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ボイスアクター ~俺が声優界に名を轟かす!~  作者: 飛ケ谷隼人
2年目の始まり
3/8

第2話 俺の休日

 「ふぁ~……」


 朝日が俺の顔に差し込んできて、俺はゆっくりと夢の中から醒めた。

 今日は養成所のレッスンはなく、そんな早起きする必要もない。

 バイトもないので、疲れ切った体を癒すのに今日という日は絶好なのだ。

 

 「ん……まだこんな時間か……」


 ベッドのそばにある目覚まし時計を見る。

 午前八時二十分。

 よっしゃ! まだまだ全然寝れる!


 俺は心の中でガッツポーズを決めて、再び寝る態勢になった……その時だった。


 「おーい、起きたんだったら客をもてなしたらどうだ~?」


 「そうだよ~早く起きろー!」


 ……皆に問う。今聞こえてきたこの声はどっちの世界での声だ?

 夢の世界か? それとも現実の世界なのか!?

 い、いや、これはきっと夢の世界なのだ、うん、そうに違いない。

 俺のせっかくの休日に栗田と聖乃が俺の一人暮らしの部屋に来ているわけがない。

 しかも勝手に!

 そうだ、俺はこのままゆっくりと眠ってても、誰も文句は言わないはずだ。


 「あれ? 和飛、また寝ちゃった?」


 「あ? ああ、本当だ。全く、こいつはいつもこうなのか?」


 「本当にね、だからこんなガリガリなんだよ……」


 ほっとけ!

 俺がガリガリだろうがどうだろうが、俺の勝手だろ!

 まあ確かに一人暮らしになってからはやつれたって言われることはあるけど、

俺はこれでも全然人間活動できてますし大丈夫なんです!

 ていうか、これ、夢だったら本当に良くできた夢だな。


 「和飛って寝てたり何もしてないと結構かっこいい方だと思うんだけどな~……」


 「お? お前もついにデレ始めたか? 聖乃」


 「ち、違う! ただそう思っただけ!」


 「ほう? まあこいつは顔だけはまともだと俺も思う」


 「やっぱそう思うよね?!」


 ……お前ら、一回バンジージャンプして命綱切れろ!

 何が顔だけはまともだだ栗田! お前にだけは言われたくねーよ!

 というかやっぱこれ夢じゃないよね?

 さっきから俺あいつらに背中を見せながら寝てるから俺の顔は見えないんだけど

もう目はバッチリ開いてるからな? もう完全に現実世界だからな?


 ああ……さよなら、俺の平穏な休日……


 「お、おい、なんでお前ら俺の家に来てんだよ」


 「うわぁ!? 和飛、起きてたんだったら言ってよ!」


 「俺も一度起きたらお前らが来てて混乱したんだよ!」


 「あれ? 昨日お前に言わなかったか?」

 

 「あ?」

 

 「ほら、昨日の夜、メールで」


 栗田はそんなことを言うと、俺にあいつの携帯を見せてきた。


 「明日、聖乃と一緒にお前の家に行くからよろしく……ってなんだこれ!?」


 「ああ、やっぱお前見てなかったのか?」


 「見てないも何も初見だぞ!?」


 何故俺は昨日すぐに携帯を放り投げて寝てしまったのだろうか。

 もし見ていたとしたら、すぐに断って平穏な休日が来ていただろうに……

 まあでも、どうせ俺が断ってもあいつらは来るんだろうな。


 「来た理由は何となく分かった……だが、どうやって入った?」


 「どうやってって、そりゃもう普通に」


 「普通にって言ったって俺はちゃんと鍵を閉めていたはずだ」


 「だから、ほら!」


 そう言って、聖乃が嬉しそうに差し出したのは、俺の家の鍵だった。

 何故聖乃が俺の家の合鍵を持っているか、それは俺が貸しているからである。

 ……その、なんだ。聖乃とは別にそんな関係じゃなくて、栗田ももちろん持っている。

 家を明け渡されたときに、家族用にと鍵を三つ大家さんにもらったのだが、

 俺の家族とは絶賛絶縁状態なので正直いらなかったのだ。

 それでそのことについて言ったら、聖乃たちが欲しいというので、

仕方なく貸しているのだ。


 「……なるほどね、完全にお前らに合鍵渡してるの忘れてたわ」


 「まあ事前には言ってたし、俺らは悪くないってことで!」


 「うん!」


 「はぁ……まあいいや、それでなんで俺の家に来たんだ?」


 そう、これは今聖乃と栗田に最も聞かないといけない質問なのではないだろうか。

 栗田だけとか、聖乃だけとかならともかく、二人で来たのは何かしらの目的が

あるはずだ。

 俺はそう思って、二人の顔を交互に見ながら言った。


 「ふっふーん、今日は勉強会だ!」


 「べ、勉強会?」


 「おうよ! 先輩方の出ているアニメを見て己を知り、そして学ぶのだ!」


 「なんでいきなり……」


 「私が栗田にお願いしたんだ、みんなで一緒に見ようって」


 「……そ、そうか」


 「迷惑……だった?」


 「そ、そんなことねーよ……」


 上目遣いでそんなこと言われたら、あんま強いこと言えないだろうが……

 

 「そ、それより、その袋に入っているものは全部アニメなのか?」

 

 栗田の横に置いてあった袋を指さして、栗田に説明を要求した。

 てっきり手土産だと思ったんだが、この話の流れ的にアニメの可能性が高い。


 「ああ、そうだよ」


 「お、お前ら……家に訪問したら普通手土産ぐらいもってこいよな」


 「なんでお前の家に行って土産持って行かねーといけないんだよ?」


 何ともむかつくやつである。

 コンビニで買ったやつでもいいからおやつとかそう言うの持ってくるだろ普通!

 

 「じゃあ、早速見るか」


 「そうだね、和飛、DVDプレイヤーどこ?」


 「多分テレビの下の台に置いてある、というか俺がやるよ」


 「いいよ、それより和飛はさっさと歯磨きとかしてきなよ?」


 「まあ、それもそうだな……」


 俺はあいつらに一切の勉強会の用意を任せると、そのまま洗面台に向かった。

 この後見るアニメが、どんなものなのかも分からないまま。




 ***********************


 

 「それで、どんなアニメを見るんだ?」


 俺が歯磨きなりなんなりを終えた後、すでに勉強会の準備はできていた。

 と言っても、机にはコップが三人分置いてあり座席も三人分用意されていた。

 もう座席はあちらで決まっていたようで、俺は二人の真ん中の席に座った。


 「今回俺たちが見るアニメは、これだ!」


 テンションアゲアゲで栗田がそう言うと、そのまま手にDVDのパッケージを差し出した。

 

 「”ラブメモリーズ”だ!」


 「っ!?」


 栗田が言ったそのタイトル名を聞いて、俺は胸が一気に高まった気がした。


 ”ラブメモリーズ”

 俺はこの作品を、もう見たことはある。

 だけどそんなことはなんの問題でもない。

 それよりも、さっきから栗田が俺を見てニヤニヤしている理由。

 何故ニヤニヤしているのか、俺は大方見当がついている。

 そしてそれは、さっき俺の胸が高まった理由とで線と線がつながる。

 なぜこの作品を聞いて、栗田がニヤニヤし、胸が高まったのか。

 それは、この作品が……彩音の初めての出演作品だったからである……


 

 ***********************



 今の時刻はもう夕方の四時頃を差す。

 アニメを見て昼ご飯を食ってまたアニメを見て……と勉強会は実に酷いものだった。

 この作品の作風は一言で言い表すのなら、”王道”。

 よくあるような青春ラブストーリーで、平凡な主人公が、ある日突然転校してきた

転校生の女の子と出会い様々なイベントをこなし、いずれお互い好きになって、

でもお互い言い出せない、いかにも青春学園アニメというようなアニメだ。

 

 このアニメの最大の魅せどころは、なんといっても豪華すぎる声優陣だ。

 ベテラン声優から人気のある声優まで、本当に惜しげなく起用している。

 そしてその豪華声優陣の中に、彩音がいることは、本当にすごいことだ。

 彩音の役はヒロインの相談相手で良き親友の役で、言って見れば脇役なのだが、

存在感は、俺にとってヒロイン以上に大きかった。

 初めてこの作品を見た時も、そして今さっきまで見ていた時も、俺はずっと

彩音の役を目で追っていた。

 それほどまでに彩音の声は……俺の心に、俺の体に浸透していったのだ。


 「今日はもう帰るか」


 「うん、そうね」


 栗田がそう口火を切ると、聖乃も同じく口を開いた。

 

 「そうか、結局ただのアニメ鑑賞会だったな」


 「まあまあ、こういう日だっていいだろう?」

 

 「まあ……悪くはないな」

 

 平穏……ではなかったが、なんだかんだ楽しかったしな。


 「またこうやって来ていい?」


 「別にかまわないが、今度からは俺が起きてる時に知らせてくれ」


 「それはお前が悪いんだろう?」

 

 「悪いも何も、俺はただ寝てただけだ!」


 栗田と聖乃のため息交じりの笑いが、今の俺にはちょうど心地よかった。

 やっぱりいいな……こういうのも。


 「じゃあな、レッスンに遅刻すんなよ」


 「じゃあね和飛」


 「おう……またな」


 ガチャ


 玄関のドアが閉まって、さっきまでうるさかった俺の部屋も

今は静まり返ってさっきまでのアニメの余韻が残っていた。


 「あ、あいつ……」


 俺の狭い部屋をざっと見回すと、そこにはアニメが入っていた袋が置きっぱなしだった。

 

 「ったく、ちゃんと持って帰れよな……」


 そう言いながら、俺は袋を手に持ってふとその袋の中を見ると、

そこにはある一枚の紙きれがあった。


 「”これ、お前が預かっといてくれ! 栗田”」


 その紙きれにはへたくそで一癖も二癖もある字で、そう書いていた。

 でも、何故だか俺は、そんなへたくそな字を一瞬ですらすらと読めてしまった。


 「……もう一回、見るか……」


 俺は一人そう呟くと、そっとDVDプレイヤーに”ラブメモリーズ”を入れた。

 

 

 

 

 

 



 


 


 

 


 

 

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