其の7 地獄の釜
ソ連が参戦を拒否して来た。
「共産主義が・・・くそったれめ。ボナー、どう視る?」執務室で大佐が聞いた。
「須佐とは戦わない・・・と、云っております。日露戦争時、中国で捉えた日本兵が吠えていたそうです」
「60年以上前じゃないか」
「ソビエトは須佐の情報を掴んでいるのだと思います。あまり信用もしていなかったらしいのですが・・・彼らは超能力戦士を開発していたのは、ご存知ですね?」
「うむ。戯けた開発だ」
「今回、須佐が出て来て慌てたそうです。情報通りだとしたら・・・と。超能力開発している國からすれば、 其れがどういうものか、知っているのでしょう」
「臆病風に吹かれただけじゃないのか?」
空爆隊から連絡が入った。
「指示された位置に部落などありません。レーダーに写りません。目視でも存在しません」
「どういうことだ?」
「空間をねじ曲げて部落を異界、異空間に隠したのです」
「構わん、其処ら周辺を根絶やしにしろ。何かしらのカモフラージュだ」と命令した。
空爆機が数機、大掛かりな空爆を行った。
ドカーン、グワーン。
山中に忽ち火の手が上がった。山は崩れ、土砂が襲った。
「視ろ!あれじゃ、何も残らないぞ!はっは!」
ふと操縦士が横窓を視ると、人がへばりついていた。
「な、何だ?!!!」
須佐の者である。ニコッと笑って消えた。
次の瞬間、火だるまの何かが爆撃機目指して飛んで来た。
「危ない!旋回しろ!」
旋回したが其の何かは付いて来る。大手裏剣だ。
ズガーーーン!
其の手裏剣は機を真っ二つにすると遥かに飛んで行った。
「う、うわあーーーー」
二つの襤褸機体になって落ちていった。
「や、やられた!」
グアッ、グアー。
「おい、何か飛んで来るぞ」
もう一機に向かって大きな鳥の大群が飛んで来た。八咫烏だ。
「撃て!」
バリバリバリ!
戦闘機が飛んで来た。空中戦だ。機銃掃射!
バリバリバリ!バリバリバリ!
八咫烏は直角に避けている。
戦闘機目掛けて突っ込んで来た。大きな嘴で機を破壊した。
グワア–––––ン!
木端微塵である。
大手裏剣が頭上から戻って来た。
もう一機の爆撃機は上から真っ二つにされた。
ぐわしゃーーーーん!
残りの戦闘機は八咫烏に機体を噛まれて粉々にされたり、操縦席を嘴で突かれ、其処から出されて身体を噛み砕かれた。
一機は信じられない光景を視た。機の翼に須佐の者が立っていた。背中から剣を取出すと翼を斬った。そして消えた。
一機のみ逃げ延びた。
「化物です!奴らは化物集団です!」逃げながら指令本部に連絡したが、前方に剣を構える須佐が大手裏剣に乗って待ち構えている。。
「うわ!」
剣から雷炎が出た。
ゴオオオオオオオーーーーー!
「うわああああ」
機は火に包まれて一瞬にして融けた。
平野にテントで構えた作戦本部では声も出ない。
「こんな戦いがあるか・・・作戦中止だ」
「もう、地上部隊も部落を目指しています」
「中止勧告を出せ」
バン!バン!バン!「何だ?」
機器が全て破裂した。何処とも連絡が取れなくなった。
「通信兵!どうした?」
「解りません。壊れました。修理不可能です」
「うああああ」
バリバリバリ!ズガーン!バキューン!
「外が騒がしいな」
司令官が将校達と外を視た。
「な!!?」
たった一人の須佐が数百人の兵を相手に戦っていた。人間の動きではない。武角である。
「司令官は、どいつだ!われは須佐の部落長・武角!顔を視せろ!」
兵隊が続々と集まって来た。
「わたしだ。何と豪気なものだな。化物が!」
「お前たちは孤立した。叫んでも助けは来ない。此処で地獄を視ろ」
「貴様、連合軍相手に微弱な人数で勝てるとでも思っているのか?奴を殺せ!」
兵たちが一斉に撃った。
武角が電光石火の如く、空に舞い上がり、燃え盛る剣を出した。
「上だ!撃て!」
ブワ!!武角の剣から雷炎が発射された。
地上に撃つと一気に燃え広がった。
「ぎゃあああああああ」
焼け死ぬ者が続出した。
残った兵たちが機関銃を武角に雨のごとく撃った。
「化け物!化け物ーーー!!死ね!」
武角が手のひらを回すと弾は全て手前に落ちた。
「バズーカ砲だ!」
ドドーーーン!
またも武角が手のひらを回すと弾が180度翻った。
「うわあああああーーー!!」
ドドーーーン!
撃った兵士に当たった。
「うわ!うわああーー」
狂ったように兵士たちは機関銃を撃ちまくった。
武角が兵士に手を掲げると其の兵士が破裂した。
ぱん!
肉片や、首、手足がそこらに飛んだ。
「あ、あいつ・・・何をした?」
周りの兵士たちは、睨んだだけで破裂した。
ぱん!ぱん!ぱん!ぱん!ぱん!ぱん!
「うわあああああーーー!!む、無理だ!逃げろ!」
「戦車隊!あの化け物を撃て!」
武角が地面に刀を刺した。
「むん!」
バキバキバキ!
地割れが起きたと思ったら、大穴がいくつも開いた。
ズドーーーーン!バカーーン!どどどどどどど!
其の下には溶岩が流れている。
「うぎゃあああ」「助けてくれーーーー!」「ああああーーー!」
「な、なんでこんな処に溶岩が!う、おわああああああ」
次々と兵隊たちが落ちて行った。
戦車や兵舎、作戦本部まで崩れていった。
「た、退避!退避ーーーー!」
車で逃げて行く将軍たちに雷砲を浴びせた。
ズガーーーーン!
「わあーーー!し、将軍がやられたぞ!逃げろーーー!」兵士達は武器も置いて逃げ惑っている。
穴から豪火が吹き出した。
ゴウゴウ。
空から八咫烏共が舞って来て、兵士を嘴で摘んで空中に放り投げた。他の八咫烏が其れを八つ裂きにした。
「そ、空からも来るぞ!」
作戦本部や兵舎が一瞬で焼け野原になった。本部が殲滅した。
逃げ切れた兵士も居たが、遺体さえ残っていなかった。
「み、視ろ。後ろを・・・」通信機が意味が無く成った。
部落に突撃した兵隊は孤立した。
「本部が無くなったぞ。どうする?」
「どうするって・・・逃げ場も無いぞ」
GHQに連絡が入った。戦闘機隊が空から視ていた。
「地を割っただと?本部が全滅?・・・・」マッカーサーは、其の報告に息を吞んだ。
「須佐を人数だけで視てはいけない。自然をも牛耳っている・・・」フェラーズは身震いした。
「彼等の云う世界戦とは軍武力じゃない。武角が云った通りだ。大津波、大地震、大颱風・・・正にカタストロフィ(大変動、終末)を起こせる」
「一個師団がめちゃめちゃだ」
「将軍や士官たちが全て戦死しました」
「なんだと?」
「狙っていたと思われます。指揮官を殺せば、彼らは烏合の衆です」