其の6 此の世の地獄を視せてやろう
2日後、彼等は土から出された。首は腐り始めて異臭を発していた。
武角が「帰れ!」と云った。
「我々を殺さないのか?」
「帰ってマッカーサーに伝えろ。須佐が皆殺しにしてやると」
「貴様、亜米利加や他の大国と戦う気か?世界を敵に回す気か?!此の國は無く成るぞ」
「俺は此処から広島のきのこ雲を視た・・・」
「・・・・・」
「お前等こそが本当の残虐者だ。目の前で視た事などお遊びだと思わないか?」
「連合軍一個師団が此処を襲うぞ!」
「来てみろ。此の世の地獄を視せてやろう」
と、云って発煙筒を渡した。
「一部始終をお偉いさんに伝えな」
彼等はふらふらになりながら逃げた。1人は正気を失っている。鳥居の外へ逃げて発煙筒を炊いた。任務終了の合図である。其の後、ヘリが迎えに来ると乗組員は魂消た。
別人のようになっていた。武器も持っていない。1兵は発狂している。
「何があった?2日も連絡が無いとは。他の連中はどうした?」
「一瞬にして殺られた。俺達は拷問にあった。屯でも無い連中だ。直ぐさま報告をしたい」
GHQ本部に連絡が入った。
「何だと?!特殊部隊が全滅?!何があった?此の國は狂っているぞ。ボナー、奴らはやる気だ!一個師団1万を出動させろ!殲滅だ!
「信長の饗談と同じだ・・・」フェラーズは、思った。
フェラーズは、部屋に拘束されている佐助に会いに行った。
「佐助さん、須佐と連合軍の戦いが始まります」
「そうですか・・・」
フェラーズは成り行きを説明した。
「武角さまが、米軍特殊部隊を殲滅?!」
「襲撃隊ではありません、偵察隊が殺られたんです。遣り方が残虐です。連合軍は1万の兵を導入してます」
「連合軍の國は?」
「亜米利加、英連邦軍・・・英吉利、印度、ニュージーランド、オーストラリア、ソ連、中国、阿蘭陀、カナダです。出雲には亜米利加軍を主体として四国、中国に進駐していた英吉利、印度軍が参戦します」
「そんなに多くの國が・・・・」
「昔、天皇が裁かれれば、須佐が出るかもしれない・・・あなたはそう云った。国際問題になりますよ。無条件降伏をした國の反逆一派と取るでしょう。いや、彼等は天皇の軍族。此の國は軍国を放棄していない・・・大義を掲げて連合軍が出て来ます。負けるわけにはいかない戦いです」
「あなた方の戦争の常識は火力だと思っている。しかし、須佐との戦いでは何の意味も持たない。10年戦争になり、世界は滅茶苦茶になります」
「100人たらずの武兵が、近代兵器を携えた世界の大国を相手にする・・・と云うのですか?」
「其処まではどうだか・・・最小限でも数カ国は此の世から無く成る」
「どちらが勝つか?じゃない。わたしは争いは避けたい。日本を守りたい。だから疾走しているのに」
「武角さまも部落を長を須佐を守るため全力で阻止するでしょう」
「連合軍も同じです。軍国主義を祓うために戦う」
「日本軍とは全く異なります。天の戰さを仕掛けて来る」
「天の戰さ・・・」
「此の世の戰さではありません。連合軍は翻弄され、全滅します」
「1万の兵ですよ」
「数など関係ない。火力も関係ない。其れを理解しない限り、あなた方は負けます」
「あなたは抗戦に賛成のような発言をする」
「我らや御上は、そんなことは望んでいない。我らは人世のことに関与しないのが本筋です」
「須佐に触れることは禁忌(タブ–)?」
「御上に触れるからです。武角さまは2千年以上、御上を守って来た」
「2千年以上・・・・」
「こう云っては何ですが、わたしには武角さまの心情が解る。Mr.フェラーズならお解りになるのではないですか?」
「愛国心より深いもの・・・・」
「Mr.フェラーズ、明治時代・・・いや、幕末の孝明天皇がわれらを傍に置いたのは、押し寄せる国際化の対処のためです。戦国時代のような戰さは無く成る。此れからは内戦だろうが世論や国際法、世界が、国連が絡んで来る。叩き潰せば勝ち・・・などと云う時代ではなくなると解っていたんです。一番頼りになり、危険でもある須佐を、側に置くしかいないと思ったのでしょう」
四方の海 みなはらからと 思ふ世に など波風の たちさわぐらむ
明治天皇の平和愛好の歌です。現天皇は常に此の歌を拝誦(はいしょう~謹んで読む)して、紹述しようと努めていました」
「何を暢気な!今回の戦いは・・・」
「わたしを、御上を信用してください」
「信用?あなたも須佐ではないですか?須佐は天皇の軍隊、信用出来ない!」
フェラーズは部屋を出て行った。
「・・・・・しかし・・・須佐ならこんな拘束など感嘆に逃げ果せるはず・・・・なぜ、おとなしく此処に居る?・・・」
フェラーズは河合道を思い浮かべた。
河合の恵泉女学院は基督教である。戦時中、憲兵隊に睨まれた。河合は何度も検挙され、訊問を受けている。国家神道、愛国心に反する・・・と云う理由である。時に過酷な仕打ちも受けていた。
「此の戦争は間違っている」
河合は堂々と生徒達に教壇から述べた。
出雲が騒がしい。
「何故_こんな重装備が敷かれる?」どの隊もそう思った。無論、須佐のファイルは渡されている。「現人?現世に降りた神の軍団だと?亜米利加さんも血迷ってるなあ。戦争のし過ぎじゃないか?頭のどこかに弾が残ってないか?」皆、笑った。たかを括った。
しかし、括っていない隊が居た。亜米利加軍特殊部隊、後のグリーンベレー。其の後、総勢48名が集まった。
彼等は大隊とは別行動、自己責任に於いて任務遂行を任される唯一の部隊である。
「生き残った仲間を視たろう?ジョンは精神病棟入り、スパローは暫く行動出来ない有様だ。スパローのことは皆、善く知ってるな。嘘を付く奴ではないし、冷静沈着、且つ愛国心の者だ。彼の調書を信じろ」
「隊長、彼等は人間では無いと?」
「そうだ、歴史上、そんな者と戦ったのは古代羅馬兵か?気を抜くな。何が起ころうと冷静に任務を遂行しろ!」
出雲の山中である。山岳部隊が主であるが、此の特殊部隊は抜きん出ている。
「我々の本業である、ゲリラ戦で行く。10名づつの小隊を作り、四方から散開して襲え。仲間の弔い合戦だ!」
「イエス・サー!」
まずは空挺隊の空爆である。
「山中の小さな部落を?大げさだな。すぐ済むさ」