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金色の誘惑  作者: イブスキー
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第7話 (ジェイド)

 ヴォルフが立ち去ってからしばらく、ジェイドは茫然と食堂に座っていた。運ばれてきた朝食を突っつく。自分の態度が悪かったのだと素直に認めるのに、少し時間がかかっていた。


 子供っぽかったと思う。ヴォルフに憧れる自分があんな女々しい態度を取るのは間違っていたと、ジェイドは心から反省した。しかしユーリィという存在が疎ましいのは事実だ。ヴォルフは“友達”だと言っていたが、彼は年長者に対する謙虚さが一つもない。少なくてもヴォルフと対等な立場にいられる人間だとは、ジェイドにはどうしても思えなかった。


(とりあえず、アイツに謝るだけ謝っておこうかな)


 こんな事でヴォルフに嫌われたくはない。彼は昔、本で読んだ格好良いハンターそのものなのだ。通り名が付くほど有名であるヴォルフは、あの主人公のように決して横暴な態度を見せることはない。長身で顔も良くて女にモテるし、本当に本の主人公が抜け出してきたようだとジェイドは思っていた。


(俺もああいう男になりたいなぁ)


 いつの間にかヴォルフの相棒として一緒に旅をすることが、ジェイドの夢になっていた。



 食堂を出て二階の廊下を歩いていたジェイドは、偶然にもユーリィとすれ違った。薄暗い廊下だったが、相手も直ぐにジェイドのことに気付いたらしい。口の中で“どーも”とか、そんなことを呟きながら何か言いたげに立ち止まったユーリィに、ジェイドは先に話しかけた。


「さっきは悪かったから謝る」

「別に謝る必要は……」

「大人げない態度だった」


 ユーリィは無表情のままジェイドを見つめている。何を考えているのか全く読めない相手だ。


「僕も謝った方がいい?」

「これでも一応反省して謝ってるんだから、そういう言い方はないだろ?!」


 何故だろう。彼と話すと喧嘩腰になっていく。それともこれが彼の作戦なのだろうか?


「一応……」

「喧嘩売ってるのか?」

「別にそんなつもりはないから、いちいち反応しないで欲しい。それよりお前、今暇?」

「言っておくけどオレの方が一つ上なんだから、名前を呼べよ」

「ジェイドさんの今日のご予定は?」


 本当に頭に来る相手だ。こんなヤツとまともに話が出来るヴォルフは、色んな意味で尊敬に値する。それとも怒らず話せる事が“大人”なんだろうか?


「ヴォルフさんは?」


 怒りたいのをグッと堪えて、ジェイドは逆に尋ね返した。


「ヴォルフは独りで情報収集に出かけた」

「なら別に予定はないよ」

「それならこれからちょっと付き合って貰いたいんだけど」

「どこに?」

「調査」

「まあ、いいけど……」


 自分の平常心を心配しながらも、ジェイドはつい頷いてしまった。


(ムカつくけど仕方がない)


 ヴォルフと一緒にいられないのは残念だが、自分に出来ることがあるなら少しでも動いた方がいいかもしれない。もしユーリィが気に入らなかったら、一人になったっていいわけだし。少なくても“一緒にいる努力をした”と言うことを示せば、朝の失態を取り返すことは出来るだろう。


「で、調査ってどこに行くつもりだよ?」

「被害者がどんな人だったか知りたいんだよ」

「誰にどうやって聞くんだよ?」

「それを考えるのが、お前……ジェイドの仕事。僕は人当たりが悪いからね」


 何だ、分かってるんじゃないかと、ジェイドは呆れながらユーリィを見返した。


「一つ確認だけど、オレに尋ねてこいと命令してるんだな?」

「命令してない。お願いしてるんだ」

「お願いしている態度には見えない」


(こんな横柄な奴、会ったことがない)


 そういう意味では珍しい人種だが、珍種に会えて嬉しいとはちっとも思わなかった。


「あのさ、別に手伝うのは構わないけど、その前に言っておきたいことがあるんだよね」

「何だよ」

「態度が相当悪いと言うことは自分自身も気付いているらしいけど、もう少し(へりくだ)ることも覚えた方が、今後の人生の為だと思うぜ」


 途端、ユーリィの顔が険しくなる。いや、険しくなったと言うより、寂しそうになったと言うべきかもしれない。もしかしたら自分で気付いてはいるが、改められない事情があるのだろうか?


「とにかく、オレに対しては歳が近いからいいけどさ、せめてヴォルフさんにはもう少し丁寧な言葉を使えよ」

「アイツに礼儀正しくしたら、つけ上がるだけだ」

「ヴォルフさんは立派な大人で、その上名の知れたハンターだ。その人つかまえて“つけ上がる”はないだろ?!」


 ユーリィは反論するように口を開きかけたが、何か思い直したらしく、口の中でブツブツ呟いて、そのまま黙り込んでしまった。きっと痛いところを突かれたからだろうと思ったジェイドは更に続けて、


「オレはいつかヴォルフさんの相棒になる予定なんだ。だから君が彼にあんな態度を取るのは許さない」

「ええっと……頑張ってくれとしか言えないけど……」

「何だよ、それは?! 言っておくけど、君をライバルなんて認めないぞ」

「ラ、ライバル?!」


 ユーリィには珍しく、はっきりとした驚愕の表情を浮かべていた。


「それともヴォルフさんの弱みでも握ってるのか?」


 探るようにユーリィを見る。ヴォルフの態度といい、どうも二人の関係には謎が多い。


「ヴォルフのことはもういいじゃないか。別に尊敬するなとは言ってないし、それ以上深く追求するなよ」


 ジェイドは絶対に何かあると確信した。きっとヴォルフはこの少年に何か弱みを握られているんだ。それに付け込んで、ユーリィはヴォルフを利用しようと企んでいるに違いない。


(よし、絶対に突き止めて、ヴォルフさんを助けてやる!)


 ジェイドがそんないらぬ決心をしたことなど、ヴォルフも、そしてユーリィも知る由もない。


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