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第27回『幻のアレ?』

 今日も今日で平和な一日である。

 並木と春日さんは携帯のアプリで対戦をしていて、夏目棗はせっせと糸を編んで何か細長い物を作っている。俺の目の前には携帯を両手で抱えて説明書と戦っている四方田。

「登録終わったかー?」

 携帯の画面を開いたり閉じたりしながら四方田の返事を待つ。

「え、えぇっと……これがこれで、アレがこれ……あれ? おかしいですね……エラーって? わわわっ、夕日先輩〜」

 四方田が携帯を片手に泣きそうな目で俺を見つめる。

「またか……」

 がしがしと頭を掻いて、楽しそうに二人でアプリに没頭する春日さんと並木を見つめていると、その視線に気が付いたのか、二人は一瞬俺に視線を向けたが、すぐさまアプリに没頭し始めた。

「夕日先輩、壊れちゃいましたぁ……」

「ちょっと貸してみ?」

 四方田から携帯を渡して画面を開いてみると、確かに画面は真っ暗だった。

 試しに方向キーを入れても画面の暗転はなし。原因は大体解っている。

「ほら、戻った」

 本体側面に付いている小さいボタンの一つを押すと急にディスプレイの電源が入る。

「あ、あれぇ、どうやって戻したんですか、夕日先輩! もしかして夕日先輩ってものすごく凄い人なんでしょうか!?」

 俺を機械関係の扱いが得意な人間を見るような目で見つめる四方田。

「いや、そんなに凄い事じゃないって」

 俺は機械の扱いが特技に入るほど得意じゃない。せいぜいパソコンで停止してしまったプログラムを終了するコントロール&オルト、デリートを使う事の出来るレベルでしかない。

 四方田の携帯の問題だって、俺も何度かやった事があるから対応できただけだし。

「えっとな、四方田……携帯の右横にこの鍵マークの描かれたボタンあるだろ、それを三秒ぐらい長く押してみ?」

「は、はい! えぇっと、この鍵のボタンを長く押すと……おぉおう!? 壊れちゃいましたよ、夕日先輩!?」

「もう一度長押しで元に戻るよ」

 俺の携帯を四方田の顔の前に持っていって操作方法を説明する。

 四方田はゲームの裏技を覚えたての小学生みたいに何度もセルフロックボタンを押す。

 最近まで携帯を持っていなかった四方田が急に携帯を買ったようだが、偶然にも俺と同じ機種で、色も同じと来たもんだ。

 俺の携帯はデザインとかからして携帯メーカーの数種あるうちの機種の中で最も使用している人間が少ないと言われている携帯の一つなのに。

「四方田、そういえば何でワザワザこんなマニアックな携帯買ったんだ? 今だったらもう一つ新しい機種もあっただろうに」

「だって値段的にも安かったですし……最新機種はもう少しレベルアップしてからにしようと思いまして」

「携帯にレベルアップも何にも無いだろう。操作方法殆ど同じだし……よし、登録完了。これで並木や春日さんのやってるアプリできるよ。あとメンバー登録もしてるから、俺達にショートメール送る事も出来るぞ」

「あ、ありがとうございます!」

 何度も頭を下げる四方田。これできっと四方田も俺達と同じ用にアプリ中毒に……それはないか。今の四方田を見ていると、ブックマークからネットに来れるか危ういからな。

「四方田、今のうちに何かわからないことあったら聞くといいよ。俺の方が長くこの携帯使ってるから、教えられると思うし」

「すいません、夕日先輩……何から何まで教えてもらっちゃって」

 目の前に居る俺達の後輩、四方田秋奈はあまり機械に強い方ではなく、携帯なんか持たないでもいいと考えていたようだが、中留御が必死に携帯の必要性を説き伏せ、携帯ショップまで歩いたものだ。

 これだけ聞けば、中留御の無茶苦茶さが際立っているのだが、四方田の家の母も娘が携帯を持たない事で連絡が付きにくく困っていたのか、あっさりと皆で店に行った翌日には新品の携帯を所持していた。

 はじめの内は皆携帯初心者の四方田にメールの仕方などを教えていたのだが、四方田の記憶力の悪さ、というか機械オンチさに真っ先に指導に飽きたのが中留御。気が付けば同じ携帯の機種という理由もあってか、四方田にお勧めの無料サイトの登録の仕方や、アプリのDLの仕方を教えるのは俺の役目になっていた。

 四方田が必死に携帯を弄っていると、四方田の携帯の呼び出し音が鳴る。家の電話の呼び出し音のようなシンプルな音だった。

「はわわ、えっと、夕日先輩、090−○×△□−△×□○って誰の電話番号ですか? 多分クラスメイトのだと思うんですけど!?」

 四方田はカバンから手帳を取り出すとページをめくって、ディスプレイに登録された電話番号を探し始める。

 それにしても、俺に聞かれてもなぁ。

 着信音が鳴った事で並木も春日さんもアプリを中断して四方田を眺めている。

 一分近く呼び出し音が鳴った後、電話が切れる。

「はぅ、電話切れちゃいました。えーっと……今の電話番号は……みっちゃんだ」

 四方田が電話を掛け直す。

 目の前でみっちゃんとやらと授業の課題の提出期限や、CDの貸し出しについて楽しそうに話している。

 その程度の内容だったらメールで十分かと思うのだが、みっちゃんとやらも四方田の携帯のスキルの低さを知ってか、電話にしているのだろう。

 電話の内容よりも、俺は四方田に聞きたいことがあった。

「じゃぁね、また明日!」

 四方田が電話を切る。

「なぁ四方田……携帯のアドレス帳って何人登録されてる?」

「えっと、夕日先輩、中留御先輩、春日先輩、櫻先輩、夏目先輩の五人だけですけど?」

「それ初日に俺達が入れてやった奴だよな。それから増えてないの? 友達のとか」

「それなら大丈夫ですよ、ちゃんとほら、この手帳に!」

 四方田が差し出した手帳を見て一瞬眩暈を覚える。

 手帳にはずらりと二十何人の名称と電話番号やアドレスが書き込んであった。

「……携帯のアドレスに登録しようよ。これじゃぁさっきの電話みたいに、誰の番号か解らないでしょ?」

「え、夕日先輩とか電話番号記憶してるんじゃないんですか? 夕日先輩とかメールを開くとすぐ返信していたので、てっきりアドレスと電話番号記憶しているものだと……」

 そんな所で記憶力を無駄に使用したくないな。そういえばまだ四方田にメールとか送った事無いな。こうやって毎日放課後顔合わせてるからワザワザ家帰ってメール送る必要もないし。

「アドレス帳にアドレスとか電話番号入れておくと名前出るから誰のメールだとか、電話だとかすぐに解るから登録するといいよ」

「登録の仕方が……」

 恥ずかしそうに言う四方田。俺は苦笑いを浮かべ、代わりにアドレス登録を始めたのだった。


 一からメルアドを打つのがこんなに大変だったとは思わなかった。

 八人ほどのアドレスを登録し終わった頃、中留御が上機嫌で会室の扉を開いた。

「よーし、皆居るわね、さぁ、皆カバンを持って! 出かけるわよ!」

 開口一番そんな事を口走る中留御。ちょっと待て。いきなり現れてそれは無いだろう。

「また何か妙な事思いついたのか? 生憎今日はこのままグデグデと解散時間まで過ごしたいんだが?」

 中留御の顔を見始めてもう一年ちょっと経ったんだ。コイツの浮かべる表情の輝きを見てどれ位俺達が迷惑を被るか大体予想できてしまう。俺の経験からして、この表情……ろくな事にならない。

「ユーヒ、まだまだ私らは若いんだからもっとアクティブに動かなきゃいけないじゃないの! よしよし、皆早く移動するわよ、善は急げ、赤信号も急げ!」

 いや、赤信号は急いだら駄目だろ。

 中留御の場合は百パーセント悪くてもなんだかんだと難癖つけて罪を責任転嫁しそうだが。

「一体今日はどうしたんですか?」

 春日さんが携帯を閉じて中留御に質問する。もう中留御の台風のような行動に慣れてしまったようで、同様もしていない。流石春日さん。

「よくぞ聞いてくれました! 実はね、最近南中の奴らから聞いたんだけど、南駅からちょっと行ったところにすんごい自販があるらしいのよ! そこで私らもそのすんごい自動販売機を拝みに行くわけ。オーケー?」

 中留御は鼻息荒く夏目と春日さんを拉致して会室の外に出て行った。

 その場に残された俺と並木はお互い顔を傾げる。

「凄い自動販売機って……並木知ってるか?」

「エロ自販機か? 南駅近くに入りやすい立地条件の青ボックスあるって噂だぞ?」

「行った事あるのかよ、並木」

「いや、俺は横流しだからなぁ。入った事は無いぞ」

「本当かぁ?」

 並木と日頃会室で気軽に出来ない話をしていると、外から急かすような声が聞こえてくる。

「ユーヒに並木ッ! あんたら何時までダラダラやってんのよ! あんた等がやらないか? なーんて言っても面白くないわよ!」

 その知識は何処で仕入れたと聞きたくなるような事を大声で叫ぶ中留御。そろそろ外に出ないと明日から俺達を見る目が一部の人間が変えそうだ。

 自転車通学の俺達に優しくない公共機関を使って俺達は南駅へと向かう。

 床に座りそうな性格をしている中留御だが、こういう常識は何故かわきまえてるらしく、車両の一番端に集まり、小声で世間話をしつつおおよそ二十分ほど電車に揺られた。

 あまり向かう用事の無い南駅。何があるのか全く解らない土地であるが、中留御は目的の場所を知っているようで率先してその自動販売機まで俺達を連れてゆく。

 駅から歩いて十五分ぐらいの距離にその目的の自動販売機があった。

 県道からわき道に入り、車通りは其処まで多くない。会社帰りや買い物帰りの乗用車と数台すれ違っただけで、もう少し時間が遅くなれば、殆ど車の通らない道だろう。

 そんな周囲の状況のせいか、目的の自動販売機もよっぽど喉が渇いてなければ見落としてしまいそうなほどひっそりと佇んでいた。

 街中に設置されてるコッカコウラやチェリオット、佐藤園などの見慣れた自動販売機では無く、聞いたことも無いようなメーカーの自動販売機だった。恐らく何十年も前から設置されているのだろう。

 見た目は古い自動販売機の癖に、硬貨投入口や紙幣投入口は真新しい。一部だけ新硬貨に対応させるぐらいなら自動販売機ごと取り替えれば良いのにと思いながらも、財布から硬貨を取り出す。

 ジュースを飲むために此処まで来た自分自身に呆れつつも並べられた缶ジュースのサンプルを眺める。

「中留御、お前……本当にこれを買えと言うのか?」

 目の前に広がる状況に眩暈を覚えつつも中留御に質問すると、

「当然じゃない。八十円よ八十円! 他のとこなら安くて百円が関の山でしょう!」

 確かに値札は全て八十円だし、取り出し口上の商品紹介の空間にも『全部八十円!』と手書きで書いてるぐらいだ。

 あまり金の無い学生である俺達。本来なら喜んでお金を入れ商品を選ぶのだが、全ての商品サンプルに『???』とラベルが貼られてある。

「で、普通に冷たいのは面白くないわ、噂だと温かいが滅茶苦茶お勧めね!」

 有名どころの自動販売機は季節によってはあたたかい缶ジュースが姿を消すのだが、此処の自動販売機はどうやらオールシーズン対応のようだ。

「いや、今の季節考えてみろ、五月だぞ、五月。季節外れの大雨にでも降られ身体が冷えても飲むかどうか悩む部類だぞ?」

 他の面々は諦めの精神を獲得したのか、中留御に意見する者は居ない。

「四方田、お前は真剣にどれを買うか迷うんじゃない」

「え、だって夕日先輩、これ何が出てくるかわかんないんですよ? 百円のガチャガチャみたいでワクワクしませんか?」

「いや、アレは一応サンプルあるじゃないか。シークレット含め全七種とか。ある程度何が出るかわかってるわけだし」

 四方田はもう駄目だ。他の援軍に頼るしかないか。

「なぁ、そうだろ並木。こんな商品わかんないどころか、賞味期限すら怪しい自動販売機ヤバイって!」

「大丈夫だ意外に缶ジュースって賞味期限長いんだぜ? 物にもよるが、大抵は一年は大丈夫だ」

 そのおおよそ一年すら危ういんじゃないかと突っ込もうとするが、並木は目で俺に訴えかける。諦めろと。

 だが、諦めたらそこで試合終了だ。此処は断固……。

「ねぇ、春日さん……って、夏目と一緒に悩んでる!? しょうがない、俺が率先して買いますか」

 財布から百円を取り出し、自動販売機に入れる。心なしか手が震えている気もする。

 三列ある押しボタンに一気に光が灯る。硬貨返却口の上部にあるデジタルパネルには100と投入金額が表示されている。

 此処は慎重に、冷たい飲み物を……。

「ユーヒ遅い! 後がつかえているのよ!」

 中留御の手が俺の手よりも早く、暖かいと表示された押しボタンを叩く。急いで俺が押した押しボタンは虚しく点灯するだけだった。

 自動販売機独特の音を立てて、取り出し口に何かが出てきた。

 恐る恐る手を突っ込んでみると、あたたかい。表示の間違いとかなさそうだ。

 取り出し口から缶を取り出すと、何が出たか期待に胸を膨らませていた周囲の面々の表情が固まる。

『あたたかいコウラ……』

 コカコウラじゃなく、どっかのメーカーの出したパチモンコウラ。スーパーなどで49円とかで売ってそうな奴。

 こんなにも365mllが恐ろしく思えた事は無い。

 並木は中留御が暖かいを押す前に素早く冷たいボタンを押しやがった。裏切り者め。

 裏切り者の並木は取り出し口から缶を取り出すと顔をしかめた。

『つめたいコーンポタージュ……』

 ざまぁみろ。裏切り者には罰を。でも優柔不断者にも罰を与える必要は無いんじゃない、神様。

「じゃぁ夕日と並木は先にそこの公園で待ってて」

 中留御は自動販売機から小さく見える公園を指差す。

「そうだな、行こうか並木。公園でお前引っ叩くから」

「もし俺が引き当てたものが冷たいオレンジジュースなら甘んじて受けよう。だが、こんな地下倉庫から発掘されたようなコーンポタージュが出たんだ、それで許せ」

 公園では小学生の男の子数人が走り回って遊んでいた。

 ベンチに腰掛け、手に握られた熱い缶を眺めてため息一つ。

「俺……何やってんだろうな」

「それは俺の台詞だ、日之出」

 負のオーラを吐き出している俺達の元に愛好会の四人娘がやってくる。

 その手には……。

「中留御、なぁ、中留御。おかしいよな、それおかしいよな。あの自動販売機から出てこないよな、紙コップのジュースは!」

 四人が持っていたのは六十円ぐらいで購入できる紙コップのジュース。

「いや、だって冗談抜きでありえない商品出てきたのよ? 私そんなマゾじゃないわ。ほらほら、冷めないうちにユーヒ飲んだ飲んだ!」

 まさかこんなオチになるとは予想していなかった俺は怒りを忘れ、ただため息をつくばかりだった。

 震える手で飲んだあたたかいコーラは予想を反し、慣れればなかなか美味かった。



しばらく時間空いちゃいましたが、とりあえず投稿です。

やりたいネタは粗方最初の方にやっちゃって、今きついの何のです。

地方伝説かもしれませんが、温かいコーラ。多分存在しません。自動販売機内で暖められたコーラがどうなるか……想像もしたくありません。

コーラをペットボトルのまま凍らせると危ないとか、缶コーヒーをプルタブ開けないで暖めると危ないとかいろんな伝説があったような気がします。

とりあえず、なべであためたホットコーラはあまりお勧めできません。暖かいスポーツ飲料水以上に不快な味です。

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