表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金色の誘惑  作者: イブスキー
18/36

第18話 (ヴォルフ)

 ヴォルフは怒っていた。その怒りをぶつけるように何度もユーリィを睨んだが、彼は気づかないふりをして目を合わせない。そんな態度もまたヴォルフの怒りを増幅させていた。


 宿屋に着き、部屋の前に来たところでその怒りが爆発した。


「ユーリィ、ちょっと来い」


 その手首を掴みグッと引っ張る。驚いて暴れようとしたユーリィだったが、絶対に離すつもりはなかった。


「な、なんだよ!?」

「いいから来いって言ってるんだ」

「放せよ!」


 抵抗を無視して、部屋の扉を開けて強引に彼を押し込む。振り返ると、愕然としているジェイドと目が合ったが、それを無視して扉を閉めた。


 中に入るとユーリィが仁王立ちでこちらを睨んでいた。


「こんな乱暴なやり方は許さないからな」

「だったらさっきのアレはなんだ?」

「はぁ? なんの話だ?」

「とぼけるな」

「もしかして、ダーンベルグと話してた時のことを言ってるのか? だったら完璧だっただろう? 親父の真似をして話せばいいんだから簡単だ」

「ああ、完璧すぎて驚いたぜ」


 ヴォルフの言葉にユーリィは“ふん”と鼻を鳴らした。


 慇懃な態度や言葉遣いは、ユーリィがイワノフの城でしていたことなのだろう。あの城で彼がそうして暮らしていたことを知っていたヴォルフは、別に驚きもしなかった。彼が自分を一切殺していたと想像できるだけに心が痛んだだけだ。


 きっとジェイドの言葉がきっかけだろう。

『貴族の子供は貴族だろ』

 ジェイドがそう言い放った瞬間、ユーリィの顔から表情が消えていった。元々表情に乏しい彼だが、ああいう顔になるのは必ず、心に傷を負ったときだ。更に追い打ちのようにジェイドが家庭の話を始めた時、ユーリィの瞳に以前見たことのある哀しみを感じた。何故なら、ジェイドの話にはユーリィが追い求めても手に入らない、当たり前の幸せが含まれていたのだから。


「ジェイドが原因なんだろ?」

「何のことだか……」

「誤魔化すのは止めろ!」


 言葉を遮り怒鳴りつけると、ユーリィは反論する言葉を失ったのか、口を開いたまま視線を落とした。


「貴族の子供らしく振る舞っただけだよ」

「ジェイドは悪気があって言ったわけじゃ無いんだぞ?」

「知ってるよ、そんなこと……」


 本人も子供じみていたことは気づいているのだろう。口元をやや尖らせて、部屋の端を見つめている。ヴォルフはそんな彼の態度にやや怒りを静めたものの、まだ言いたいことが残っていた。


「君の気持ちは分からなくもない。けどな、最後の最後にまた暴走したな?」

「暴走? 何のことだかさっぱり……」

「最後の話のことだ。あれはいったい何事だ?」

「別にヴォルフに話す必要はない。というか、ヴォルフには関係ないから」


 関係ないと言われ、再びヴォルフの怒りが燃え上がった。


「関係ないだって? だったらこんな事件に俺を巻き込んだのは何故だ?」

「もう僕一人で解決できそうだから、消えてくれても……」


 言いかけるユーリィにヴォルフは近づいて、その襟元を掴み上げた。


「今更そんなことを言うつもりか。分かってるのか、今回はジェイドがいるんだぞ!? 暴走して俺を巻き込むのもかまわないけどな、アイツを危険な目に遭わせるのは絶対に許さない!」


 瞬間ユーリィの青い瞳が見開かれる。それからフッと鼻で笑い、


「へぇ、僕にその気がないから、今度はジェイドか?」

「な……に?」

「やることしか考えてないんだろ、お前」


 その言葉にヴォルフの中の何かが切れた。

 彼を掴んだままベッドの方へと数歩歩く。そのまま彼をベッドへと力を込めて()ぎ倒し、ジャケットを脱ぎ捨てて覆い被さる。暴れようとする足を自分の太ももで押さえ、その両肩に手をついて拘束した。


「だったらそうしてやる!」


 本気で犯そうと思った。そんなふうにしか自分を見ていなかったのかと思うと腹が立つ。俺の気持ちなんて無視なのか。だったら、もうこんなクソ生意気なガキに気を遣う必要などない。どうせ好かれないのなら、欲情だけは満足させてもらおうじゃないか、と。


「やめろ!」


 叫びながら必死に逃れようとして藻掻いていたユーリィだったが、敵わないと知ったのか急に全身から力が抜けていく。手を焼かされなくて丁度いいと思いながら、ヴォルフは乱暴に彼のシャツを引き千切った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ