7.
警察は行方不明者として由芽のことを捜索した。しかし、彼女に関する痕跡や足跡があの日のメールを最後に一切残っておらず、生死すら判然としないままついに見つかることもなく、捜索は打ち切りとなった。由芽の両親にも友人にも彼女からの最後の言葉は来ていなかったらしく『遺書の一部』と僕へのメールが彼女の最後の言葉となった。それらを彼女の両親に見せ三ヶ月間に及ぶ由芽と僕のことを告げると、涙を流しながら「ありがとう。」とだけ囁いた。彼女が生きていようがいまいが彼女はもう二度と僕たちの前に現れることはないだろう。由芽の両親の姿を見て、そんな漠然とした直感が過ぎった。
僕はしばらく傷心し研究も手を付けられなかったが、ふと機械的に研究を完成させなければとの激しい情動が湧き上がり、寝る間も惜しみ、ほんのたったひと月半で全ての執筆を完了させた。その頃にはもう、僕は僕の中で新たな地平に立っているような気がしていた。
そして僕はある場所へ向かった。県立図書館だ。
グループ学習室へ向かうとそこでは読み聞かせが開かれていて、のん君を含めたいつもの子供たちが熱心に耳を傾けていた。たったひとつ違うのは、椅子に座っているのが由芽ではなく、常勤の図書館職員さんだということ。
読み聞かせが終わって子供たちが帰ってから、僕は読み聞かせをしていた職員さんに話し掛けた。
「あの。」
「あら、由芽ちゃんのお友達の。」
「透です。お久しぶりです。あの、ちょっといいでしょうか。」
「なんでしょう。」
傷心中、頭が由芽を中心に動いているだけの時期、僕は幾度か躊躇ったが、そうであることが万事最も良きことなのではないかと思われた。それは、どこかに消えてしまった由芽のためにも、今ここにいる僕のためにも、由芽を慕う子供たちのためにも。
だから息をしっかり吸い、はっきりと告げた。
「僕にも、由芽のように読み聞かせをさせてください。」
それを聞いた職員さんは目を見開き黙って涙を浮かべた。そして僅かに表情を綻ばせ、ただゆっくりと、何度も頷いてくれた。
了




