4.拠点
「『天地創造』!」
まさかこんなにも早く最後の切り札を使うことになるとは、正直思っていなかった。
なんかよく分からないけど二本足で立ってる豚に囲まれてどうしようもなくなった俺は、一回きりのユニークスキルを使用したのだ。
そしてスキルを使用した直後、俺から大量の魔力が溢れ出る。そしてそれは俺の魔力が無くなる寸前まで続き、それによって俺は意識を失ってしまった。
「………知らない、天じょ、いや空だな。」
知らない天井だ、と言いかけてその言葉はとまった。仰向けになって転がる俺の目の前に広がるのは大きな空だ。
思えば最近空をよく見たことがないな。異世界に来る前はインドア派だったし、こっちに来てからもいろいろ忙しくて空をじっくり見る機会が無かった。
「空ってこんなに綺麗だったんだな。」
「何を言ってるんだ君は。」
「まったくだな。」
ちょっとかっこつけたような事を言ってしまった俺は、すぐに中性的な声によって突っ込まれてしまった。しかしそれも仕方ない。だってあんなセリフ、俺らしくもない。
「………って違うよなあ!?」
「どうしたんだ、いきなり変な事を言い出したかと思えば今度は大声まで出して。」
「そんなのはどうでも良いんだ。お前は誰だ?」
そう言って俺は、横にいる女性を見つめる。その女性は綺麗な銀髪で緑色の目をしていて、上品な雰囲気を漂わせており、スタイルも良い。
はっ!危ない、惚れるところだった。
そんな一瞬で惚れるわけない、と思うかもしれないが、この女性は男を一瞬で惚れさせるほどの美しさを持っているのだ。
「私は、この星の管理者だ。」
「管理者?」
「ああ、神と言った方が分かりやすいか。」
「分かりやすすぎてちょっと怖いんですけど。」
「何も怖くなどないさ。ただちょっと君に興味が湧いてな。」
興味だと?一体俺は何かやらかしたのだろうか。そんな、自分のやった悪戯が母親に見つかった時みたいに、妙にドキドキしていたのだが、そこで重要な事を思い出した。
「天地創造……」
「そう、それだよ。本来それは神である私しか出来ないはずなんだ。しかしそれを人間である君が行った。それだけで、私が興味を持つには十分なのさ。」
「そ、そうなのか。それでどうするんだ?人間なのに天地創造した罰として殺したりでもするのか?」
「そんな事はしないさ。ただ1つお願いがある。」
「ふむ、考えてやっても良いだろう。」
「……なんで少し下手に出ただけで態度が豹変するんだ?まあ、いいか。少しばかり君と生活させてもらえないかな?」
生活、だと?しかも美女と2人だけで?なんのご褒美ですかこれは。
「もちろ、いや、まず何故か聞いてもいいかな?」
「もっともな質問だね。じゃあそれに答えようか。」
つい即答しそうになってしまった俺だが、そこをなんとか理性で抑える。実際何の裏もなしにこんなに美味い話があるわけがないのだ。
「うん、私は興味が湧いたものをとことん調べたい、という欲求があってね。そのとおり、興味が湧いたものに関してとことん知りたくなってしまうんだよ。そこで、今回君の事をよく知るためには、やはり一緒に生活するのが一番だと思ってね。」
「なるほど、じゃああんたは俺に害を加える気はないのか。」
「そうだね。それと、私の名前はサリーだよ。君は?」
「俺はセイタだ。」
まずこのサリーが神であるという所からあまり信じられないわけであるが、まあ害意がないのは分かったので一緒に生活することにした。べ、別に美女とただ一緒に暮らしたかったわけじゃないんだからねっ!
そんなこんなでサリーと暮らす事を決めた俺は、情報を整理する事にした。
「結局俺は『天地創造』を使った事によりあの豚達から逃げることができた、と。そして俺が今いるのは、俺が作った天地、というか土地であり、それは空を浮いている、ということだな。」
なるほど分からん。
俺らがいまいるのは、地面から抉り取ったような空飛ぶ土地の上だ。
やっぱりこれから色々調べなきゃいけなさそうだ。
「あ、ちょうどいい。サリー、手伝ってくれよ。」
「ん?構わないぞ。」
サリーに協力を仰いだ俺は、2人で天地創造について調べる事にした。
調べた結果分かったのは、俺は天地創造を使う事によって土地を生み出したわけではないということだ。
俺は天地創造というスキルに関して少し勘違いをしていた。それは『創造』の部分だ。俺はてっきり自分で創り出すのかと思っていたがそれは間違いであり、実際は存在する地面を切り取って自分のスペースとするだけの能力であった。
しかし、自分のスペースとするだけ、と言ってもその効果は大きい。
まず、基本的に俺が、空気という例外を除いて許可した存在しかこのスペースに入ることは出来ない。よって、ここは完全に俺だけのスペースとなる。ただ、サリーが入って来てしまったのは、やはりあいつが神だからだろうか。恐らく天地創造に関してはあいつの方が上だろうから、こういう結果になったのだと思う。
また、この土地(以後拠点とする)が浮いているのは恐らく天地創造のスキルがそういうものだから、としか言いようがない。
ちなみに、拠点は長さにして10キロメートルほどで、拠点の地面の深さは10メートルほどだ。かなりアンバランスになっているが、空を飛んでいる事によって問題は全く生じていない。そして、この拠点のスペースの範囲は、中心から半径15キロメートル程の球の中、という事になっている。この範囲の中には、俺が許可したものしか入れない。
「はぁ、天地創造だけでも情報が多すぎるな。」
「そうだね。全く君のスキルは厄介だ。」
そういえば何で俺はこんなスキルを持っていたのだろう、とふと前の世界にいた頃を思い出す。
あー、俺って確かあの時ある実験をしていたんだ。それは異世界へ行く時に、自分にスキルが自由につけられるか、というものだ。一応成功すればいいな、程度にしか思っていなかったので今の今まで忘れていたのだが、どうやら成功したらしい。恐らく俺の持つスキルの多さはそれが原因だ。
ちなみに俺以外の人間は、スキルを1つ得るためにかなりの手間と時間を必要とするという。それを考えると、俺はかなり運が良かったかもしれない。もっとも、間違えて異世界転生してしまう時点で運は最悪かもしれないが。
「特に他はやりたい事がないな。この拠点の空での動かし方も分かってきたし。あとはこの範囲に幻影をつけて誰からも見えないようにするくらいか。」
そう言って俺は、幻影スキルを使って作業を始める。そしてサリーは、その様子を興味深そうに見ていた。
「お前は見てばかりいないで手伝ってくれよ。」
「失礼だな。これでも見ているだけではないんだぞ。ちゃんと拠点を有効活用する方法を考えていたのさ。」
「へぇー、どんなのだ?」
「まずこの拠点はかなり広いだろ?だから多くの物を作る事ができる。と、考えると、これからのためにも私達が住む家を最初に作るべきだと思うんだよ。」
まあその考え方は分かる。確かに最初に作らなければならないのは、俺たちが過ごす場所だ。しかも、拠点が広いために後先あまり考える必要がないため、家の大きさも慎重になって考える必要がない。
「じゃあまず、家を建てるか。」
そうして、俺達は本格的に拠点を作り始めた。