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金色の誘惑  作者: イブスキー
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第17話 (ジェイド)

 通された食堂には、豪華なマホガニー製の長テーブルがあった。ホスト役の市長とゲスト三人には大きすぎるテーブルである。

 次々と出された皿に、高そうな食材の食べ物が乗っていて確かに美味しそうなのだが、如何せんジェイドにはマナーが分からない。だいたいフォークとナイフとスプーンの数が異様に多いし、グラスも沢山用意されている。

 スティール家は貧乏というわけでもなかったが、こんな食事をするほど裕福でもなかった。食べ物は母親が作り、山盛りのポテトをみんなで回して皿に取るだけ。スプーンもフォークも一人一本だったし、ナプキンなど使ったこともなかった。仕方がなくジェイドは、見よう見まねで食べてみたが、緊張の為か味が殆ど分からなかった。


「なるほど、それは大変ですね……」

「犯人の目星は……」

「魔物という可能性は……」

「フェヴァン氏というのは……」


 ユーリィとヴォルフが質問し、それに市長が答える声が聞こえてきたが、ジェイドはそれどころではなかった。肉の上に何やら沢山乗っている。フォークで切ろうとすると全部落ちてしまった。これは乗せ直して食べるべきなのか、それとも別々に食べても良いものなのか。皿の端にちょこっとあるソースは残して良いのか、それとも(すく)って舐めるべきなのか。考えることが一杯あって、話を聞いている余裕がない。

 最後のコーヒーが出てきた時、ジェイドはようやくホッと一息ついた。


 別室にコーヒーカップを持って移動する。ヴォルフと市長はワイングラスを片手に、部屋中に点在する高そうな椅子やソファーに腰を下ろし、事件についての話が再開された。


「一つお伺いしますが、グラハンスさんはフェヴァン氏をお疑いですか?」

「そんなつもりはありませんが、何故?」

「いえ、先ほどフェヴァン氏について気にしていらっしゃったようなので」

「被害者の夫婦と関係があると聞いて、少し気になっただけですよ」


 その言葉にユーリィがチラッとヴォルフを見る。何か言いたげに口を開きかけた彼だったが、思い直したのか何も言わずに口を閉ざした。


「フェヴァン氏は色々と噂がある人物で、私も頭を悩ませていたところなんですよ」

「色々な噂とは?」

「彼はソフィニア近郊の街で手広く商売をしているようですが、やり方が少々強引だという話です」

「この街に住んでいるのですか?」

「ええ、この屋敷の隣がそうですよ」

「なるほど」


 ヴォルフが言っていた“フェヴァン犯人説”も有力になったなとジェイドは思った。金持ちの商人なんて碌な奴がいないという偏見も含まれている。


「いずれにせよ、ハンターの方々にご尽力を仰ぐしか街に平和は訪れないでしょう」

「最善を尽くします」


 そう言ってヴォルフは軽く頭を下げた。話はそこで打ち切りというような雰囲気が流れ、ジェイド達が立ち上がろうとしたその時だった。


「僕も狙われると思いますか?」


 声を落として、ふとユーリィがそんなことを言い出した。


「それはどういう意味ですか?」

「いえ、気になっただけです」


 そんな会話にジェイドはあの野菜売りの言葉を思い出した。そういえばユーリィも黙っていれば可愛い顔をしている。もしあの話が本当なら狙われるかもしれない。

 今まで殆ど喋らなかった後ろめたさに、心に余裕が生まれた事も後押しして、つい口を挟んでしまった。


「危ないかも。昼間会った露店の女性が、綺麗な男が狙われるって言ってたから」


 すると、それまで微笑みを絶やさなかった市長の顔が冷たく歪んだ。


 しばし時が止まったような沈黙が流れた。市長の持つワイングラスは変な位置で止まっている。

 ジェイドは余計なことを言ったのかと思い、首を竦めて「すみません」と謝った。その言葉がきっかけとなり、市長はゆっくりと破顔する。


「世の中にそういう根も葉もない噂を流す連中がいるのは、全く残念です。市長としてこれ以上、市民を危険な目に遭わせるわけにはいかないと思っているというのに、本当に嘆かわしい」

「本当にそうですね」


 ユーリィは薄笑いを浮かべながら市長を見返した。


「そういえばダーンベルグ市長、思い出しましたよ」

「思い出した? 何を?」

「僕が貴方に初めてお会いしたのは、舞踏会の夜でしたよね?」

「そ、そうでしたか。あまり私は覚えていないのですが……」


 市長は妙な表情で視線を泳がせた。


「中庭で貴方は僕に声をかけましたよね。それから楽しい遊びをしてくれて……。あんな経験は滅多にないので夢だと思ってましたが。あの遊びは今も続けてますか?」


 ジェイド達が唖然とする中、ユーリィはコーヒーカップを置いて、そのまま部屋から出ていった。



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