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須佐妖戦帖 第4章「マッカーサーの憂鬱」  作者: 蚰蜒(ゲジゲジ)
10/12

其の10 会見

「特殊部隊の生き残りは、2名?・・・死傷者3500?・・・」

マッカーサーは、報告を聞き返してそう呟き、上を向いて眼を閉じた。

「閣下・・・・」


「フェラーズ准将じゅんしょう

「何だい?パワーズ少佐」

フォービアン・バワーズ - 1917(大正6)年生まれ。28歳、アメリカ陸軍少佐。フェラーズとは異なった日本通である。進駐後、皇国思想をあおる危険性があるとして歌舞伎演目の殆どが、上演禁止になったのを解禁する努力をしてくれた軍人である。「ぼくは占領政策の反対者。フタマタモノ(二股者)でした。ぼくの旗は半分はアメリカの旗、半分は歌舞伎の旗」


竹内文書たけのうちのもんじょを知っていますか?」

「タケノウチ・ノート?」

「天皇が世界の王だった古代の話です」

「何だって?」

基督キリストもモーセも弟子だって云う話です」

出鱈目でたらめだろ?」

「はい、わたしもフェイク・ノートだと思いますが、案外、的外れでは無いんじゃないか?と思えて来ました」


「お前たちは何を云ってる?!負け戦だ!大打撃だ!敗戦国を処理しに来た連合軍が負けたんだぞ。トルーマンに何と報告する?」

「其のままを・・・」

「日本の神様が出て来て負けましたと云うのか?大統領はわたしの頭が怪訝おかしくなったと思い、帰国更迭こうてつするぞ。いや、例えば敗戦に反対する反乱軍の決起だったとうそぶこう。それでも負け戦だ」

「日本軍が、すでに戦闘機も無いことは知れております。空軍の全滅の説明が・・・出来ません」

「岩国基地も空からの攻撃にあった。調査団でも派遣されたらすぐバレる。世界のマスコミに、こんなことが知れたら・・・・総司令部を引っ越す。皇居の目のまん前だ。監視をおこたるな」



此の時期、連合国軍総司令部は横浜税関に置かれていた。皇居前第一生命ビルを接収し、総司令部は皇居前・第一生命ビルに移動した。

10月2日、連合国軍最高司令官総本部(GHQ/SCAP)を設置。

其の間、「マッカーサー閣下に会いたい」と、天皇から申し出があった。


「ボナー、皇居前に総司令部を設置と共に、天皇からわたしに会見を申し込んで来た」

「どのような話をしに来る気なのでしょう」

「わからん、脅しかもしれん。にらみ合いの格好だからな。戦勝国が敗戦国から脅しを掛けられるなんてことにはさせん」


生き残った兵、将校らの調書が、各国にテレックスで送られた。トルーマン大統領にも知れた。

マッカーサーは、一個師団全滅の経緯を「どういうことだ?」と問いつめられている。

「兵が、天皇子飼いのモンスターと戦わされたと云っている。どういうことだ?」

GHQは答えに窮して、報告を長引かせている。


「閣下、皆に真実を語りましょう」

「ボナー、どの道、皇居を連合軍が取り囲むぞ。最低でも天皇は拘束される。其れ視た事か!日本とはこういう國だ!君は天皇を生かす案にしているが、最早、君の努力も泡となるぞ。そして國民や残兵が天皇を掲げて、暴徒化する。連合軍は其の暴徒を止めるために100万の兵を導入するだろう。わたしは其れでも善いと思っている。天皇は戦争犯罪人。日本は何処までも軍国。其れで決まりだ。日本は属国(奴隷)になる」

「閣下、其れは早まった結論です!」

「一個師団の全滅だぞ!ボナー!其の重みを考えろ」

「国民一揆を須佐が先導したらどうします?」

「我々も只じゃ済まぬな。戦いが大きくなるだろう。わかっている、だからわたしは天皇と会うぞ。彼の出方次第でサイコロを決めよう」

会見はアメリカ大使館にて9月27日アメリカ大使館内と決まった。


9月27日午前中、昭和天皇とマッカーサー元帥の歴史的会見が行われた。天皇をお供したのは、石渡荘太郎宮内大臣、藤田尚徳侍従長、筧素彦行幸主務官、通訳の奥村勝蔵外務省参事官など六名。

天皇はモーニングを着ていた。


車中、天皇は緊張で震えていた。

アメリカ大使館前に着くと、フェラーズやパワーズ少佐、各将校達が出迎えた。

マッカーサーは自室でふんぞり返っていた。

「普段着で迎えてやる」

天皇一行が部屋の外まで来た。フェラーズは玄関から終始、天皇を気遣った。

「佐助さんは元気です」

「ありがとう」

天皇は後、フェラーズを好人物と述べ、帰国後もフェラーズ宛にお礼の手紙を出そうとしたが、宮中から止められた。其の内容は「あなたの御蔭で随分と緊張がほぐれた」


「元帥は此の部屋でお待ちです」

フェラーズも天皇に好印象を持ったと述べている。

日本側が会見に同席したのは通訳・奥村参事官のみだった。


「よく来てくれました。陛下。歓迎いたします」

マッカーサーは立ち上がって握手をした。

「天皇は震えている・・・・」マッカーサーは気付いた。

それから2人の写真が撮られた。撮られたのは3枚。公開されたものは1枚だけである。


「お掛けください。副官を同席させますが、よろしいですか?」

「Yes」

「天皇は英語が堪能そうだ・・・・通訳など要らないな」

奥村参事官はどちらかと云うと会見の記帳係になった。

「此処での会見は極秘とします。わたしも陛下も一切の公開はやめましょう」

「いいでしょう」

「誰の気兼ねも要りません。腹を割ってお話しましょう」


其の後、マッカーサーは亜米利加や連合軍の立場、軍人についてなどを語った。

そして虚をついて述べた。

「陛下、あなたは連合軍総司令官である、わたしを脅しに来たのですか?」

「わたしは・・・・」静かに語り始めた。

其の内容は現代でも非公開である。


1回目の会見はわずか37分。

会見後、マッカーサーは天皇を玄関まで見送った。まるで侍従長のように、敬虔な態度で陛下のやや斜め後で見送った。


筧素彦行幸主務官が「おや?」と思った。当初、傲然とふんぞり返っていたマッカーサーが、僅か30数分後、あれ程柔和に敬虔な態度になっていたことに吃驚びっくりした。

筧氏は会見内容を知らない。其の後も疑問に思ったと云う。


佐助も会見後、解放された。


其の後、佐助はフェラーズにコンタクトを取り、日比谷の軍人パブで会った。

将校のVIPROOMに通され、2人で語った。

「佐助さん、あなたがあの会見の草案を練ったと聞きました」

「フェラーズさん、どうでした?」

「あなたには全てをお話します。オフレコです。奥村参事官のメモは読んだと思いますが、彼は陛下が戦争犯罪人と受け取られる様な発言は省いた・・・と思います。それは日本側としては当然だとわたしは思います。しかし、それ以上の事をあの方は述べられました」

「・・・・」

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