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金色の誘惑  作者: イブスキー
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第8話 (ジェイド)

 その日の午前中、ジェイドは街人やハンター達に被害者達のことを尋ね歩いた。その口実は“親が知りたがってる”や“情報屋に頼まれた”や様々だった。時には『子供のくせに首を突っ込むな』と怒る人間もいて、そのたびにジェイドはひやひやしながら謝った。

 それなのに言い出しっぺのユーリィは背後でただ邪魔にならないように立っているだけ。自分が何故こんな事をしなければならないのだと怒りもあったが、ヴォルフに認められるためだと己に言い聞かせて我慢した。


 妙な情報はいくつかあったが、それが何か意味があるのかよく分からない。そうしているうちに昼近くになり、二人はヴォルフを待ちつつ宿の食堂で休むことにした。


「なんか妙な感じだな」


 目の前に座るユーリィが首をひねる。


「何が?」

「どこがどうっていうのはよく分からないけど。三人組って情報もどこから出てきたのか分からないし、こんな辺鄙な街を狙うより、ソフィニアの方が金を持っているヤツが沢山いるじゃないか」

「大都市よりこういう街の方が楽なんじゃないのか?」

「そうかなぁ……」


 ユーリィはまだ納得がいかないといった様子で、何か考えているようだった。


「きっとヴォルフさんが何か掴んでくるよ」

「それもかなり疑問だな。僕は……」


 言いかけ、ユーリィの視線が一点に止まってしまった。何気なくジェイドも振り返ると、ちょうど厳しい表情をしたヴォルフが、二人の方へと近付いてくる所だった。


 二人のテーブルまでやって来たヴォルフは、怪訝な顔でジェイド達を見比べた。


「一緒だったのか?」

「うん、僕達も情報収集してみたよ」


 まるで自分が尋ね歩いたかのようにユーリィが説明した。


「尋ねたのはオレですけどね」


 悔しいのでジェイドはさらっと付け足してみた。


「そう、ジェイドが尋ね歩いた」


 棒読みのようにユーリィが言う。

 絶対に喧嘩を売ろうとしているに違いないと、ジェイドが彼を睨もうとしたところで、ヴォルフが軽く咳払いをした。


「へぇ、で、どうだった?」

「妙な情報ならいくつか」

「妙な情報?」

「旅人が凄くハンサムだったとか、神父も色白で可愛かったとか」


 ジェイドの言葉に、ヴォルフが苦笑いを浮かべた。


「おいおい、見た目のことが分かったってどうにもならないだろ」

「それもそうですね……」

「そういえばヴォルフさんも何か分かったことあるんですか?」

「あまりないないな。一つだけあるとしたら、殺された宿屋夫婦はフェヴァンという豪商と懇意にしていたらしいって事ぐらいかな」

「豪商?」

「それ以上はよく分からない」


 どれもこれも曖昧な情報ばかりだ。そもそも事件そのものが単純なのではないかとジェイドは思った。


「ねえ、ヴォルフさん。オレが思うに、案外単純な事件のような気がします。ほら、世の中にはいるでしょ、人殺しが好きで堪らない連中が。そうした奴等が、たまたまこの街に来ただけかもしれませんよ?」

「うーん……」


 ヴォルフとユーリィが声を揃えて呻っていた。どうやら二人は納得がいかないようだ。ジェイドとしては一番可能性があるのはそれだと思う。だから二人が何を悩むのかよく分からなかった。


 その後しばらく三人は黙り込んでいたが、やがてユーリィが顔を上げヴォルフを見た。


「とりあえず、僕はもう少し探ってみる」

「一緒に行こうか?」


 ヴォルフも腰を上げかけたが、ユーリィが片手で制止した。


「いい。夕方までには戻るから」

「気を付けろよ。君は暴走するから……」

「今回は慎重にするさ」


 疑るようなヴォルフの視線を無視し、ユーリィはその場から立ち去ってしまった。


 あとに残ったジェイドとヴォルフは、しばらく黙ってお茶を啜っていた。ヴォルフは何かしきりに考えているようで、ジェイドは声をかけづらく、彼から何か言い出すまで待ち続けた。


 ようやくヴォルフが顔を上げる。


「午前中はユーリィと一緒だったのか?」

「ええ、まあ」

「仲直りしたんだな。それは良かった」


 仲直りというより自分が折れたんだと言いたかったが、ジェイドはグッと我慢した。


(ヴォルフさん、絶対にアイツから助けてあげますからね)


 ジェイドの頭の中では既に、“ユーリィ=脅迫者”の関係が出来上がっている。だがそれが勘違いだとは、もちろん本人も気づいてはいないし、ヴォルフもまた、安心した表情でニコニコと笑っていたのだった。



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