其の9 特殊部隊VS須佐
連合軍は逃げ延びるだけである。退却などと云うものではない。地面を這いずり、腰を抜かす者、恐怖からの遁走である。武器など置いて行った。ただ、ただ山中を逃げた。
「化け物退治じゃないか!いや、俺たちは奴らの餌だ!無理だ!逃げろ!」
4隊に別れて行動する特殊部隊は、どの隊も動きを止めた。
しかし2隊は機関銃とライフルを持って行動した。
部落は未だ姿を消している。「部落を壊滅する」・・それが任務であるが、現実は未だ山中で須佐と戦うのが先だ。
状況判断として皆、同じ考えになった。
特殊部隊の遺体を何体か視た。槍や手裏剣で串刺しになったまま放置されていた。
「ここら辺りで襲われたのか・・・・ロビンソン、トミー、お前たち、槍が出来たな」
「はい。これを持って行きます」
「よし、後の者は爆弾を仕掛けろ」
夜を待った。闇に隠れて行動が出来る。しかし・・・
逢魔時または大禍時
黄昏時を云う。魔物に遭遇する時間、あるいは大きな災禍を蒙る時間。
外国人は日本の古くからの言い伝えなど知らない。魑魅魍魎が、跋扈し始める時間なのである。
兵は土の中に潜ったり、木に上り木と一体化したりした。罠も仕掛けた。待ち伏せである。
ざわざわざわ。
「な、何だ?人声がする。大勢だ」兵たちはあたりを見回した。
「南蛮人が須佐部落の結界の中に居るとさ」
「そうけ、探して喰ってやろう」
「あれは?・・・・」兵達は声はたてないが、その正体を視て、つい声を上げた。
「うわ!」
視ると一つ目の人間や牛鬼、鴉天狗、其の他諸々の魑魅魍魎が松明を持って、自分達を探している。
「声がしたぞ!彼処だ!」
ぎゃあ、ぎゃあ。
「まずい!見付かった」
「須佐殿ーーーー!居りましたぞーーー!」
「土中の爆弾を使え!」兵達は後方に下がりスイッチを押した。
「死ね!化け物共!」
ずずん!ずん!ずん!
ぎゃあ、ぎゃあ。ぐわあああ。
妖怪たちは火達磨だ。
火の手が上がり、辺りが明るくなった。
上を視ると木に人間がいた。
「須佐だ!」
上から須佐隊数十名が降って来た。
ずさーーーん!
「兵隊さん、生き残りかい?」
特殊部隊が音も無く須佐の後ろから近づき、一人を羽交い締めにしてナイフを首に突きつけた。
「視ろ!須佐供!仲間を殺すぞ!」
すると其の須佐の首が180度廻って、特殊部隊兵と眼が合った。
「う、うわ!」
腕も180度廻って特殊部隊兵を刀で刺した。
「ぐ、ぐうう、ば、ばけもの・・・」
そして首を刎ねた。
その須佐を兵が後ろから銃で撃った。
パン!パン!パン!パン!
「ぐお!」
須佐が倒れた。
「佐吉ーー!」
兵が、すかさす刀を拾った。
「視ろ!須佐と云えども撃たれれば死ぬぞ!」
兵たちは須佐の目の前に位置を取った。
刀を抜こうと手を背中にやった時、すかさずナイフで刺した。
「ぐう!」
ナイフで滅多刺しにした。
須佐は2人目が倒れた。
爆発音を聞いた2隊が駆けつけた。須佐と特殊部隊が接近戦の真っ最中だ。
「加勢しろ!」
彼らは機銃を持っていた。
バリバリバリ!
当たらない。弾が避けてしまう。「どういうことだ?」
加勢組の1兵の顔がパッカリと2つに割れた。側に居た兵が目を疑った。
ヒュン!上から刀を持った須佐が飛んで来た。その須佐が空中で頭を斬り裂いたのだ。
「懐に飛び込め!」小隊長が叫んだ。
ガツ!兵は須佐が刀を持つ手を掴み、首を締めた。「そうだ!ウイルソン、お前の怪力なら勝てる!」
其のまま、須佐を木に叩き付けた。何度も叩き付けた。身体がダラッとして刀を落とした。其処をナイフで刺し殺した。ウイルソンは刀を手に入れた。
ヒューーーン。ブス!ブス!ブス!
「ぐあああああ」
何処からか手裏剣が飛んで来てウイルソンを滅多刺しにし、そして倒れ臥して死んだ。
「手裏剣の音がしたら木に隠れろ!」
ヒューーーン、ヒューーーン。
隠れた瞬間、反対側から槍が飛んで来た。
ヒューーーン、ヒューーーン。
グサ!
4、5人の兵が頭を串刺しにされた。
土中からあの人喰い蟲がゾロゾロと這い出て来た。
「止まるな!動くんだ!」
妖しい雲が夜空を覆っていた。其の雲はもう1つの隊が居る場所に移動していた。
そして・・・・雷の嵐が1点に集中した。
どどーーーん!ばかーーーーん!爆発音と共に火の手が上がった。
「うわああああああーーー」「ぎゃああああーーー」
「あの声は・・・仲間だ・・・・やられたか・・・」
特殊部隊は此処の3隊のみになった。
小隊長が辺りを見回すと、兵と須佐が戦っていたが・・・・。
鎌を振り回す須佐に首を刎ねられる者、刀でなますの如く斬られる者、須佐を数人倒したが、それが限界だった。
「我々も全滅か・・・」
戦い合う間から1人の須佐が此方に歩いて来る。
「あいつ・・・・貫禄のある奴だ」
目の前まで来て訪ねられた。
「お前が隊長か?」
「きさま、誰だ?」
「須佐部落長・武角」
「きさまが武角か・・・」
「お前の隊はもうすぐ全滅だ。命を斯うか?」
「巫山戯るな!お前等みたいな、ならず者に!」
「むん!」
武角が電光石火の如く、隊長の右腕を切り落とした。
「う・・・ぐぐ・・・・」
それでも彼は左手で奪った刀で武角に迫った。
「うおおおおおーーーー!!!」
キャリーーーン!
数度、刀と刀がぶつかり合ったが、武角が斬り裂いた。
「ぐあああ・・・うううう」
フラフラになりながら、まだ隊長は戦おうとしていた。
「うおおおおお」
武角は避けながら、腹をかっ捌いた。
「お・・・お・・・う・・」
そして隊長は倒れた。
「とどめをさしてやる」
「こ、これまでか・・・・俺は・・須佐部落を見付けられずに死ぬのか?・・・・」
「やめろ!武角!」
武角が後ろを振り向くと須佐之男が立っていた。
「す、須佐之男さま!」
「もう善い。解放しろ」
すると須佐部落が現れた。
部落、山中の須佐たちも皆、平伏した。
「し、しかし、こやつらは歴史上無いほど、御上を・・・・」
「粗人は、こんなことは望んでいない」
「で、ですが・・・・」
「もう十分だよ。其の亜米利加兵を部落で介抱してやれ」
「須佐之男さま、それは・・・・」
「武角、おまえたちは何だ?」
「御上の軍団です」
「御上を守るのが仕事か?」
「う!」
「違うだろう?お前の気持ちはわかるが、これでは惨殺だ。此の後は大戦争をするか?大災害を起こすか?世界の罪も無い市民をも巻き添えにして皆殺しにするか?」
「わ、わたしはただ・・・・」
「武角、御上はマッカーサーに会見を申し込むぞ」
「え?」
「後はあの方に任せろ」
「何をしに?下手したら拘束されますよ」
「賭けだよ。草案は佐助が作った」
「草案?佐助が?」
「こうなることを彼は予見していた」
翌朝、隊長は解放された。朝、山麓で倒れ込んでいたのだ。
「一体、何があった?何故、俺は生きている?」斬り傷は消えていた。武器は取り上げられていた。
「傷が跡形も無い・・・・・」
ぼーーーっと山間を見つめた。そして柏手を2回打ち、お辞儀をした。
そして人里を探しに歩き始めた。
「須佐か・・・遥かな者達だな」