第5回
最近は中留御の奴もチャージング時期なのか、当初のあの頭のネジが数本以上はじけ飛んでると思うほどの奇怪奇妙な行動は起こさず、いち、学生としてのスクールライフを堪能しているようだった。
そう思っていたのは俺が平和に日常を過ごしていた所為なのか、事件は唐突に起こった。
「部員集まらないわねー、宣伝はたくさんしたはずなのに」
そりゃそうだ、あんな意味不明の宣伝を見てこの愛好会に顔を出す勇者がいれば、まず俺はその勇者を病院に連れて行こうと思う。勿論、頭のな。
そもそも、この愛好会には今だクラブ活動とは呼べないものだがな…だって顧問が居ないのだから。
「いや、まず考えろ。まずこの愛好会はまだ学校側に認められてない非公認の愛好会なんだよ……」
「それは無い!!学校がこの愛好会を認めないということはありえない!!」
中留御は胸を張って答えた。
おいおい、全くお前のその自身は何処で生産されているんだ?ちょっとその生産場所を俺に教えてくれ……潰しにいくから。
どうやら中留御の奴には俺の常識と言うものが全く通用しないらしく、俺の話しすら聞いてくれない。
「認める認めない云々言う前に、顧問が居ないと話しになんないだろ」
俺は脱力感を全身でフルに受け止めながら、なんとか中留御に喰らいつく。
俺の言がやっと奴の鼓膜の奥へと侵入する事が出来たのか、この会話始めて初めて中留御が俺の質問に答えた。
「確かに顧問いないってのは中々大きいハンディよね……」
うーんと顎に人差し指を当て、考え込む中留御。
いや待て、それはハンディとは言わない。言うなれば操縦士の居ない飛行機で空飛んでるようなもんだぞ……
まず、責任者である先生を顧問としてつけなければ部活は成り立たないだろう。とういうか、この謎の愛好会は全く持ってして、何をどうする目的で作られて、その作られたのがどう世間様の役に立つんだ?
「だーいじょうぶ、私に任せなさいって、顧問の三人や四人簡単に見つけて見せるから!!」
やはり何処で生産されているのか、中留御はやはり自信満々にそう答えた。
「だから、その自身は何処から輸入して来るんだ?お前が多く輸入しすぎているから、全国で小中高学生等に自身が足りない子供が多く出ているんだろうが」
「私は外国産の自信なんか使わないわ、全て国産オンリーよ!!」
自信には海外産と国内産と、ブレンドがあったのか……
「って、ンな事今はかんけぇねえ!!」
「何よーアンタが振ってきたんじゃない、ユウヒ!」
そんなこんなで話が脱線してしまいそうだが、そんな言い争いの中で中留御はある妙案を考えたようだ。
「よし、じゃぁ早速今から顧問を捕まえに行くわよ、前準備がいるから春日ちゃんとユウヒは先行待機をお願いね」
そう言うと、中留御はマッハのスピードで駆け抜けていった。おいおい、ぽつんと取り残された俺と春日さんは何処で先行待機しておけと?
「…帰って良い?」
「え、それは困ります……」
はぁっと二人でため息をついて、多分職員室で顧問を探すであろうから、職員室前廊下で待つことにした。
待つこと十数分…殆ど無人となった校舎に放送のチャイムが鳴り響いた。
「えーっと、マイクテス、マイクテス……」
俺は思わず吹いた。
校内に無数に取り付けられたネズミ色をした箱から、なんとあの中留御の声が聞こえてきた。ついに幻聴までが聞こえるようになったのか……
「一年A組の田中…田中…あぁ、もう名前わかんないわ!!ともかく、田中センセーッ!!至急職員室前廊下に突っ立ってる阿呆ユウヒの元へいきなさい、以上ッ!!」
ブツっと放送が途絶える。いや、それよりも重大なことが。なんか俺の名前が出なかったか?しかもまだ部活中の生徒がいる状態で、俺の社会的地位を貶すような。
ガラガラっと急に目の前の扉が開いた。
「ひ、日之出君!?」
なにやら焦りながら俺の名前を呼ぶ。
「か、勝手に放送使っちゃいけないじゃない……」
「いや、使ったのはあの馬鹿ですよ?」
なにやら、俺はこの校内放送無断使用の犯人にされているぞ?
そんな時、中留御が数人の部下を連れてきた。松木、早田、望ちゃんみたいだ。四人は先生をぐるりと取り囲んだ。なんかそれ、かなり不良っぽい囲み方だぞ、おい。
「ちょっと、なんですか…」
田中先生は少しびくびくしながら中留御に問いかけた。
「此処じゃ話せないわ、ちょっと着いて来て頂戴」
そう言って中留御は先生の手を取って、愛好会会室に向かって歩き出した。というかなんだ、この本人の意思を全く無視した、素晴らしい勧誘活動は。
「え、ちょっと、コレ……」
愛好会会室に入ると、中留御は入り口の扉を閉め、内側から鍵を閉めた。
カチャンと言う音が会室内に響く。それは田中先生にとっては死刑宣告の宣言に聞こえた事だろう。
同情はします…先生。
「まず、率直に言うわ、田中先生…顧問になりなさい」
「え、え、な、なんの…?」
もう田中先生はパニックになっている。
「いいから、なるの?ならないの?」
中留御はなおも先生に詰め寄る。
まて、何時から此処は危ない事務所になったんだ?出口をふさがれ、契約書にサインをしないと外に出られないという。
警察か、警察を呼ばなければいけないな…でも、コレって俺も共犯なのか?
「え、だから何が……」
「意思は固いわね、でも、コレを聞いても貴方のその意思は揺るがないかしら?」
ニヤリと笑う中留御。おいまて、お前は実際今顧問云々より、刑事ドラマごっこを堪能してるだろ?そしてゴクリとそれで喉を鳴らすな、先生!!というか楽しんでない?ねぇ?
「この日之出夕日、見てくれは平凡だけど、その平凡の皮の下には恐るべき顔を隠しているのよ!!」
いきなりワケのわからないことを言い出したぞ、おい。
「実はね、このユウヒ…都市伝説にもなった『四六時中ピンポンダッシュさん』のもとネタなのよ!!」
今明かされる衝撃の事実。いや待て、俺はそんな都市伝説聞いた事もないし、そもそも四六時中ピンポンダッシュをするという素敵で根暗な趣味は持ち合わせていない。
この馬鹿女の中での俺の認識象が見たいね。まぁ多分、かなり歪んでいて人なのかどうなのかかなり怪しい物体になっていそうだが。
「え、え…あの都市伝説…『四六時中ピンポンダッシュさん』が…日之出君なの?」
嘘から出た真か、どうやらそのピンポンダッシュの伝説は存在するようだ。が、しかし俺はそんな噂聞いた事無いぞ。詳細を詳しく聞きたいものだ、誕生のエピソードとかを。
「ユーヒのダッシュはつらいわよ〜ホントに。玄関開けて周囲見ても誰も居なくて、玄関から離れるとまたチャイムが鳴るのよ。まさにそれを職に出来るほど!!」
中留御は調子に乗って話をさらに大事にする。というか、そんな周囲の家のチャイムを押してお給金を出す馬鹿な出資者がいるものか。
「わ、解りました…顧問になります……」
しょぼーんと肩を落として先生は言う。何がわかったのだろうか?
「よろしい、じゃぁ開放」
そう言って中留御はカチャリと鍵を開けて先生を解放する。
「日之出君、お願いだからやめてね」
そう呟いて先生は出て行った。
今俺ははなり歪みまくった人物として認識されたのではないのだろうか?
そんな俺の気持ちはいざ知らず、中留御はご機嫌で周囲の人間とハイタッチをしていた。
どうやら本気でこの愛好会は動き出してしまったようだ。
真に残念なことに。
ちょっと遅れましたが、次話投稿です〜
あと、前の話のレイアウトとかも少し変えてますんで、目を通していただけたら幸いです。