5.魔王は被害者
「やっぱりまずは家だよな。」
サリーのアドバイスにより家を作る事を決めた俺らは、早速作業を始めた。
「なあサリー、リビングと俺らのの部屋、キッチンにトイレ、そして風呂があれば十分だよな?」
「そうだな。できれば私の部屋は100畳ほどでお願いしたい。」
「却下だ却下。そんな部屋がいいなら自分で作れ。」
「そんな部屋を私が作れるわけがないだろう。」
「何でちょっと自慢げなんだよ……。それでも神なんだろ?なんか使えるスキルとかはねえのか?」
「特にない。この星の管理者たる者、星の管理に必要な能力さえあれば問題ないからな。」
「うっわ、使えねえ……」
「使えないとはなんだ!!」
さらっと足手まとい宣言された事に対してサリーは頬を膨らませて怒っていたが、しばらく経って落ち着くと、俺に話しかけてきた。
「確かに私は家を作ることが出来ないが、そういうセイタはどうなんだ?」
仕返し、とでも言わんばかりに勝気な表情で俺を見つめてくる。それに対し、俺はドヤ顔で返事をした。
「俺、建築士のスキル持ってるから。」
その言葉に愕然とした表情を浮かべたサリーが面白かったのだが、さっさと家を作りたいので早速作業を始めることにした。
俺らの家を作るために使う俺の建築士のスキルは、ものすごく便利だ。なにせ、ただ設計図を書いてそれに魔力を込めるだけで、設計通りの物が出来上がるのだから。
しかしその設計図はかなり精密に書かなければいけなかったり、設計する物によって必要な魔力量が多くなってくるのでもちろん制約があるのだが、それを差し引いても便利と言えるだろう。
一人立ちする前に一度このスキルを使ったことがあるのだが、その時は小さな物しか造れなかったため、今回は少し張り切って家を作った。
その結果がこれだ。
「なあ、セイタ。君はこんな大豪邸を造って何をするつもりなんだ?」
「……ま、まあでもほら、お前の部屋は多分でかいぞ。」
「まあそれは良いのだがな。」
張り切りすぎてサリーに思いっきり呆れられてしまった。俺が作り上げた家は、一言で言うとサリーの言う通り大豪邸だ。
精密な設計図を書いた、と言っても、それは各部屋の大きさの比などを精密に書いただけのため、正確な部屋の広さは書いていない。ただ、大きい家になるようなイメージを込めて作ったら、こうなってしまった。
「と、とりあえず家に入ろう。」
「そうだな。」
さっきまで呆れていたサリーだったが、本心ではワクワクしているのか、目がとても輝いている。
俺の家には、生活するのに必要な設備が整っている。
まずは玄関とトイレ。これらは普通よりも少し大きめのサイズだ。ちなみに水道も建築士のスキルで造ることが出来たため、ちゃんと水が使える。ガスや電気も同様。建築士便利すぎる。
次にリビングと4つの大部屋だ。リビングにはゆっくりくつろげるソファがあり、キッチンも備わっている。おそらくそこで料理をする事になるのは料理人スキルを持っている俺だろう。ちなみに大部屋は2つを俺とサリーで使い、残りの2つの使い道はまだ考えていない。
そして大浴場。サリーからの評価が一番高かったのはこれだ。神といえど1人の女の子として、風呂は好きなのだろう。ちなみにサリーの実年齢はかなりのものらしいが、見た目は俺と同い年くらいだ。顔もスタイルもかなり良く、街にいたら男どもの視線を一気に集める事になるだろう。
また、これには露天風呂も備わっており、疲れを癒すことができる。そして俺の治癒魔法スキルを少し使い、風呂に入ると疲労が取れやすくなるようにした。
最後に作業部屋兼倉庫だ。ここには、鍛治士スキルで武具を作るためにモンスターの素材を置く予定だ。一応神であるサリーが、マジックバッグと呼ばれる、なんでも好きなだけ入れることができるバッグを持っていたのだが、モンスターの素材は区別してここに置こうと思う。もちろんバッグに入れた状態でだ。そのためこの部屋はあまり大きくない。
「こんなものかな。」
「セイタって意外にすごいんだな。」
「意外にってのが余計だが、褒め言葉として受け取っておこう。」
家を作り終えたので、これからどうするかについてサリーと話し合った。
「やはりセイタはもっと強くなるべきではないか?」
「そうだな。今のままじゃ弱すぎるしな。」
「いや、勘違いしてほしくはなのだが、セイタは人間の中では決して弱い方ではない。むしろトップレベルだ。しかしセイタはまだまだ強くなれるからな。強くならないのはもったいないという意味だ。」
「サリーに戦い方を教えてもらうことは出来るか?」
「私は残念ながら戦いは苦手なんだ。神聖魔法なら得意なのだがな。」
神聖魔法とは、治癒魔法の上位スキルだ。治癒魔法よりも回復力が格段に多い。実は大浴場に神聖魔法の魔力を込める案も考えたのだが、それだと回復力がすごすぎて風呂に入る意味がなくなってしまいそうだったので、却下とした。ちなみに神聖魔法は神であるサリーしか使えないらしい。
「そうか。じゃあ森に入って修行するしかないか。」
「いや、それは危険すぎる。私が戦える知り合いを紹介しよう。」
「そんな知り合いがいたのか?」
「ああ。おそらくセイタも知っているだろう、魔王だ。」
「ま、魔王ですか。」
まさか神の知り合いに魔王がいるとは思ってもみなかった。でも、魔王といえばあの魔王だよな?なんか、人間を征服しようとしているあれだよな?
「ああ、心配しなくても彼は危険な人物ではない。人間の間では、魔王は悪役なのだろう?」
「ああ、そうだが、違うのか?」
「違うな。確かに魔力を持つ生物である魔物は人間を襲っているが、それを作り出したのは魔王ではないし、ましてやそのリーダーでもない。ただ、同じような雰囲気だから、魔物の王が魔王だと勘違いしているだけだ。」
「そ、そうだったのか……」
ということは、魔王は魔物と何の関係もないのに、人間に悪と悪とみなされている事になる。ちょっと可哀想だな。
それにしても、まさか魔王が風評被害にあっているとは思わなかった。
「じゃあ魔物の王は誰なんだ?」
「魔物には王なんて存在しないさ。群れのリーダー程度ならいるだろうけどね。」
「そうなのか。まあ危険じゃないのなら、早速魔王に会いに行くか。」
「そうだな。では早速拠点を動かしてくれ。」
「どこに向かえばいい?」
「……さあ?」
「おい、さあ?ってどういう事だ。」
「彼の場所は私も知らない。まあ適当に動いてれば見つかると思うぞ。」
「そんな適当な…」
「まあ彼の魔力は分かりやすいからな、案外すぐに見つかるかもしれないぞ?」
こうして俺は、頼りなさすぎる神と共に、魔王を探す事にした。