6.
読み終わった後、僕は直ぐに由芽に電話をかけた。けれど何度かけ直そうと出なかった。メールをしても返って来ない。僕はタクシーを拾って急いで由芽のアパートへ向かった。由芽のアパートへ着きインターホンを鳴らした。何度も鳴らした。だが反応が無い。中から響いてくるインターホンの間抜けな音で、もしかして由芽はもういないのではないかと思われた。ドアを叩いて呼び掛けた。勢いでドアノブを捻ったら、まるで空回りしたかのように開いた。僕は中に飛び込んだ。部屋は裳抜けの空だった。何一つ置いておらずがらんとした部屋になっていた。二ヶ月ほど前の由芽の部屋がまるで幻だったかのように何も置かれていなかった。そして、それと同時に、由芽の姿も無かった。僕は再び由芽に電話した。しかし、今度は出ないばかりか、『おかけになった電話は……』とあの機械的な女性の声が繰り返し放たれるだけだった。メールも、送信できなかったというポップアップだけが表示されるようになった。
僕はその場にへたりこんだ。
由芽はどこに行ったんだろう。
今まだどこかにいるのか。それとも。
由芽は、本当に消えてなくなってしまったのか。
僕はスマートフォンを取り出した。由芽の最後のメールを読んだ。
『昨日のバイト帰りね、帰り道で風見鶏を庭先に置いている家を見たの。珍しいなあってずっとくるくる回っているの眺めてたら、夜風邪引いちゃって。そう言えばと思って思い出してみたら、風見鶏、ずっと南の方を向いてたんだよね。道理でと思った。それで、今日も風邪が治らないので、グループ学習室に先週から用意してあった本、文学雑誌のコピー。今日読むつもりで用意してたそれ、私の代わりに読んでくれると嬉しいかな。それと、ごめんなさい。体勞ってもう寝るから返信はできなくなります。
おやすみなさい。後はよろしく。』
ぽつぽつと紡がれたような覚束無い文面。このメールが来た時点で、彼女はもう決心して遠くへ行ってしまっていたんだろうか。僕が早くに気付いていれば彼女を助けられたんだろうか。今はもう僕の知らない場所で消えたんだろうか。両親へは。友人へは……。
僕はまた、しばらくその場でへたりこんでいるしかできなかった。
しばらくして僕は、ほとんど無意識で警察に電話をかけた。




