表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金色の誘惑  作者: イブスキー
4/36

第4話 (ヴォルフ)

 ユーリィが荷物を持ってくるまで、ジェイドと二人、ヴォルフは先に宿に戻っている事にした。途中ジェイドは一度も口を開かなかったが、食堂に着いた途端「ちょっといいですか」と、らしからぬ怖い表情で声をかけてきた。


「なんだ?」

「アイツ、ヴォルフさんの何なんですか?」


 何だと言われても、まさか“片思いの相手”とは答えられない。


「弱みを握られているんじゃないでしょうね?」

「よ、弱み?!」

「だってヴォルフさん、妙にアイツに弱腰だし、気を使ってる感じがしました。あんな生意気で礼儀も知らないヤツとヴォルフさんが友達なんて、オレは信じられません」


 生意気で礼儀知らずなのも、弱みを握られているのも、気を使っているのも事実だ。ジェイドの言うことは全て正しかった。


「彼は生意気だけど、根は優しい子だから」

「でもヴォルフさんが気を使うのは変です」

「気なんて使ってないさ」

「オレはヴォルフさんのことを凄く尊敬しています。格好いいし、強いし、優しいし、頭が良いし……」

「買い被りすぎだ」

「そんなこと無いです! だけど、あんなヤツの命令に従う姿に、ちょっと見損ないました!」


 もし本当のことを知れば、もっと軽蔑される可能性は大だ。自分は聖職者や偉人ではないが、やはり大人として立派な姿を見せたいと思うのは見栄だろうか、それとも歳を取った証拠だろうか。ヴォルフはやや視線を逸らしながら、そんなことを考えた。


「何かオレに出来ることないですか? もし脅されてるなら……」

「い、いや、脅されてるとか、そんなことはない。いわゆる“腐れ縁”ってやつだ。俺も言われっぱなしじゃないから、心配しなくてもいいよ」

「そうですか……」


 明らかに納得していない表情で、ジェイドは頭を軽く下げて食堂から出て行った。



 しばらく待っていると、やがてユーリィが姿を現した。


「また安宿に泊まってるなぁ」

「君みたいに金は無いんでね」

「高いところに泊まるのは、安全確保のため」


 ぶつぶつと言いながら彼は食堂にいた宿屋の主人に歩み寄る。宿泊の手続きをしてキーを受け取っているその姿を眺めながら、ヴォルフは軽くため息を吐いた。


 ユーリィはいつも波乱を持って現れる。前回も、前々回もそうだった。そして今回も予感は嫌な方向ばかり指している。ジェイドの言うとおり、弱腰である事は確かだとヴォルフは思った。こんな無茶な要求など“無理だ”の一言で断ってしまえばいい。子供の遊びに付き合っているほど暇じゃないんだと……。


「言えないだろうな、俺」


 呟きながら、食堂から出て行くユーリィの後に従った。



「今夜から少し動いてみるよ」


 部屋の前でヴォルフがそう声をかけると、


「うん、ありがとう」


 珍しく申し訳なさそうに返事をし、ユーリィは自分の部屋に入っていった。それを見送ってから自室に戻る。会えた喜びが半減した現実に気落ちして、ヴォルフは倒れるようにしてベッドに寝転んだ。


 会いたいと言ってきた理由が、まさかこんな事とは思ってもみなかった。いや、心のどこかで予感はしていたのかもしれない。彼が自分を恋しがるなどあり得ないことは百も承知だ。


(やっぱり断れば良かったかな……)


 自分だけならまだしも、今回はジェイドがいる。両親からあれだけ頼まれたのだから、彼を危険に晒すわけにはいかないだろう。けれどもし断ったらユーリィはまた消えてしまう。別れの辛さを味わうのはこれが最後したいから、もう独りでは行かせたくなかった。


 責任と愛情の狭間に立たされている。この両方を成就する度量が果たして自分にあるのだろうか。考えれば考えるほどヴォルフの胸に不安が募った。


 起きあがり、サイドテーブルに置いてあった煙草にランプで火をつける。薄暗くなった室内に紅い点が、やけに生々しい色に見えた。


 いつかこうした事一つ一つを思い出す日が来た時に、自分はまだ彼を追いかけているのだろうか。


「もう二度と会えなくなっていたりして」


 嫌な想像を潰すように、ヴォルフは灰皿の底で煙草の火をもみ消した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ