『悩み』
「はぁ...はぁ...」
桃を追いかけて来たが...
「(どこだよここ!?)」
いかんせん場所が分からん。
なんせここに来たのは朱と竜の三人で、去年の冬に来た一回きりだ。分かるはずもない。
「ったく、急にどうしたってんだ...」
ゼェゼェと息を吐く。最近運動してなかったからなのか、この多すぎる人混みにやられたか分からんが、ここではとにかく体力を使う。
「...クソ!」
俺がもう一度走り出そうとした時...
「どうしました?そんなに慌てて。」
「...?篠崎?」
日傘らしき白い傘をさして、篠崎が現れた。
「ちょっと桃を探しててな。急に走って行っちまって、どうしたんだか。」
「それは、貴方が何かしたのでは?」
「...?何かと言うと?」
「よく思い出してください。稲荷さんが走り去る前に何があったか。」
何か?確か、服を選んでいたよな...。
で、俺が最高の選択をして、そしたら急に桃が逃げ出して...
「...ダメだ。分からん。」
「詳しく聞かせてください。その時の状況を。」
「えーと...まず桃と服を選んでいてだな...」
「あぁ、はい。もう分かりました結構です。」
「えぇぇぇ!!??今ので何が何処がどうやって分かったの!?」
「大方、貴方が余計に彼女を褒めたのでしょう。稲荷さんはああいうタイプですから、恥ずかしくてならなかったのではないですか?」
「いやいや、褒められて恥ずかしいのは分からなくもないけど、それだけであんな全力疾走するかぁ?」
「...はぁ。貴方は本当に、鈍感な天然人誑しなのですね。アニメの主人公のようです。」
その言葉が少なくとも褒め言葉じゃないのは分かるよ。うん。
「と、とにかく探してくる。見かけたら教えてくれ。」
ーー
「(今頃二人で何してんのかしら...あぁ...もっと強引でもいいから連れ出せば良かった...)」
ちょうど良い日陰で休んでいた朱は、今更そんなことを考えていた。
と...
「朱!」
「...何よ竜。今はあんたにかまってやれる体力と気力が...」
「いや、竜じゃなくて俺だけど...」
「え?...うわぁぁぁ!?悠谷!?なんでこんなとこに...」
「いや、桃を探しててな。見なかったか?」
「見てないけど...何?あんた何したの?」
「なんで俺が何かした事前提なんだよ。いや合ってるけど。」
「まぁあの子あんな感じだしね。さっさと見つけてあげなさい。」
ーー
『あぁ〜、そりゃお前の選択ミス。』
『えぇぇぇ!!??何処が!?』
走っていたら竜を見つけて、事情を説明したらこれだ。
...一体俺が何をしたって言うんだ。
『まぁなんつーか。とっとと桃ちゃん見つけてやれ。』
朱と同じ事言いやがって...
『はぁ...まぁ分かった。またな。』
『でさ、なんで目の前にいるのに電話なのかな?』
と言う今更な発言に、俺は二階からすぐ下にいる竜を見下ろす。
『いや、なんか面と向かって話すの嫌だなぁ〜って思って。』
『何それ!?もはや俺の顔も見たくないと!?相談する癖に顔の一つもおが...』
ブツッ!...ツー...ツー...
「よし!桃探そう。」
さっさと通話を切り、また桃を探しに走り出した。