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金色の誘惑  作者: イブスキー
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第14話 (ジェイド)

 夕方、ヴォルフが戻ってきたので、ジェイドは彼の部屋を訪ねることにした。気分も晴れたことだし、二人だけの時みたいに、ハンターの仕事について色々と教えてもらいたかった。けれど直ぐにユーリィがやってきて、当然のように椅子に座ってくつろぎ始める。何か邪魔された気分で、ジェイドは面白くなかった。


「これは仇討ちだのというレベルじゃないな」


 ヴォルフの言葉に、ユーリィが軽く頷いて見せた。

 ジェイドは昨日見た死体を思い出し、気分がまた少し悪くなる。もうこんな事件は放置して欲しいのというの本音だ。少なくても自分は、この事件で振り回されるのは嫌だった。そもそも何故ユーリィの恋の為に、こんな嫌な思いをしなければならないのか。


「まだ続くと思う?」

「かもしれないな」

「ヴォルフは、犯人はどんな奴らだと思う?」

「俺はフェヴァンとかいう商人を多少疑ってもいいとは思っている」


 ヴォルフがそう言うとユーリィは同意しかねるのか、それとも別な意見があるのか、腕を組んで考え込んでしまった。


「何か不満そうだな?」

「不満というわけではないよ」

「今のところ被害者に関係する名前があがってないからな」

「名前と言えばダーンベルグだ」

「まさか市長を疑ってるのか、君は?」


 ヴォルフは本当に驚いた顔をしてユーリィを覗き込んだ。


「違うよ。どっかで聞いた名前だから気になってるんだ」

「それは張り紙とか……」


 と言いかけたジェイドにユーリィは小さく首を振って、


「いやそうじゃなくて。ダーンベルグ、ダーンベルグ……。何処だったかなぁ」

「似た名前の奴じゃないのか?」

「そうかなぁ。でもダーンベルグって名前は絶対に一度は耳にしてると思う」

「だったら実家だろ?」


 ヴォルフの言葉に、ユーリィは“あっ!”と言って唐突に立ち上がった。


「それだ!」

「あ?!」


 ジェイドとヴォルフが尋ねるようにユーリィを見上げる。だが彼は「ギルドに行ってくる」と口走りながら、風のように部屋を飛び出して行ってしまった。


「お、おい! こんな夜中に!」


 慌てたヴォルフが後を追っていったが、すぐに憮然とした表情で戻ってきた。


「どうしました?」

「追い返された。まったくアイツは……」


 溜息混じりに椅子に腰をかけ、イライラと貧乏揺すりを始めたヴォルフを見て、ジェイドは本気で彼がユーリィを心配しているんだなと思った。


(弱みを握ってるじゃなく、ヴォルフさんの優しさに付け込んでるだけかな?)


 と、そんなことを考える。ユーリィが脅迫者でないことは喜ばしいとは思うが、ヴォルフとの親密度を見せつけられているようで何となく面白くなかった。



 しばらく待っていると、ユーリィが意気揚々とヴォルフの部屋へと帰ってきた。走ってきたのか額の汗を拭っている。時は既に夜半を過ぎて、こんな時間まで起きていたことがないジェイドの頭は、眠気でボォーッとなっていた。


「どこ行っていたんだ?」

「情報を収集するのに手っ取り早い方法を思いついたんだ」

「手っ取り早い方法?」

「ダーンベルグだよ。親父に手紙を出してきた」

「まさか……」

「宿命は利用するって言っただろ?」


 交わされた会話の意味がよく分からない。

 が、ジェイドはもう眠くて深く考える余裕もなかった。


「ジェイド、自分の部屋に戻って寝なさい」


 そんな彼の様子に気付いたヴォルフが優しくそう言うと、何故かユーリィが焦った様子で「僕も戻る」と飛び付くように、入ってきたばかりの扉へと近付いた。


「そんな慌てなくても……」

「よ、夜は寝た方がいいからな、うん」

「そのあからさまな態度が腹立つな」

「危険な場所から早く撤退したいだけだ」


 危険って、何が危険なんだろうか。

 働かなくなった頭でジェイドは考える。もしかしたらこの街から撤退するということなのだろうか。


「とにかく、明日には連絡があると思うから、会って話をしてみよう」

「会いに行くつもりか?」

「その方が手っ取り早いだろ?」


 誰に会いに行くんだろうか。

 完全に夢の中に入りつつあるジェイドには、二人の会話を深く考えようとは思わなかった。



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