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金色の誘惑  作者: イブスキー
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第23話 (ヴォルフ)

 エルフに激痛の走る足を押さえられ、ヴォルフは逃げようにも身動きが取れなくなってしまった。


「よせ!」


 しかし強引に掌をあてがわれ、やがて消えていく痛みを感じて、もうどうすることも出来ないことを知った。


 またユーリィがつまらないことを考えている。勝手に何かを思い込み、城に戻ることを決意したらしい。先ほどの乱暴が原因なのか、それとも別に理由があるのか。

 どうして彼は、これほど好きだと思っていることを分かってくれないんだろう。

 幸せになる為の道を模索してくれないのだろう。

 一つだけ分かったことは、先ほど怒ったのはジェイドを危険な目に遭わせた為だと彼が思い込んでいることだ。


(なんで、そうなるんだ!)


 怒ったのは、いつまでも気持ちを受け入れてくれない事にムカついたんだと説明したかった。誤解だけは早く解かないと、彼はますます訳の分からないことで暴走するに違いない。


「ユーリィ、俺が怒った理由は……」

「ユーリィ様、もうすぐ憲兵達が現れるでしょう。その前にお着替えになった方がよろしいかと」


 エルフが遮るように言った。その言葉に、ユーリィははだけた自分の姿を眺め、「あ、そうだね」と口走りながら自分の部屋へと走って行く。彼が室内へと戻った姿を確認し、ロジュはヴォルフの足から手を離した。


「何で邪魔をした?」


 そう言いながら、ヴォルフは立ち上がったロジュを睨み付ける。わざと彼が遮ったのは分かっていた。


「貴方の弁護など無意味だと思ったからです。それにイワノフ家としては、ユーリィ様にご自分の役割を果たしてもらう予定ですから」

「役割? それはどういう意味だ?」

「何とでも解釈していただいて結構です」


 ロジュは少しだけ顔を上げると、フードの中から白目の少ない紅い瞳でヴォルフを凝視した。


「私はあの方をお守りしたいのです。もう手遅れかもしれませんが……」

「手遅れ? 何が手遅れだって言うんだ?」

「近い将来、あの方が背負う役割、いえ宿命ですよ。ですがその時は貴方はお側にきっといないでしょう。(まじな)いの力で繋がった貴方には……」

「呪いって何の話だ?」


 その時、服を着替えたユーリィが戻ってきた。睨み合うように対峙しているヴォルフ達を怪訝な顔で見比べる。


「喧嘩してるの?」

「いや、別に」


 そう答えたのは、これ以上ユーリィに誤解を与えない為だ。


「ロジュ、さっきの事でもうヴォルフを怒るなよ」

「俺が悪かったんだ。もうあんなことは絶対にしないから……」

「今はそんな話をしてる場合じゃないだろ。それよりロジュ、もう一つ頼みがある」

「ジェイド殿を探せとおっしゃいたいのでは?」

「そうだよ」

「分かりました」

「出来るの?」


 その言葉にエルフは微笑みを浮かべると、右手を前へと差し出した。

 掌に黄色い光が現れる。やがて、その光から数十匹の茶色い蛾が次々と飛び出してきた。ヒラヒラと天井まで舞った蛾達は、半透明になりながら天井の壁を抜けていく。


 目の前で見せつけられた光景に、ヴォルフはロジュというエルフはやはり一筋縄ではいかない術者だということが分かった。


 蛾がすべて消え去ったのち、ロジュはユーリィの方へと再び向き直った。


「術者が一緒なら、わりと早く見つかるでしょう。ですが彼を助け出すのは、グラハンス殿のお役目ですので手出しはしません」

「危険な状態だったら連れ出して欲しいけど、多分まだ大丈夫だと思う。ダーンベルグがそうさせないだろうから。でも早く動かないと別な意味で危険かもしれない」

「どういう意味だ?」


 ヴォルフが尋ねたが、ユーリィは肩をすくめて黙ってしまった。

 どうして彼は話してくれないのだろうか。俺が怒るのが怖いのだろうか。前回もそれが原因で色々なトラブルが起きたというのに。結局、自分は信用されていないだけかもしれない。けれど怒って先ほどのような事をしたのでは、信じろという方が無理だろうとヴォルフは自戒した。


「では、私はあの子達からの報告を外で待つことにしましょう」


 そう言って一礼をしたロジュは、普通に階段を降りていく。消えるかと思ったヴォルフは少々肩すかしを食らった気分だった。


 ロジュの姿が見えなくなると、ユーリィは慌てたように自室へ戻っていった。その後を歩けるようになった足でヴォルフが追いかける。


「おい、どうするつもりだ?」

「いいことを思いついちゃった」

「いいこと?」


 本当にそれがいいことならいいのだが。


 そう思いながら、室内に入って荷物を開けるユーリィの後ろに立つ。


「ジェイドを僕と間違えてるなら、それを信じ込ませておこう。ダーンベルグが見たらバレちゃうだろうけど、まさか自分の屋敷に連れ込んではいないと思うから、先手を打つ」

「ダーンベルグだって? アイツが犯人だって思ってるのか?」

「アイツ以外考えられない。でも今は理由を話す時間がない」

「どうやって先手を打つつもりだ?」

「この手紙を使うんだ」


 鞄の端に数枚束ねてあった封筒を一枚抜き取って、ユーリィはヴォルフに押し付けた。


「これを使って、攫われたのがイワノフ家の人間で、早く見つけ出さないとイワノフ家がこの街に報復するとかなんとか、憲兵たちを適当に脅して」

「俺が、か?」

「子供の僕じゃ変だろ?」

「まあ、そうだけど」


 ユーリィの作戦は思った以上にまともだった。

 考えたら、自分が振り回されるのは、頭の回転が速い彼に付いていけないだけかもしれない。


「きっとダーンベルグに報告に行くだろうし、用心して今夜はアイツも動けない」

「時間稼ぎにしかならないな」

「それでもいいよ、ロジュが探してくる時間を確保したいだけだし」

「そもそも、ダーンベルグが君を攫おうとした理由は何だと思うんだ?」

「たぶん、アイツが変態だから……」

「え?!」

「いや、何でもない」


 その時、窓の外から大勢がやってくる足音が聞こえてきた。



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