其の4 殴り込み
9月2日、横須賀沖の米戦艦ミズリー号上で、日本降伏文書調印。此の時、連合国軍総司令部(GHQ)は横浜税関に置かれていた。
フェラーズはマッカーサーに聞いた。「天皇は絞首刑ですか?」
「裁判にかける。君の調書にある通り、天皇を裁けば国民一揆が起こる可能性が大きい。慎重に行わなければいけないが・・・」
フェラーズは思った。
「日本人は全滅を掛けてでも天皇と殉死するだろう。奴隷になるなら死を選ぶ・・・」
「ボナー、日本市民たちは天皇の姿を視たことはあるのか?」と、マッカーサーが聞いた。
「多分、無いでしょう」
「存在を疑わないのか?」
翌日、総司令部上空を一匹の鴉が飛んでいた。
「随分、大きな烏だな」MPが呟いた。其の時、車から飛び降りるなり、ビル目掛けて、すっ飛んで来る若者が居た。
「ボナー・フェラーズ准将は、居りますか?!」佐助である。随分と慌てている。
「貴様!何だ?!」玄関警備のMP数人が機関銃を向けた。「フリーズ!」
「わたしは皇宮警察の者だ。緊急にフェラーズ准将に会いたい!」
「帰れ!日本人!」佐助は両腕を抑えられ、首は十字に機関銃で静止された。2人ばかりは機関銃を向けている。
「マッカーサー元帥が、マッカーサー元帥が殺されますぞ!フェラーズ准将ーーーー!」
「外が騒がしくないか?」フェラーズは、自公務室で側近に聞いた。
「警備の者ですが」「入れ」
「失礼します。玄関で日本人の若者が騒いでおりまして・・・准将の名を叫んでおります」
「日本人の若者?」
「なんでも、自分は皇宮警察の者だと。フェラーズ准将に会わせろと」
「Mr. 佐助だ!」
「元帥が殺されると叫んでおります」
「何だと?!すぐ行く!」
フェラーズは玄関に飛んだ。
「フェラーズ准将、フェラーズ准将!」佐助は玄関先でMPに取り押さえられながら叫んでいた。
「皆、大丈夫。離しなさい。私の友人だ」
MPはブツブツ云いながら解放した。
「佐助さん!どうしたんですか?!」
「族長が!武角さまが、マッカーサー元帥を抹殺しに来ます」
「な、なんだって?!何時?」
「もう来てます。中にもう居るかもしれない」
「本部の中に?あり得ない。警戒厳重な此の本部内に入るなど」
ズーーーーン!「うわあああああああーーーー」ガウーーーーン!「ぐぁあああああ」
「な、何だ?」
皆が本部中を伺った。
「あれは武角さまです。もう始まってます」
「MPは数人残して、わたしと来い!」
「フェラーズさん、わたしでないと止められませんよ」
「佐助さん!此処からは外国です。あなたは入れない。此処でお待ち願いたい」
フェラーズはMPを連れて中に戻った。全員、銃と機関銃を構えている。
「なんと云う大胆な奴。あの写真に写っていた奴だな。・・・しかし、何処から入った?」
「うう!!!」
廊下でフェラーズとMP達が視た光景は、信じられないものだった。
兵たちが宙に浮いて壁に張り付いていた。手には銃を持っていたが、全く動けないみたいだ。
「じゅ、准将・・・」
「だ、大丈夫か?!な、何があった?!」
壁から剥がそうしたが剥がせない。「協力な磁石のようにくっついている・・・・」
「に、忍者です・・・・忍者が・・・閣下の部屋に・・・まっすぐ・・・進んで行っています・・・・あ、あれは化け物です」
「応援を呼べ!外もぐるりと兵で固めろ!」
フェラーズは、銃を構えながら其のままマッカーサーの執務室にゆっくり進んで行った。
壁には兵が幾人も張り付いていた。
「じゅ、准将・・・准将」
「いま、応援が来る。我慢してくれ・・・」
執務室のドアが人形に焼けこげて穴が開いていた。
「閣下!」
「ボナー・・・・・」
「閣下!大丈夫ですか!」中を覗いた。
「入りなよ。兵隊さん」
耳慣れない声が中から聞こえた。
フェラーズは、中に入った。
「ぐ、ぐう!」
丁度、将軍たちと打ち合わせをしていたらしい。10人ほど部屋には居たが、1人は天井に張り付いていた。2人ばかり壁にめり込んでいる。
其の他の者たちは、銃をマッカーサーと忍者に向けられていた。
マッカーサーは、椅子に座らされて忍者に首を刀で充てられていた。
「貴様!何者だ!日本人だな!反逆者か?!」
忍者はニタッと笑って、こう云った。
「我らを怒らせたいか?此の毛唐共が!」
応援がやって来た。
「閣下!」10人の兵がやって来て機関銃が向けられた。
「我らを怒らせたいか?毛唐!」
「忍者め、此の状況でよくもそんな事が云えたもんだ。鉄砲玉か?貴様」
「須佐武角・・・・だな?」フェラーズがそう聞いた。
忍者はびっくりした顔をした。何故?俺の名を知っている?と云う顔だ。
「武角さまーーー!いけません!殺してはいけません!」
外から佐助が叫んでいた。
「佐助・・・・」武角が外を見やった。
「武角!閣下を殺したら、どうなるかわかるか?!」
「貴様・・・名は?」
「ボナー・フェラーズ准将だ。いいか、其の時は連合軍、世界の大国が本気で日本を潰すぞ!国際法違反だからな。原爆をゴミのように落とすぞ。いくら須佐でも対応出来るか?貴様らの暴走で日本を潰すか?!」
武角がまたニヤッとした。
「我は警告に来たのだ」
すると人差し指を翳した。
ズン!
本部全体が大きく揺れた。
「では、世界に天変地異を起こしてやろうか?」
そして手のひらを前に向けた。
ぐわああああああーーーーー!
突風と雷雲が部屋内に起きた。兵やフェラーズ、机やら椅子やらが飛ばされた。
「うわあああああーーー」ガシャーーーーン!ドシャーーーーン!
部屋の中がぐしゃぐしゃだ。
「み、皆、大丈夫か?!」
視るとマッカーサーは椅子に座ったままで、武角は消えていた。
「な、何だ?居ないぞ!何処に行った?」兵達が、ふらふらと起き上がりながらそう云った。
「なんだ?今のは?!」
「ボナー!」
「閣下、ご無事ですか?」
「お前、奴を知っているのか?」
「イエスサー・・・・」
「下で騒いでいる、あの若造もか?」
「イエスサー・・・・」
「あの若造を拘束しろ!」
「閣下」
「許さん!許さんぞ!ジャップめ!」
彼等に触れることは禁忌(タブ–)である・・・・