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金色の誘惑  作者: イブスキー
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第20話 (ジェイド)

 ヴォルフがユーリィを強引に引っ張って部屋に入ってから数分が経つ。ジェイドはどうしたらいいのか分からず、二人の消えた部屋の前で立ち尽くしていた。

 ヴォルフは何故かユーリィに怒っていた。主従関係だと思っていたのにそうではなかったのか。


 しばらくすると怒鳴り声が聞こえてきた。言葉は聞き取れなかったが、その声の主がヴォルフのだということだけは分かる。ひと月一緒にいて、ヴォルフはハンターらしからぬ穏やかな人柄だと思っていたので、激高したヴォルフに驚きを隠せない。


 何度かヴォルフが怒鳴ったあと、「やめろ」というユーリィの叫び声がした。

 二人を止めに入った方がいいのだろうか。もちろん殴り合いの喧嘩をしているとは思っていない。ヴォルフは背が高くハンターとしても腕があるし、ユーリィは自分よりも華奢な体格だ。あり得るとしたら、一方的にユーリィを殴っているヴォルフだが、彼がそんなことをする人物だとは思いたくなかった。


 やがて室内から音が消えた。仲直りをしたのだろうと安心して部屋に戻りかけたジェイドだが、なにかが激しく倒れる音が聞こえてふたたび足を止める。


(いったい、何がどうしちゃったんだ!?)


 二人の関係がさっぱり分からないので、自分が口を挟んでややこしくはしたくない。それにユーリィを助けに入るのも変な話だ。


(アイツ、生意気だからヴォルフさんが切れちゃったのかもしれないな)


 そうだとしたら、良い薬だとジェイドは思った。


 刹那、階下で怒号のような叫び声が聞こえてきた。なにかが割れる音がする。続けざまに激しい足音が階段を駆け上がってくるのが分かった。驚いて狭い階段を見下ろすと、背後で扉が開く気配がした。


「ジェイド、そこをどけ!」


 振り返れば、ヴォルフが槍を持って立っていた。


「いったい何が……?」

「何が起こるのかはこれから分かる!」


 言われるままに数歩下がったジェイドは、階段の途中にある踊り場に目をやる。すると、白銀のプレートアーマーがガチャガチャと音を立てて姿を現すのが見えた。


「な、なんだよ、あれ……」


 ジェイドは驚きで声を詰まらせる。全身を甲冑で覆われた者を見るのは初めてだ。その上、右手には大きなブロードソードを握っていた。


「まさか……」

「来るぞ!」


 甲冑の擦れる音を響かせて、敵は階段を駆け上がる。待ち構えていたヴォルフが槍を突き出すと、敵は手にした剣でそれを振り払い、その金属音があたりに響き渡った。

 振り上げた剣を両手に持ち直し、敵がヴォルフの肩に狙いを定める。それを察したのかヴォルフは一歩後ろに飛び退くと、両手で槍の柄を掴んで剣を止めた。

 鎧がない分、ヴォルフの方が動きが速い。そのまま足で敵の腹を蹴飛ばした。しかし階段の下へと落ちる前に、敵は自ら飛び降りて体勢を立て直していた。

 あんな重い甲冑なのに、思った以上に素早い敵だ。その上、こんな狭い場所では槍を持つヴォルフの方が不利であることは、素人のジェイドにもはっきり分かった。


(ヴォルフさん、頑張れ)


 応援することに夢中になり、ジェイドは逃げることを忘れていた。何か自分が援護できないだろうかと考える。しかし自分の剣は部屋にあるので、加勢は出来そうにもない。


 徐々にヴォルフは押され始めていた。槍の中央を持っているものの、左右に振れない槍の攻撃は、甲冑にもその威力を阻まれている。

 ヴォルフは廊下の方へとジリジリと下がり、間髪入れずに繰り出されるブロードソードを槍の穂や柄で防いで(かわ)していた。

 ジャケットすら身につけていない彼に当たったら、きっとひとたまりもないだろうと思うとジェイドは気が気ではない。


 不意打ちでも加えられないものかと、ジェイドは甲冑の背後へ少しずつ近づいた。


 あと少しで敵を蹴り付けられると思ったその時だ。


「ジェイド!」


 ヴォルフの叫び声に体が止まる。同時に後ろから誰かに引っ張られた。

 咄嗟に振り返ろうとしたその時、鳩尾に強い衝撃を感じ、ジェイドの意識は瞬間で遠くなっていった。



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