3.天地創造
「まぁチート能力って言っても使ったことないんだけどな。」
セント村へ向かう場所に乗った俺は、そう呟いてステータスを確認した。
名前 セイタ・ニルフィム
レベル 152
属性魔法適正 なし
ユニークスキル 「天地創造 残り回数1回」「魔力波」
スキル 「治癒魔法」「幻影」「鍛冶士」「料理人」「建築士」「剣術」「俊足」「爆発魔法」「気配察知」
ステータス画面に表示されるのは、名前と属性魔法適正、そしてレベルとスキルとユニークスキルだ。
俺のレベルは152で、魔術師全体の平均レベルが120ほどらしい。レベルだけを考えれば俺は魔術師団に入っても問題ないが、属性魔法適正がないため、実際は難しい。レベルだけで強さは判断できないということだ。
ユニークスキルは、世界で他の人と被ることがない自分だけのスキルで、俺は2つ持っている。
「天地創造」
天地を創造できる
「魔力波」
魔力を波にして体の中から押し出す。また、その魔力波はそれを打ち出したものの特性を一部得ることができる。どんな特性を得るかは自分で決められる。
この2つだ。上の説明は、ステータス画面でスキル名をタッチする事で見ることができる。しかし、この説明では全く分からない。
「『魔力波』はまだ練習したからいいが、『天地創造』どうするかなー………」
さて突然ですが問題です。あなたはいきなり、天地を創造できる力を得ました。さてどうしますか?
これは約5年前俺に出された問題であり、その答えは依然として出ていない。とりあえず大陸の外に出てピンチに陥ったらこれを使って何とかしようと思っている。
残り回数が1回と表示されてることもあり、やはりピンチの時に使うのがいいと思っている。
そして「魔力波」だ。これは魔力の波を打ち出す事により相手の動きを止めたり、相手が軽ければ吹き飛ばす事が出来る。たかが波だと思って侮ってはいけない。かなり強力なスキルだ。
しかしこのスキルの説明文の後半部分は未だによく分かっていない。
しかし実戦でこれを使うことはあまりない。普段使うのは「爆発魔法」と俺の持つ刀だけ。ちなみに「爆発魔法」は、対象に触れると爆発する魔法が撃てるようになるスキルだ。
約2時間が経過し、俺はセント村に着いた。馬車に降りるとすぐに、大陸の外へ行く準備を始める。
まずはアイテムだ。装備と飯はすでに準備してある。俺が欲しいのは魔力回復用回復薬(通称エーテル)だ。体力の回復には、「治癒魔法」を使えば良いので回復薬はいらない。
アイテム屋に行ってそれを買った俺は、村の外に広がる海の方へと向かった。
そこからは、はるか遠くに大陸が見える。
「あれが大陸の外、未知の大陸かー。俺の力でどこまで通用するか楽しみだ。」
大陸を見て満開の笑顔を浮かべた俺だったが、ここにきて大陸へ渡る手段がないことに気づく。
やばい、どうしたものか。ここに来るまでは、何処かから船が出てるかと思っていたのだが、船が出る様子は当然ない。
こうなったら自分で船を作るしかないな。そう考えた俺は、近くの木を切って船を作り始めた。
約1時間ほどかけて、木のイカダとオールが完成した。不安ではあるが一応大丈夫だと思う。最悪溺れそうになったら天地を創造すればいい。何だか天地を創造するのがかなり簡単な事のように聞こえる。天地創造が万能すぎてヤバい。
「まあ、いざ大陸の外へ!」
そう自分に気合いを入れて、大海原へと漕ぎ出した。
「あー、飽きたー。」
俺がそんな情けない声をあげたのは、漕ぎ始めてから1日ほどたった頃だった。自分で船を作ったのに飽きるのは良くないと思うが、ここまで頑張ってきた俺を褒めて欲しい。1日も良く飽きずに漕ぎ続けた、と。
実際目指す大陸までは半分を切っており、このままのペースでいけばあと1日かからずに着く事ができる。
「がんばれーあと半分だぞー。」
できるだけポジディブに考えながら自分を鼓舞していく。どうやら予定通りに着きそうだ。
〜1日後〜
「着いたぞーーーー!!!」
2日かけて目的地へ着いた俺は、喜びのあまり大声で叫んでしまった。しかしこれは仕方ない。それくらい頑張ったんだ、俺は。
もう十分仕事したし、帰っていいんじゃない?俺の中の悪魔がそう囁きかけるが、俺の鋼の意志によってこの先進む事を決めた。
俺の目の前に広がるのはジャングルだ。そしてその中からは多くの魔力を感じる。恐らく魔物がうじゃうじゃ生息しているのだろう。
「いくぞ。」
俺は肩にかけていた刀を鞘から出して、いつでも戦闘できるようにしておく。右手で刀を使い、左手で爆発魔法を打つのが俺の基本スタイルだ。
慎重に、決して気を抜くことなくジャングルの中へ入っていく。すると前方に、魔物を発見した。
「………あれは、なんだ?二本足で立つ豚か?」
残念ながら魔物の知識がほとんどない俺は、この魔物が何か分からない。もっともこの大陸でしか生息しない魔物なら、元の大陸の知識があったところで分からないとは思うが。
「ほれ。爆ぜろ。」
とりあえず様子見で爆発魔法を撃ってみる。これの威力はかなり高いはずだから、敵は少なくないダメージを負ったと思う。
「なんだとっ!?」
しかし煙が晴れて視界が開けると、そこには無傷の豚が立っていた。
「おいおい、ノーダメージかよ。これじゃ俺の刀でも切れるか分からねえな。」
目の前の豚は思ったよりも硬いらしい。しかしここで退くなんて事はしない。意地でも倒してやる。
俺のことを敵と判断した豚は、前足(腕?)を振り上げこちらへ向かってくる。その速さは決して速いわけではなく、俺でも余裕で対応できる程度だ。これには安心した。さすがに動きが早ければ死んでいたかもしれない。
「もっかい爆ぜてみろ!」
俺はやつの顔面に爆発魔法を放つと同時に、「幻影」で相手に幻覚を見させた。恐らく煙が晴れた頃には、俺の後ろにある石を俺だと勘違いして襲うだろう。
俺はその隙に奴の背後に回り、できるだけ魔力を込めて刀で斬りつける。これでもダメなら諦めるつもりだ。
しかしこの作戦は上手くいき、あとは必死に石を殴ろうとする豚に向かって刀で斬りつけるだけとなった。
「もしかして、魔力波を使えば刀の斬撃があいつに飛んでいくんじゃね?」
ここで俺はある1つのアイデアを思いついた。豚より離れた場所から刀を振ると同時に魔力波を刀から打ち出す。そうすれば上手い具合に、敵を斬ることができる遠距離攻撃が出来るのではないかと思ったのだ。刀の斬撃がそのまま飛んでいくようにイメージをする。
「てめえの人生はここで終わりだ!」
そして、俺はそのアイデアを試した。
結果は成功。刀を振ると同時に打ち出された魔力波は、豚の体を貫通した。
魔力波のスキル説明の後半部分はこういう意味だったのかもしれない。
「なんとか、倒せたか。はぁ、やっぱりかなり疲れるな。」
負けたら死ぬという緊張感や、スキルを多く使用したことなどにより、俺の体はもう疲れ切っていた。
「そういえば、イカダを漕いだ疲れも取れないままにこの森に入ったんだっけ。」
ここで自分の愚かさに後悔する。しかし昔の事を悔やんでも仕方がない。もう時間は夜だ。今は寝る場所を確保しなければいけない。
そう思って歩き出そうとしたその時、俺の周囲から、向けられるだけで動けなくなりそうな殺気が浴びせられた。
「な、なんだ?」
次々と俺の周りの木々が倒れていく。
そして倒れた木の代わりにそこにいたのは、二本足で立つ豚だった。数は20体ほど。
「くそっ、さっきのやつの仲間か。」
さすがに疲れているこの状態では、20体どころか1体すら倒せないかもしれない。
「使うしかないのか。『アレ』を。」
出来ることならこんなに早く使いたくなかった俺の最後の切り札。
しかしこんなところで死ぬよりは、少し速いが今使ってしまった方が良いに決まっている
「『天地創造』!!」
そうして俺は、一回限りのユニークスキルを使った。