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VRMMO

なんでこれがネタなんだ

作者: 黒田明人

【板魔法】

下敷きぐらいの板を発生させる魔法。

消費MP:発生中MP消費。


加筆修正 2020.04.29


 


 魔法の中でも一番役に立たないとして、誰も取らない板魔法。

 ある奇特なベータテスターがこの魔法を取得して町で使ってみたのが最初なのだが、大きさは下敷きぐらいで厚みは2センチの、まるで木の板にしか見えない代物をたった1枚出現させるだけの魔法だった。

 しかも、出現中はMPを消費する為、LV.1の彼は僅か数秒でMP切れになったのだ。

 使い方も分からないままに数秒でMP切れになり、自然回復の後にまた使って数秒で消える。

 そんなのを何度か繰り返したテスターは、そのまま掲示板に役に立たない魔法として掲載した。


 そして正式サービスの日、誰も取らない魔法として、板魔法が挙げられた。

 しかもその魔法の行使の有様は動画に撮られ、ネタスキルのコーナーに置かれ、これからゲームをやろうと思う者達に閲覧され、誰もがこの魔法の将来性に気付かないまま、ゴミ魔法として葬られようとしていた。


 だが、その動画を見たある青年は不思議に思った……なんでこれがネタなんだと。


 彼が注目したのはそのレスポンス。

 テスターが半ばヤケのような叫ぶと即座に出るこの反応の良さ。

 しかも動かそうとして動かない有様を見て更に思う。

 これが使えない? 嘘だろと。

 後はいくつかの検証が必要だが、それがクリアされれば強力な魔法に成長すると確信する。


 彼が選んだのはエルフ。

 なるべくMPを多くする為の選択肢。

 そうして彼はいくつかの検証結果に満足し、フィールドに出かける事となる。


 それから始まる彼の快進撃を、一体誰が予想した事だろうか。


 ☆


 急降下して高速で迫るあるワイバーンは、その哀れな小動物を一呑みにしようと口を開けて突撃中、いきなり目の前に出現した板に激突し、それを呑む羽目になった。

 喉の奥に突き刺さった板は、いくら暴れても我が身を切り裂くだけであり、激痛と出血で次第に動きが鈍くなり、そうして光の柱となって消えていく。


 ☆


 頭を上げてブレスを吐こうとしたドラゴンは、変な物に頭をぶつけて思わず頭を下げる。

 そしてまた上げようとすると何かに当たって下がる。

 その繰り返しで地面から頭が上がらなくなり、足で地面を踏み鳴らし、軽いジャンプをして逃れようとした。

 しかし、跳んだ瞬間、足に何かが当たる。

 その反動でまた跳ぶ羽目になり、ドラゴンが地面と思っていたその板の上でジャンプを繰り返す事になる。

 気付いた時には首にかなりの無理が掛かり、どうしようもなくなっていた。

 そしておもむろに首の下に発生する板、そして足の下から消える板。

 てこの原理で首が折れ、ドラゴンは光の柱となって消えていく。


 どちらもフルパーティかレイドパーティ推奨の強力モンスターだが、青年はあれからずっとソロをしていた。


「これの何処がゴミ魔法なんだ」


 そう、彼はひたすらこの魔法を使い、順調にスキルレベルを上げていたのである。


 ◇


 サイクロプスに相対した魔術師。


 さすがにどうしようもないと思われたが、冷静に一言。


「顔四方包み」


 見ればサイクロプスの顔の中央と側面と後方に板が宙に浮いている。


(おいおい、あれって縦にも出せたのか)


 そう、スキルレベルがMAXを迎え、枚数は増えなかったものの、縦に出せるようになったのだった。


そして今は板魔法Ⅱになっている。


(それからどうするよ。確かに動けなくした功績は認めるけどよ、動けないとご自慢の板の効果が出ないだろ)


 男は知っていた。


 板を利用した加速度によって、自滅を誘う戦法なのだと。


 顔が動かせないと知ったサイクロプスは、怒りの余りに武器を持った腕を振りあげる。


「そいつも止めとこうか」


 振り上げたMAX状態で腕が止まる。


 目の前の小さな敵を蹴ろうと足を振り上げる。


「そいつもだ」


 遂にサイクロプスは、片足を後方に振り上げた状態で、右手を後方に振り上げた変な格好のまま微動だに出来なくなっていた。


「さーて、仕上げだな」


(あれをどう仕留めるんだ。今までの戦法とまるで違う)


 極薄の板。


 彼はいつも人前では初期の板を使用していた。

 本当は板厚の調整も可能なのに、あえて初期値のまま使用していた。

 そうして人目が無い時、かつてワイバーンに呑ませた時のような場合には、板厚を薄くしていた。


 切り札は人に見せるもんじゃないしね。


 だけど今は緊急時。


 スタンピートだと言われて起きたら、町に魔物の大群が押し寄せているとか言われ、そのままギルドの召集に応じる羽目になった挙句、こんなでかぶつと戦う羽目になるとは。


 見せたくはないけど、仕方が無いよな。


 止めておいた腕が最高潮に加速される場所。

 そこに極薄の板を生成する。


 時間が掛かるから止めておかないと出来ないんだよね。


 足も同様に設置して、同時に止めておいた板を消す。


 それは瞬間の出来事だった。


 右腕と右足が急に動いたのだ。


 そうして双方共に中途で途切れて宙を舞った。


(何が起きたんだ)


 サイクロプスは激痛の余り、顔が固定されているのを忘れ、無理な挙動の挙句、ゴキリという鈍い音を立てて動かなくなる。


 そして光の柱となって消えていく。


 よーし、ノルマ達成。


 説明は嫌だから僕は消えるよ。


 それにしてもつくづく思うな。


 どうしてこれがネタなんだと。


 ◇


 《見たか、これがこの魔法の真骨頂だ》


 《長かったですね》


 《まさかネタ扱いされるとは、開発したこちらとしては辛かったが、遂にこいつが確立してくれた。これからは使用者も増えるだろうな》


 《そうあって欲しいですね》


 管理室では板魔法の開発者が魔法の削除案件の為に呼び出されており、彼の戦いぶりでそれが不問になった後の対話が繰り広げられていた。



【板魔法】(設定をいじくれば板厚の変更は可能)


LV. 1 板を1枚発生させる。

LV.10 板を2枚発生させる。

LV.20 板を3枚発生させる。

LV.30 板を4枚発生させる。

LV.40 板を5枚発生させる。

LV.50 板を6枚発生させる。

LV.60 板を7枚発生させる。

LV.70 板を8枚発生させる。

LV.80 板を9枚発生させる。

LV.90 板を10枚発生させる。

LV99 板を垂直に出せるようになる。


どうやらベータテスターは板厚の変更には気付かなかったようだ。


それもそのはず、レベル1の状態では判らず、レベル2になる時に通知されるようになっていたからだ。

冷やかしの連中には教えてやらんという、開発者のちょっとした意地がこの魔法の趨勢を決めていたとは、当の開発者は気付かないまま現在に到っている。


板魔法Ⅱ


板の形状を変えたり、設置した後で動かせるようになる。

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