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第24回

 学食が前と同じように混みだすようになり、一週間。

 春を彷彿させる桜の花はかなり前にすべて散り、仲間が先に逝ったのがそんなに寂しいのか、並木の表情は冴えない。

 部活動紹介も何とか無事に終わり、今は新入生がどの部活に入るべきか、帰宅部を決め込むべきか大いに悩んでいる期間である。

 中留御が急に部、同好会、愛好会すべての活動紹介に乗り込もうと言い出す予言にも満ちた夢を見て、不安になったものだがそんな事も無かった。

 いつから俺はこんなに不安を多く抱えるようになったのだろうか。

「あーーー、もうムカつくーーーッ!」

 中留御はいきなり叫びだし、手にしていた箒を折った。

 ……気持ちの中では。

 俺や並木でも折るのが難しそうな新品のホームセンター158円の高級箒。中庭など外周掃き掃除用の毛先が細い木で出来ている。主に落ち葉などを掃く竹箒とは違い、地面に落ちたごみ等をちりとりで集めやすい毛先である。

 俺はこの箒の生産者や開発者ではないので、従来の箒と比べて性能の違い、使用した材木の違いはわからない。どうしても知りたいというとっても探究心満ち溢れる方は、その箒の生産場所にアルバイトに行って調べてください。

 まぁ、企業秘密でバイトの内容が出荷時に毛先が乱れないようにプラスチックのシートを着けるという内職じみた内容になっても文句は言わないでくれ。

 というか、今回はこんな箒の話をしたいわけじゃない。脱線しかけた話を元のレールに戻そうか。

 花は散り、地面には空からの贈り物として綺麗に化粧が施される。だが、空の規則は相当厳しいようで、地面のお洒落を許さない。

 雨が降っては止み、照りつけるような太陽のコンボを数回地面に叩き込み、綺麗に地面に降り積もっていた花弁は水分を吸い、日に照らされ、綺麗とは正反対の、汚い落下物と変わり果てていた。

 掃いても掃いても、第二波、第三波と振ってくる花弁に元からやる気の無い東高校の外周掃除担当の生徒はついに諦め、ちりとりを投げ、代わりにプリントを丸めたボールを投げ始め、箒はいつの間にかホームランバットへと変わっていた。

 降り注ぐ花弁をその都度集めず放置プレイを喰らわした結果、風の野郎の迷惑な悪戯で溝や段差の隙間に花弁が身を寄せ合っている状態。

 流石に学校の外観が悪いと教師達は立ち上がり、俺達にその役目をスルーパス。

 と、言うわけで俺達、有志の愛好会・会員らがこの散らばった落下物を集めることになった。

 基本部活動なんて殆どしてないのだから、こういう風に何かする事があれば部活動してるって気分になる。

「まだ始めたばっかりだろ。今日は校門前と正面玄関までしかやらないんだからさっさと終わらせようぜ」

 予想通り一番に根を上げはじめる中留御に一言。

 会話の出来る程度に距離を取って作業をしている他のメンバーに視線を向ける。

 やはりこつこつ掃き掃除を頑張る春日さん。その横顔からは散った桜の花を偲ぶ表情が見て取れる。流石。

 何をやらせても一応頑張る並木。ちょっと中留御の影響なのかブツブツと文句を言うが、根が真面目で何だかんだ言いつつ最後までやり遂げる男。やはり同族を捨てる為に集めるのは辛いのか、表情は冴えない。

 あーやー……なんか掃除をしているのか、散らかしているのか良くわからない夏目棗は気にしないで置こう。とりあえず突っ込みを入れると疲れるからな。最近対応が大人になった俺。

 で、生徒会で何にも無いらしく手伝ってくれる相樹さん。彼女については特に言うべき事は無い。

「だってよ、ユーヒ! というか他も聞きなさい! こーんなに地面にこびりついた花弁をこの安物箒で剥がすのも大変だけど、それよりちりとりにこいつらを強制収容するのはもっと大変!」

 確かに気持ちは解る。雨の中に接着剤でも入ってるのかって思えるほど頑固にこびりついた奴はこびりついている。

 特に頑固な奴は結構広い場所に居たりする。

 一トンぐらいの鉄の塊を支えるゴムが容赦なくそいつらを踏み潰すからな。

 というか、これは陰謀なのか? その操縦者達は花弁を地面に押し付け、その掃除を生徒に押し付ける。押しすぎだ。

「まぁまぁ、花は十分に私達の目を楽しませてくれましたし……これぐらいの後始末は」

 相樹さんはいい性格をしているようで、俺には全くそんな考えなかった。

「でもさ、こういう学校って無駄に木が多いよな」

「少なすぎるのも問題でしょ、並木」

 鼻が詰まっているのか、並木は鼻を啜りながら、鼻声で言う。それに容赦なく突っ込みを入れる中留御。

 中学時代を一緒に過ごしたって言う二人の息はある意味ぴったりである。とはいっても、今のクラスでの俺のポジションが並木だったって事だろうがな。

「あ、あのっ!」

 そんな会話をしていると、不意に後ろから声を掛けられ、一同振り返る。

 其処には制服は真新しく、何処のメーカーの鞄か知らないが傷の入ってない綺麗な鞄。新入生か。しかし何処かで見た顔だな?

「愛好会の皆さんですよね!」

 なにやら雲の上の存在を見るように一年生は言う。

 そんな対応をしたら……。

「いかにも! 私たちこそが……!」

 やっぱり張り切るわけね、中留御。

「日之出夕日さん! 先日は有難うございます! 私、四方田秋菜よもだあきなって言います!」

 へ、俺?

 中留御を華麗にスルーし、俺の元に駆ける一年生の四方田。

「ちょっと待ちなさいよ、フツーこういう場合は私に先に話しかけるべきじゃない!?」

 いや、誰だってお前に話し掛けるのは戸惑うさ。

 お前に話しかけちまったら新しい町に到着して装備も新調してないのにいきなりイベントが強制的に進みそうだからな。

「え、えっとー」

 四方田は困った表情を浮かべ申し訳なさそうに口を開く。 

「どちら様でしょうか?」

 今、中留御の背後で何かが音を立てて砕け散る。

 地面にしなを作って倒れそうなぐらいショックを受けている中留御。

「なんで、なんで最近はユーヒを中心に話が進むの…? なんか最近私輪の外じゃない……」

 そのままにしておくのが不憫でしょうがない中留御。まぁ、そんな時もあるさ。

「私、覚えています?日之出夕日先輩!」

「いや、急に先輩をつけられてもなぁ……」

 全く記憶が無い。

 いや、そもそも中学にしろ後輩に恵まれるような事はしてなかったから、こんな子マジで知らない。

「まさか日之出夕日先輩が東市高等学校に進学しているなんて……入学式のときにもしやって思ったんですけど、本当にそのとおりでした!」

 マジで俺を知っているようだが、俺の記憶には無い。というか、そんな話を今したら……。

「へぇー秋菜ちゃんだっけ? ユーヒの知り合いなんだ?」

「もしかして親戚? それか近所の子?」

 とまぁ、中留御と春日さんが食いつくわけで……。

 というか春日さん、いつもは控えめですけど、なんか甘酸っぱそうな匂いのする話には敏感ですよね!?

「春日さん、中留御さん、四方田さんがびっくりしてますよ……」

 いきなり話に食いついてきた二人に四方田が結構ビビる。そして怯え出しそうな四方田に助け舟を出す相樹さん。

 なんか一瞬相樹さんがおねーさんにマジで見えた!

「あっ、もしかして相樹…相樹林さんですか? 東中の生徒会書記だった……」

 あ、成る程。四方田は東中卒業生か。というか偉いな、自分の一つ上の代の生徒会書記を覚えているなんて。そりゃぁ生徒会長ぐらいは記憶にあるだろうが。初期となれば……まぁ、ねぇ。

 その会話で中留御も春日さんも四方田の卒業中学校がわかり、関係も見えてきたようだ。

 いや、話の中心に居そうな俺は全く話が見えんのだが?

「そう言えばユーヒって結構東中卒業生じゃその名前知られてるわよねー」

「もしかしてユーヒ君って中学生の頃はやんちゃ坊主だったとか?」

 いや、其れは無い。

 俺は中学も今もある程度影の薄い生活を望んでいるからな。

「そりゃぁ、だって……」

「日之出夕日放送事件……」

 四方田と相樹さんは二人で笑い始める。

 何、俺放送事件って何? そんな事俺したっけ!?

「ふっふーん、なんか面白そうな話じゃない! よし、さっさと此処綺麗にして詳しく聞くわよ! えっと、秋菜ちゃんも手伝いなさい!」

 面白いことを知ればそのままにしておかない中留御のハートに火がついたらしく、かなりやる気を出して掃除を再開した。

 誰一人突っ込む人間は居なかったのだが……。

 いきなり新入生巻き込むなよ!?  

久々に続きを書きました。

さてさて、最近単発の話じゃなくって連続する話で申し訳ありません。

またよろしくお願いいたします。

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