1/5
1話
硝煙と血が混ざり合った死の臭い。
嗅ぎ慣れたそれを何時も以上に色濃く感じながら、岩陰に隠れて一息つく。
周囲に目を巡らすと、同じ様に身を隠す者が三人。
年齢も国籍も違う男達が全員大なり小なり負傷し、服も顔も血に塗れ、もはや自分の血か「敵」のものか分からない。
それを横目で確認し逸らした後、胸ポケットからくしゃくしゃになったタバコとライターを取り出し、口に咥え火を点ける。
「…はぁ」
肺に入れ、小さく吐き出した紫煙を見詰めていると、横にいた男が皮肉混じりに話し掛けてくる。
「はっ…随分と余裕だな「クロ」」
そう言って口に溜まった血を吐く男を視界に入れたまま、「クロ」こと俺は独り言の様に呟く。
「勝てない戦だ」
「違う。勝てた戦だ」
俺の言葉に傷が比較的少ない男が、母国語で怒りに任せて吐き棄てる。
「あいつが裏切らなかったら勝っていたんだッ!」
その言葉を掻き消すように近くで銃撃の音が連続的に響く。
そう…俺達は今、負け戦の中にいる。