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須佐妖戦帖 第4章「マッカーサーの憂鬱」  作者: 蚰蜒(ゲジゲジ)
3/12

其の3 須佐佐助

「先生は須佐之男は少年だと云った。しかし、此の写真は15、6年は前の物だろう。此の少年が須佐之男なら30歳にはなっている・・・何故?少年などと云ったのか?」


其れからフェラーズは柳田のノートを読み始めた。

○八岐大蛇記

○白面金毛九尾狐事件

○須佐一族と信長

○幕末・若日子


まだあるらしいが、此の5冊までが出来上がったものであるらしい。

表題は「須佐妖戦帖」。

戦国時代から大正時代の解説と体験談だ。


1935年、フェラーズは陸軍指揮幕僚大学、卒業論文として「日本兵の心理(The Psychology of the Japanese Soldier)」を書いた。

1936年、フィリピン軍管区司令部附兼フィリピン軍事顧問参謀になる。

1937年、フィリピン軍軍事顧問だったダグラス・マッカーサー、フィリピン独立準備政府ケソン大統領と共に3度目の来日。2・26事件後、日中戦争へ向かう日本を其の眼で視た。マッカーサー一行の歓迎レセプションには、一色ゆり夫妻(旧姓渡辺ゆり)の姿も視得た。其の後、フェラーズは、フィリピンから米国に戻り、陸軍大学に入学する。


1938年、4度目の来日。軍隊、出征兵士たちを監察した。

柳田は、昨年末、病にて没した。此の年の再会は柳田の墓前だった。

「先生、貴方に聞きたいことが、まだ山程あった」


フェラーズは柳田の自宅にも出向いた。子息・武雄氏は23歳になり、結婚していた。職業は医師である。長男を授かった。名を隆と云う。まだ赤子である。「父は好きでした。考古学者として立派な経歴を残したけれど、オカルト研究は嫌いでした。愚の研究です。わたしは、変人の子供と虐められ、育った。父の独自の研究は、誰にも認められず逝った。わたしは米利幹(メリケン~アメリカンの発音からだが、愚人と云う意味がある)など嫌いだ。もう二度と此処には来ないで頂きたい!」と、追い返された。


フェラーズは皇宮警察にコンタクトを取った。特殊機関の者に会いたいと。柳田から其処にコンタクトを取りなさい、と云われていた。しかし、そんな機関は無い・・・と、返事が来たが、一人の警察内の者が会ってくれると云う。

日比谷のカフェで待ち合わせた。


フェラーズは先に来て待っていた。

「Mr.フェラーズ?」

「Yes」

振り向くと黒のスーツを来た20代後半の男が立っていた。

「皇宮警察の須佐佐助と云います」流暢りゅうちょうな英語だ。

「あっ!」フェラーズは真っ青になった。此の男は柳田から貰った写真の男、須佐之男の後で笑っていた男ではないのか?!須佐佐助!「外伝 須佐一族と信長」に明記される武角たけつのの腹心と同じ名!」


「Mr.フェラーズ、柳田先生はわたしの大切な友人でした。先生から生前、連絡が来て、あなたがまた日本に来たら会ってやってくれと。だから会おうと思いました。わたしは皇宮警察内の特殊機関にいます。あなたがコンタクトを取った機関の者です」

「須佐一族の方ですね」

「先生から色色、聞きましたか?」

「はい、其れも随分、昔です。しかし話ばかりで実は未だ疑うを得ないのです」

「あなたが知りたいことは解っています。ちょっと、外を視てください」

「はい?」

「あの屋根の上のからすが視得ますか?」

「はい」

「足を視て」

「ん?・・・・ん?あれは?!」

「3本視得ますか」

「んん?」

八咫烏やたがらすと云う鴉です。今日は共に来たんです」

「八咫烏!記紀に出てくる鴉?」

「もう少し視ててください」

其の鴉が悠寛ゆっくりと人に変化へんげした。しのびの少女にである。

「ああ!」

其の少女は一礼すると消えた。

「何かの手品に視得ましたか?」

「どんな仕掛けですか?あれは?」

「外に野良猫がいますね」

其の野良猫が故知等を向いた時、人の顔になりニヤッと笑った。

「う!うわああーーー!」

フェラーズが大声を出したので回りの客が一斉に彼を視た。

「ダ、大丈夫デス。ナ、何デモナイデス」

「天井を・・・」

天井から忍の者が浮き出て来て、天井に張り付いている。

フェラーズは、また叫び声を出しそうになり、口を塞いだ。

終いには馬程の白狐が眼前に表れた。

「うわあ!」

また回りの客が一斉に彼を視た。

「白狐は、回りの人には視得ません」

「佐助、何か用?」白狐が喋った。

「いや、何でもないけど、柳田先生の亜米利加の友人だよ」

「あら、先生の?初めまして」ニコっと笑った。

「もう消えてもいいよ」

「何よ!其の態度、いけ好かない!」白狐は怒って消えてしまった。


フェラーズは、がたがた震えていた。「此れは、手品などでは決して無い」

「Mr.フェラーズ、大丈夫ですか?」

「あ、あ、あれは何ですか?」

「われらの仲間です。普段、こんなことは、しません。故先生の名誉のためにお視せした」

「柳田教授の・・・」

「先生は、大学の研究では認められたけど変人扱いされた。われらとの関係のせいで」

フェラーズは、柳田の話を根底に話を続けた。

「Mr.須佐、あなたは「白面金毛九尾狐事件」「須佐一族と信長」に出て来る佐助さんですか?燃える妖刀と手裏剣、電磁波の嵐で信長軍を一気に殲滅させた志能備しのび?」

「はい」

「柳田教授から貰った写真に写っているのも貴方ですか?」

「先生の写真?ああ、ご子息と一緒に須佐部落で撮ったもの?そうです。先生、子供が生まれたと云って大喜びで奥さんと遥々、部落まで遣って来てくれたんです。私が列車で東京から出雲まで案内したんです」

「貴方は如何程の時を生きていらっしゃる?まるでバンパイアだ。歳を取っていない・・・・写真の少年は須佐之男ですか?やはり、今も変わらず?」

「われらは血など吸いませんよ」佐助が笑った。「写真の?はい。須佐之男様はわれら一族全体のおさです。先生のノートは読みました?」

「はい」

「なら話が早い。われらは不死ではないことも御存知のはず」

志能備しのびである貴方が何故?皇宮警察内に?」

「明治の御上(天皇)の計らいです。身の傍に須佐を置きたいと。安倍系陰陽師も居ります」


「Mr.須佐、あまり時間がない。あなたとはまたお会いしたい。可能ですか?」

「可能ですが、時代がそうさせるかどうか」

「日本の動向ですね」

「はい、危険です。此の侭では将来、亜米利加と戦争をするでしょう。軍の暴走が始まります」

「はい、亜米利加では皆、そう思っています。既に対応を検討しています。あなた方は武人です。出て来ますか?超自然の力をもって」

「われらは御上自身の武体。其れだけです」

「もし、日本が負けて天皇が絞首刑にでもなったら?」

「其の時は、あまの力をもって、われらは守ります。邪魔をすれば地獄に落とす」

ゴクリ・・・フェラーズは、唾を呑んだ。


「有り難う、Mr.須佐。大いなる意見交換を」

「また、何時か会いましょう。Mr.フェラーズ」

そして二人は別れた。


「柳田教授の本は・・・・彼等の存在は・・・信じられぬが、本当のようだ」フェラーズは思案していた。

天皇には日本軍隊の他に容易ならぬ、もう一つの異質な軍隊が存在することを確信した。

「國民は誰も知らないのか?」

フェラーズは佐助の率直さ、高貴さに異質な何かを感じた。そして、配下の妖艶あやし気な者達・・・彼は寒気がして来た。

「亜米利加は彼等と戦ったら勝てるか?・・・・」


彼等に触れることは禁忌(タブ–)である


350年前の甲賀衆の言葉がよぎった。


1941年12月8日、彼等の心配通り、真珠湾奇襲攻撃によって日米が開戦した。

どんな理由があるにしろ、此の資源も何も無い小さな國が大國10数カ國を相手に戦争を行うなど、狂気の沙汰である。マッカーサーは見抜いていた。

「狂った猿共だ」

ハルノートによって、日本軍は怒りの頂点に達し、奇襲攻撃を敢行かんこうした。

1943年9月、フェラーズは、日米開戦後にフィリピンからオーストラリアのブリスベンまで退却した南西太平洋軍司令官マッカーサーに請われ、司令部統合計画本部長、マッカーサー軍事秘書、PWB=心理作戦本部長として就任した。


1944年、心理作戦において、天皇と軍部の関係が軸だった。

フェラーズの「日本への回答」(Answer to Japan)では、「国家元首として天皇は戦争責任を免れない。彼は太平洋戦争に加担した人物で、戦争扇動者である。彼が認定した東条が政府を掌握。天皇支持を得たことで、あらゆる狂気を行うことが出来た」とした。


1945年4月、「対日心理作戦のための基本軍事計画」では、「天皇には攻撃を避けるべきだ。天皇を排して国民の反感を買うのは危険である。しかし、適切な時期に天皇を利用する」少し考えが変わって来ている。

日本本土空襲が行われている時期で、既に勝利を予感している。


1945年8月、広島と長崎に原子爆弾が落とされる。通常ピカドン。

軍部は其れでも戦争続行を貫いた。武器も兵も何も無いのにである。

「大和魂で貫く」らしい。


1945年8月15日、天皇陛下は玉音放送を行った。そして、日本は敗戦した。

元より天皇が国策に口を出すことは、憲法違反である。其れを知りつつ自ら戦争を止めた。玉音放送の録音技師は自殺をした。


1945年8月30日、フェラーズは、戦勝国の総司令官マッカーサーの副官として日本に上陸する。

「結局、須佐は出て来なかったな。元帥に話さなくて善かった。頭が怪訝おかしくなったか?と云われたに決まってる」

先ずは、一色ゆりと河合道、小泉子息たちの安否を知りたかった。

Mr.佐助はどうなった?

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