第1話 (ヴォルフ)
15R指定・BL傾向有りですので、年齢未満の方、苦手な方は移動お願いします。
その手紙が届いたのは、彼と最後に会ってから二ヶ月目のことであった。ギルドに立ち寄ったヴォルフは、渡された蒼白い封筒を眺めドキリとした。
差出人の名はユリアーナ。
まさか何かあったのかなどと良からぬ事を考える。傾向として、物事を悲観的に捉えるのは悪い癖だと思いながら、ヴォルフは恐る恐る封を開いた。
連れが興味深そうに隣で見つめるので、表情を見られたくなくて、ヴォルフはつい横を向いてしまった。
便箋に書かれていたのは、“連絡乞う”の文字と街の名前だ。ソフィニアからさほど遠くないその街は、ヴォルフが今いる場所からも大した距離はなかった。
(何かあったのか?)
次に会う約束したのは来月なのに、その前に向こうから連絡を取りたがるなどおよそ信じられず、嬉しさ半分、不安半分の気持ちで、ヴォルフはしばらく便箋を凝視していた。
「どうしたんですか、ヴォルフさん?」
連れが心配して声をかける。
「知り合いが連絡を欲しがってる。ここから近い場所なんだけど、いいか?」
「ヴォルフさんが行くところなら、何処でも!」
「あ、ああ、そう……」
「ヴォルフさんの知り合いって言うと、やっぱりハンター?」
「後で教えてやるよ」
「はい!」
キラキラと輝く瞳で見上げられ、鬱陶しいことこの上ない。ヴォルフは苦笑混じりに頷くと、便箋を懐にしまい込んだ。
隣に立ってニコニコと笑っているのは、ジェイド・スティールという。茶色に近い金髪と緑色の大きな瞳をした十七歳の少年で、やや浅黒いその顔立ちはどことなく子犬に似ていた。その性格もまた子犬のように素直で、まるで尻尾を振るように懐いてくれる。そんな人懐こく明るい性格の彼に、ヴォルフは時々辟易するものの、誰かと比べて扱い易いなと思っていた。もちろん恋愛感情などは一切沸かないが。
ジェイドが同行することになったのは、友人の達ての頼みだった。彼の知り合いでハンター志願の息子がいて、誰かに預けたいと両親が友人を頼ったのだが、残念ながら彼は現在難しい仕事を抱えている最中だった。その代わりにと頼み込まれ、断り切れずに承諾した。通り名を持つヴォルフに安心したらしい両親は、“お守り役”として金まで支払ってくれた。
それから毎日、森に行っては剣の練習をさせ、時々害虫駆除程度の仕事をした。筋はいいので覚えも早く、案外強くなりそうだと思うものの、まだまだ駆け出しには違いない。金を受け取った手前、怪我などをさせてはならないとヴォルフは常に気を遣っていた。
そんなわけで、ここひと月ほどヴォルフは、ジェイドと行動をともにしていたのだった。
「直ぐ出発できるかな?」
宿に戻ってそう尋ねると、ジェイドは直立不動で“はい!”と返答した。こういう時ヴォルフは苦笑を浮かべるしか対処のしようがない。
「どんな人なんですか? もしかして凄い仕事とか頼むつもりなんでしょうか?」
「い、いや、ハンターじゃない」
「じゃあ、友達?」
「まあ、そんなところかな」
彼を友達と言うべきか。説明しにくいし、したくもない。
(ジェイドとは歳も近いし、会えば何とかなるか)
ここからが試練の始まりとは、その時のヴォルフは知る由もなかった。