを観察することで、色々と情報を得るために来たのですよ。」
この二人だ。
この二人こそ邪悪なる魔王。人の話も事情もお構いなしで、ただこちらが困るのを楽しむ。
まさに魔王そのもの。
「ほら朱、お前家そっちだろ?さっさと帰んないと、また真沙子さんに余計な心配かけるぞ。」
「ぐ...仕方ないわね...あんた達、誰もいないからって変なことすんじゃないわよ!?」
何故か負け犬的な言い回しで釘を刺すと、踵を返して帰って行った。
「ふぅ...なぁ?篠崎の家ってこっからどんくらいなんだ?」
「徒歩でも10分程ですが...それが何か?」
「ん〜そっか...じゃあ家まで送るよ。もう暗いし…」
腕時計を見ると、既に時刻は午後7時。色々話しながら歩いていたからか、随分と時間が経っていたようだ。
「そう...ですか。なんだか意外です。」
「は?何がだ?」
突然の「意外です。」発言に、俺の方が驚きを感じてしまう。
別に変なことは言ってないと思うのだが...
「しっかり恋人らしい事をしているからですよ。最初はそんなに乗り気ではなかったはずですが?」
あぁ...なるほど。
「まぁ確かに、最初は渋々だったけど、今は普通に楽しんでるかもなぁ...」
「?何故ですか?」
「なんとなく、あんたとつるんでるのが楽しいんだよ。」
「...そう...ですか。」
ーー
「うぉぉぉ......」
それから歩いて数分、篠崎が足を止めたのは、周りの家とは敷地面積も外観もまるで違う豪邸だった。
「あ、あんたこんなとこに住んでんのか...?」
「はい。父が医者を、母は弁護士をしておりまして。」
...とんでもねぇ大富豪だわ。
「では、私はこれで...」
「あ、あぁ、おう。」
「......それと一つ。」
「ん?なんだ?」
今度はどんなメチャクチャな要求をするつもりだ。
「...今日は、楽しかったです。今度は二人で行きましょう。」
「......え?」
二人で?つまりそれは...
「それと、私のことは『美琴』と呼んでください。私もこれからは、『悠谷』と呼びます。なので...」
「家まで送っていただき、ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。悠谷。」