7.魔王の修行
「俺って、どうやって拠点に戻ればいいんだ?」
運が良く魔王シンに会うことができた俺は、そんな素朴な疑問を浮かべた。
拠点から降りる時は簡単で良いのだ。しかし地上から拠点に行くとなると話は違ってくる。当然場所を見失うことはないのだが、どうにもそこへ行く方法が思い浮かばない。「魔力波」を使えば少しは空に浮かべるかもしれないが、拠点までたどり着くことは不可能だろう。
「私は空を飛べるぞ。」
「俺も空を飛べる。」
「う、嘘だろ………」
俺はしばらく悩んでいたのだが、それは2人によってあっさりと解決した。
それにしても意外だ。魔王が空を飛ぶイメージはまるでない。しかも羽が生えている様子はないし、一体どうやって飛ぶのだろうか。
そして、能無しだと思っていたサリーが飛べるのも意外だ。しかしそれを聞くと、いくらサリーと言っても神であるのだな、と感じてしまう。
「なんだ、セイタその目は。私が空を飛べるのがそんなに意外か?」
「ああ、意外だよ。やっぱお前って神なんだな。」
「前にも言っただろうが。一体私はなんだと思われていたんだ……」
思ったことをそのまま伝えると、サリーは少し落ち込んだようだった。やはりサリーだな、少し安心した。
「サリーはこの調子だし、俺がお前を拠点とやらまで連れて行こう。」
「場所がわかるのか?」
「ああ、幻影スキルを使っていても場所は分かる。もちろん見えるわけではないがな。」
そう言うとシンは方から黒く大きい翼を生やした。同様にサリーも翼を生やす。しかしサリーの翼は白く輝いているように見える。
「すごいな。」
「なに、俺が修行をつけてやるのだから、最終的に最低でもこの程度は出来てもらうぞ。」
「こんなの出来る気がしねえよ……」
「まあ流石に冗談だがな。しかしお前のユニークスキルによっては空を飛ぶことも不可能じゃない。」
「そうなのか?てか、俺がユニークスキル持ちだって話したっけ?」
確かユニークスキルを持っていることは話していなかったはずだ。なにせユニークスキルには強力なものが多い。それどころか、ユニークスキルを持っている人間は全体の1パーセントほどと言われている。そんな、人間にとって最後の切り札とも呼べるべきものをそう簡単に話せるはずがないのだ。
「いや、話されてはいないがなんとなくお前の纏っている魔力でわかるな。」
「おいまじか。魔力だけでそこまでわかるのか。」
「そうだ。ちなみに魔力で相手を判断するくらいは絶対出来てもらうからな?」
そう言ってシンは微笑む。しかし俺には鬼が笑っているようにしか見えなかった。これから始まる修行のことを考えると、怖すぎて逃げ出してしまいそうだ。
まあ流石にそれは冗談だが、魔王に修行をつけてもらう事がどういうことなのか、今はっきりとわかった気がする。
そのあとシンの背中に乗って拠点に着いた俺は、とりあえず俺とサリーの家を紹介することにした。ちなみにシンにはそこに住んでもらう予定だ。なにせ俺はまだ拠点の制御が完璧にできていないため、寝ている間に拠点が動いてしまう可能性がある。それを考えると、シンにはここで住んでもらう方が良いと思ったのだ。
「なかなか良い家じゃないか。俺の部屋もかなり広いしな。」
「それは良かった。」
「なら早速修行を始めるとするか。場所は家の前の敷地で良いな。」
「そうだね。サリーはどうするの?」
「私は回復役としてサポートをしよう。だから、シンにはちゃんとしごいてもらうんだぞ。」
いや本当にしごかれそうで怖いわ。
とりあえず修行することが決まったので家から出る。どんな修行になるかはわからないが、この拠点で行う分には全く問題ないと思う。なぜなら拠点の広さが異常だからだ。これならおそらく端っこが無くなるようなことが起きても、大丈夫だと思う。
「とりあえずセイタのスキルを教えてもらえないか。出来ればユニークスキルもだ。それによってどんな修行をするか決めたい。」
「いいよ。」
シンの要望通り、俺は持っているスキルを全て教えることにした。これはまだサリー相手にもしていなかったことのため、俺のスキルを聞くとシンもサリーも驚いている様子だった。
「スキルが多いな。しかし、『天地創造』スキルが一回きりだとは知らなかった。もっと早くに教えてくれても良かったのに。」
「悪いな。教えてたつもりだったんだが、忘れてたみたいだわ。」
「だが『天地創造』スキルなんてなくても十分凄いぞこれは。ちなみに『魔力波』とはどんなスキルなんだ?」
「あー、それは……」
そうして俺は「魔力波」スキルについて2人に話し始めた。2人は始めスキルの内容を聞いて微妙な表情をしていたが、最終的に2人とも考え込んでしまい、感想が聞けなくなってしまった。
「ど、どうしたの?」
「いや、『魔力波』スキルの話だが、かなり便利だなこれは。」
「便利、なのか?まあ確かに相手の動き止めたり、自分へのダメージを抑えたりは出来るけど。」
「この『魔力波』はもっと応用が効くスキルだ。空を飛ぶことは不可能かもしれないが、空を歩く事は出来るな。」
「マジか!?」
「もっとも全て修行次第だがな。」
シンのその言葉を聞いて、俺はついテンションが上がってしまった。これまでは確かに強力なスキルだと思っていたが、どうやら思っていたよりも強力なスキルらしい。これからは「魔力波」に対する考え方を変えなければならないな。
「では、これからの修行メニューを発表しよう。」
そう言って発表されたのは、思ったほど過酷なものではなかった。
まず、朝起きたら魔力操作の練習。今の俺ではまだ魔力が十分に操作できていないらしく、それが出来るようになれば、消費魔力量が減ったり、剣術などに応用も可能とのことだ。
さらに、どうやら属性魔法適性がなくても属性魔法が使えることが判明した。シンによれば、属性魔法適性がある場合は属性魔法を使えるようになるまでの時間は短くて済むし、修行次第では最上級魔法まで使える。しかし適性がなくても中級魔法までなら使うことができるらしいのだ。もっとも上級魔法は絶対に不可能らしいが。
そして魔力操作を2時間ほど行った後、シンと一対一で戦う。もちろんただの修行なので殺し合いにはならない。狙いはこの修行で「体術」スキルをつける事らしい。どうやらそのスキルは、戦えるようになるための必須のスキルのようだ。
それが終わり昼飯を食べた後は「魔力波」の練習だ。どのように応用すれば良いのかを考え、それを実行に移す。
それを2時間ほど行った後、拠点から降りて実戦を行う。ここでは相手を殺す事や、魔物の生態を学ぶ。
「これからはこれを毎日行ってもらう。もちろん実力が上がってくれば練習メニューは変えることにする。」
これから俺はこの修行を続けどんどん強くなっていくだろう。
それが、楽しみで仕方がない。