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金色の誘惑  作者: イブスキー
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第31話 (ユーリィ)

 ダーンベルグ邸に着いたユーリィは、正面玄関の呼び鈴を鳴らしたものの、誰も出てくる気配がないことにイライラした。時間が時間だけに寝静まっている可能性もあるが、ダーンベルグは絶対に起きていると思っていた。

 何度もベルを鳴らし続け、ようやく眠そうな顔をした執事が、シャツとズボンというラフな格好で姿を現した。


「こんな早朝に何のご用ですか?」


 よほど腹が立っているのか、冷たい口調でユーリィを睨み付ける。


「ダーンベルグさんに取り次いでくれ。ユーリィ・イワノフが急用で来たって」


 イワノフの名前に驚いたのか、執事はあたふたと中へ走っていった。


(早くしないと、もしかしたらヴォルフが来ちゃうかもしれない)


 伝言はしたが、ジェイドが伝えない可能性もある。もしそれを聞いてもヴォルフならきっと飛んでくるに違いない。過去に何度も怒りながら戻ってきたヴォルフの姿を、ユーリィは思い出した。


 だが同時に、先ほどジェイドのそばで優しく笑っていた彼も思い出した。


(でも、きっとジェイドに乗り換えちゃったから……)


 今頃きっと宿屋に戻って、街を出る算段でもしてるんだろうなと想像した。そう思うと、また再び胸の奥が痛み出す。ヴォルフに好かれていたことが、本当は嬉しかった自分がいて、それが奥の方で暴れてるんだと言うことに気がついた。


(きっと忘れられるのが嫌なだけだ)


 ユーリィは心の中で呟いた。以前ヴォルフが言ったとおり、これは自分の我が儘な願望なんだ、と。城に帰れば、ヴォルフのことなんて忘れるに違いない。忘れるけど忘れられるのが嫌だから、我が儘な自分が怒っているのだ。


(ヴォルフの役目は終わったんだ。ロジュがその役目にあるって言ったじゃないか)


 その時、執事が戻ってきて、丁寧に頭を下げて二階の奥へと案内した。



 ダーンベルグは二階の部屋で待ち構えるように立っていた。ベッドの脇で嫌らしい笑みを浮かべ、舌なめずりをするような表情に、ユーリィは吐き気すら覚えた。


「わざわざ来てくれるなんて嬉しいね、ユーリィ君」

「楽しい遊びをしに来たんですよ、市長」

「市長なんて呼ばないで、オーラフと呼んでくれないかな」


 ユーリィは立て襟のボタンをいくつか外した。そこには、ヴォルフの付けた赤い痕が鮮やかに浮かんでいる。


「おや、それは?」

「言わなくても分かるでしょ?」

「なるほど、君は経験済みですか。それはちょっと残念だね。私は無垢の体を弄るのが好きなんですよ」

「では帰りましょうか?」

「いえいえ、折角なので楽しみましょう」


 市長が手を伸ばす。ユーリィは腰にあるシミターに右手を添えながら、ゆっくりと近付いていく。やがて彼の手が届く範囲に来た時、シミターを抜き取ると市長めがけて振り上げた。


 しかしそんなユーリィの動きを察していたのか、市長は素早くユーリィの手首を掴むと、湾曲した剣をベッドの下へと叩き落とした。


「そんなことだと思いましたよ」

「くそっ!」

「君がどうやって逃げ出してきたか、後でじっくり聞くことにしましょう」

「離せ!!」

「楽しみに来たのでしょう?」


 右腕をねじ上げられ、強引にベッドへと押し倒された。見た目以上にダーンベルグは力が強い。そのままのし掛かられ、頭の上で両手を重ねた状態で押さえ付けられた。


「おや、震えていますね? もしかして経験済みというのも嘘ですか?」

「この変態! こんなことをしてただで済むと思うなよ!!」

「イワノフ家のご子息がそんな乱暴な言葉を使っては駄目ですねぇ」

「うるさい!!」

「やはり殺すのが惜しくなりました。代わりの死体でも用意して、じっくり調教でもしましょう」

「ふざけるな」

「ああ、なんていい香りだ。この香気に酔いそうですよ」


 ユーリィは激しく抵抗した。数日のうちに、二度もこんな目に遭うとは思わなかった。尤も今回は、自ら餌食になるように仕向けたのだが。

 ロジュが早く来てくれと心で祈った。辱めを受けたあとに来るなんてことになったら、むしろ来ない方がいいぐらいだ。

 首筋にダーンベルグの唇が寄せられる。気色悪くて吐きそうだが、感じたようなそぶりで呻いてみせる。それがよほど嬉しかったのか、ダーンベルグは少しだけ拘束を緩めた。その隙をついて、押さえ付けられた左手を抜くと、上着のポケットに手をやった。


 丸い玉が指に当たる。さすがにこの場では使えない代物なので、諦めて別の物をと探っていると、ダーンベルグに気付かれてしまった。


「おや、まだ抵抗するつもりでしたか」


 市長はユーリィの左手を強引にポケットから引き出した。掌と一緒に丸い玉が落ちていく。


(あ、ちょっとそれ、ヤバイかも……)


 転がっていく玉を見ながら、毎度おなじみの展開になる予感がして、ユーリィは顔をしかめた。



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