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第25回

 人の昔の武勇伝を聞くのは面白いが、それは自分自身が傍聴者であるからだ。

 今、俺の気分は桜の花弁と一緒で落ちに落ちまくっている。

 これが俺の記憶にある話ならば心の準備とか色々出来そうなのだが、全く記憶にない事なので不安だけが残る。

 会室の長机の上には各個人で購入した飲み物と中留御や春日さんらが鞄から取り出したお菓子が並んでいる。

 春日さんが持ってきたチョコを齧りながら四方田が口を開くのを待つ。

 俺は冷静さを装いながら、心の中では中学校の頃やってしまった思い出すのも恥ずかしい記憶を掘り返しているが、全く放送事件というワードが思い浮かばない。

 今初めて出す情報だが、俺は中学校三年生の頃、委員会で放送委員というのをやっていた。

 仕事は簡単。決められた週に朝のHR時と昼休み、帰りのHRに全校生徒に連絡を入れる仕事である。要は先生らの使いっパシリ的な委員である。

 そんな面倒な委員に何故なったかというと、どんな状況でも確実にお昼前に授業を抜け出せるからという理由だったような。

 まぁ、そんな事はどうでも良いか。

 だが、友人らからは覇気のない、やる気のない放送だと言われていたぐらいしか、放送委員での出来事は思い浮かばない。

「えっと、まず東中には放送委員という委員会がありましてね……」

 四方田が説明を始める。三つ編みが左右に揺れる。その姿はやはり神社の鈴のようだ。

 中留御と春日さんは興味津々。相樹さんは話の結末を知っているようで、思い出しては唇を緩ませている。そんなに面白い事だったのか?

 並木は人差し指で鼻を擦っている。夏目棗は話を聞いているのか、ないのか少し反応に困る。

 俺が人間観察を行っているうちに、話は物語の真ん中へと入ったようだ。

 ちょっと此処から俺も気になるから話を聞くぞ。

「昼休みの放送で、色んな先輩達があの手、この手で笑わせようとする人も居れば、夕日先輩のようにただ連絡事項を言うって言う人の2パターンがあったんですよ」

「それは想像できるわね、やる気のかけらも見当たらないユーヒなら特に」

 中留御が何を想像したのか、くすりと笑う。お前に俺の何が解る。

 まぁ、それは良いとして、放送委員会の放送タイプ……これは俺も記憶にあるぞ。

 確か俺の隣のクラスの放送委員は、担当の週になると、ラジオDJ気取りで色々な企画を出していたなぁ。

 本人はそれで楽しませているつもりだろうが、ぶっちゃけあまり面白くなかったな。

 いきなりクラスで集めたアンケートを全校放送で言われてもなぁ。

 そんな反面教師が居たからこそ、俺とその相方は大人しく連絡事項だけを言うようにしたっけな?

 痛いよな、っていう理由で。

「まぁ、そこでラジオ司会者並のトークをユーヒがしていたっていうなら、ちょっと聴いて見た息もするわね。秋菜ちゃんの答えによっては、今度ユーヒにさせてみようかしら」

 名案が思いついたとばかりに中留御は言う。

 よせ、やめろ。大迷惑だ。春日さんとペアでやるなら心動かされるが。

 四方田は一口、お茶を口に含み、喉の渇きを癒す。

 どうやら四方田のトークテンションも盛り上がってきたようだ。

「で、月一回の委員会の時に、今月の放送がどうだったかっていう委員皆で話し合いをするんですけど」

 あぁ、徐々に思い出してきたぞ。どういった陰謀か知らないが、俺のクラスと隣のクラスは何故かいつも同じ週に放送が回ってきて、俺達の時だけ、話し合いが盛り上がっていたっけな? どっちが放送委員の活動として適切かと。

「やる気が空回りしているクラスと、やる気が圧倒的に足りないクラスで、どちらを基準にしていいのか、かなりユーヒ先輩らの時は白熱してましたねー議論」

 って、ちょっと待って。

 この話し振り、もしかして四方田は俺が三年生放送委員だった頃に二年の放送委員だったって事じゃないか? 全然記憶にないな。

「議論って…なんか本格的にやってますね」

 春日さんはその議論の内容が想像できないのか、少し困った表情を浮かべる。そんな顔をされたら説明するしかないじゃないですか。

「まぁ、二つのクラスとかを比べて、ああだこうだと言う様な内容ですよ。というかそれぐらいしか活動する事ないですし」

「そうそう、夕日先輩の言うとおり、あんまり活動する機会はなかったんですよ。それだけに、委員会議に割り振られた時間一杯、それに夕日先輩達の担当週は部活に入ってる人たち大喜びでしたよ。長くなるって」

 四方田から聞かされる話は当時俺が知らなかった事で、勿論この場で聞いたのが始めてである。

「って、話が変な方向に行っちゃってるわよ。で、肝心のユーヒの放送事件って?」

 きっと中留御は録画したドキュメンタリー番組で時々話を中断してスタジオが映ったら早送りをするタイプだろ。

 四方田は中留御が持ち込んだサラダせんべいを齧って話を続ける。

「それは普通のお昼の放送の時でした」

 これから四方田視点で話をしてもらおうか。俺もホント覚えてないから、その事件を大人しく聞く事にする。


「はい、今の所連絡する事は以上です、連絡のある先生が居たら、放送室に来てください」

 ユーヒ先輩達の相方の先輩が放送を終え、お昼休みに放送委員が流すクラシック系の音楽が流れ始めました。

 これで放送委員のお昼の放送は殆ど終わったも同然です。後は先生が授業変更などを放送委員に伝えに来るぐらいで、それまで待機という形で。

「お疲れ、正輝まさき。後は先生らが授業変更を伝えに来るのを待つだけだな。今から帰りの放送のジャンケンでもするか」

 聞こえるはずのない放送室での会話が教室の隅に取り付けられている灰色の箱から聞こえてきます。

 東中の放送室の機械は少し古くて、スイッチを切っても、時々マイクが入りっぱなしになっている事が多々あり、放送委員や放送室を使う先生の間ではあまり気に留める事はありませんでした。

「じゃぁ、俺は正義のパーに全てを賭ける」

 ユーヒ先輩達は普通にじゃんけんをすればいいものの、何故か心理戦まで繰り広げていました。

「よっしゃッ! 正輝、帰りもお願いな」

 勝負は一回でつき、夕日先輩が勝った様で、帰りの放送も正輝先輩がやることになりました。

 そこで初めて夕日先輩らのランダムな放送担当をどうやって決めるか解ったんです。

「しっかし、英語の小テストどうだった? 予想よりもかなり難しかったんだが。あれが成績に関係するってかなりやべぇんだけど」

 放送室は外からの音がマイクに入らないように、完全防音で外の音が全く入ってきません。夕日先輩達はマイクが入っていることに気が付くはずもなく、二人で世間話を始めました。

「俺は満点の自信あるぜ?」

 夕日先輩の相方の正輝先輩はどうやら英語が得意なようで、満点の自信があると夕日先輩に自信満々で話していました。

「ありえねー。お前小テストの勉強してなかったって言ってたじゃん。勉強していても俺六割あってるか自信ないぞ?」

「何つったって、俺には『外部記憶装置〜』があるからな」

 ネコ型ロボットの秘密道具を出すような口調で相方の正輝先輩が何かを取り出したんでしょう、この時点でクラスメイトの数名が牛乳を飲んで、むせていました。

「消しゴムに単語をびっしり書くって……明らかにカンニングだろ。よくばれなかったなぁ」

 夕日先輩は感心した様子で正輝先輩と話していると……。

夜中よるなか! お前カンニングだったのか! 他のクラスでもあまり成績が良くなくて、一人だけ満点とっているから感心していたのにッ!」

 急に先生の怒鳴り声が灰色の箱から聞こえてきます。

「あれ、なんでっ!?」

 正輝先輩はそのまま英語の先生に連れて行かれ、とんだハプニングにクラス中が『何があったんだ』と少しざわめきましたが、数分後にはまたお昼ご飯を食べ始めていました。

「えー、非常に残念な結果になってしまいましたが、本日の放送は日之出夕日がお送りしました」

 夕日先輩は先生が入ってきた事で、マイクのスイッチが入ったままになっていることに気が付いたようで、冷静に放送を終えました。

 まさかそのタイミングで、お昼の放送で何もしていない夕日先輩がそんな事を言うとは誰も思っておらず、牛乳を飲んでいた人たちが、思いがけない不意打ちに牛乳を噴出しましたのです。

 結構なクラスで牛乳を噴出した人が居たそうで、それ以来、密かに夕日先輩の放送は恐ろしいと一部の人たちは言って、ある意味伝説になりましたね。


 だ、そうです。

「ユーヒ、そういえばアンタ時々授業中でもあるわよね、余所見していたのか知らないけど、教科書読むように指された時、前の人が読んだ所を堂々と読んだりとか」

 中留御は呆れ顔で俺の日頃の生活態度を暴露する。

 というか、フネ漕ぎ始めていたりする時に不意打ちで指されるからで、しょうがないだろ。

「ちょっとそのシーン見たかったなぁ…」

 残念そうに言う春日さん。よし、決めた。俺はタイムマシーンを造ろう。

「なるほどですね〜要するに〜日暮さんが〜牛乳を吹いちゃったわけですねぇ」

 ちょっと待て夏目。お前は何を聞いていた。俺が牛乳を吹いたと四方田がいつ言った? お前はちゃんと話を聞いていたかも知れない。だが、その簡潔に纏めたお前の台詞では全く違う意味にしか捉えられない。

 というか久々喋ってないか?

 四方田も夏目の台詞に苦笑いを浮かべる。

「ぐす、ぐす」

 並木は鼻をすすり、薄っすらと目に涙を浮かべている。

「うわ、えぇっと……」

「櫻。櫻 並木」

 名前に困っていた四方田に助け舟を出す。

「有難うございます、夕日先輩。で、えーっと、並木先輩、そんなに感動するお話でしたかっ!?」  

 自分のトークで涙を誘えた事がそんなに嬉しいのか、四方田の尻に犬の尻尾が元気よく振られている幻覚が見える。

「違う、花粉症が辛くて……」

「そういえば前回から表情が冴えなかったけど、それが原因? というかしょうもない伏線ね全く」

 鼻を擦る並木を眺め、中留御が容赦ない台詞を吐く。

 伏線をしょうがないって言うなよ。基本短編ばっかりの話だからあまり伏線とか考えない神様を困らせるな。

 投げっぱなしになる伏線よりましだろ。

「花粉症なんですか……あっ、そういえば二丁目のおじいちゃんに聞いた話なんですけど、花粉症の症状が出た時、杉の木に登れば治るって言ってましたよ、二丁目のおじいちゃん!」

 いや、どんな荒治療だよ!? 花粉症ってのは杉の花粉やらにやられてなる奴で、花粉がよく飛んでる日とかかなり辛いらしいのに、態々その元凶に近づくのは自殺行為だろ?

「それはかなりの人じゃないと難しくないでしょうか?」

 相樹さんも俺と同じ……というか常識のある人なら誰もが思う事をなるべく四方田に恥をかかせないようにやんわりと言う。

 というか、その二丁目のおじいちゃんとやらはその行動が予防接種の一種だと勘違いしているんじゃないか? 

「家の裏山に杉の木が確かあったような気がするので、並木先輩どうですか?」

 四方田は二丁目のおじいちゃんの話を信じきっている様子で、悪意のない、迷惑だらけの提案を並木に問う。

「俺に死ねと!?」

 鼻声で四方田にツッコミを入れる並木。

 まぁ、こんな流れになって言うのも難だが、俺の起こした放送事件ってかなーりしょうもない事だよなぁ。

 しかもそれは一部の人間が騒いでいるだけだという、かなりマニアックな事件だったな。

 こっそりと中留御の事件でもクラスの奴に聞いてみておくか。事件ばかり巻き起こして、どれが大事件がわからなそうだが。 

あとがき。特にないです。

そろそろネタがなくなってきてます。

補充しなきゃいけないけど思い浮かびません。

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