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第20回

「と、言うわけで。今日から始まる、愛好会プロジェクト。相樹 林ちゃんを生徒会長にしよう!」

 元気よく、中留御が何処から拝借してきたのか、椅子の上に乗って宣言する。

「機材此処に置いておくけど、コードはどうするんでしょうか?」

「あ、サンキュ並木。あーコードは其処の屋外コンセントから貰えば良いでしょ。で、春日ちゃぁーん、いつまでそれをやってるつもりなのかなぁ?」

「はわ、す、すいませんッ!」

 黒い箱を持ってきた並木に素早く指示を出し、用意に戸惑っていた春日さんへ発破をかける。よし、色々突っ込ませろ。

「中留御……」

「何よ、ユーヒ。ポケットなんかに手、突っ込んじゃってさ。そんなに寒い?」

「あたりめーだろ!? 此処屋上! そして今日は秋風が強く吹く、これで寒いわけねーだろ! そして俺のブレザーを相樹さんに渡しちまって、Yシャツだけなんだよ!?」

 東高校のYシャツは滅茶苦茶薄い。どれだけ薄いかと言うと、雨で少しシャツが濡れると下のTシャツの柄がくっきり見えるほど。ちなみに、夏はそれよりもっと薄い。雨の日に素肌に来てしまった日にゃ、自分でも笑っちまう位に透けちまう。ホント犯罪スレスレだよ。

「林ちゃんにずっとあの格好で居ろっていう気? 演説始まるまでに凍えちゃうじゃない」

「演説するのに何で、学生三種の神器の一つ『ぶるま』が居るんだよ!?」

 相樹さんは今俺のブレザーを羽織ってはいるが、胸の辺りはゼッケンが見えるし、下半身はブレザーの裾の部分でしっかりと衣服が隠れてあって妙になまめかしい。

「三種の神器ってねぇ……残り二つは何よ?」

「スク水だろ、セーラー服だろ……って、そう言う事を言いたいわけじゃない! 何で、屋上で演説をするのかと聞いている! そして何で体操着である必要があるのかを問いたい!」

 危うく俺の認識が変わるようなことを口走りそうになったが、何とか踏みとどまり、中留御に問いかける。

「マニアックよね……案外とまぁ、それは後でじっくり聞くとして。理屈ばかりのユーヒ君に色々説明してあげようではないか」

 偉ぶるな、馬鹿者。

「まず、何でそんな格好かと言うと、サービス、話題性を得るための服装ね」

 いきなり俺の理解を置いてけぼりにしないでください。

「解ってなさそうねぇ……よし、じゃぁこの例えはどうかしら? ユーヒは皆三部の事を知らないわ。そしてその状況で皆三部がビキニ一丁で踊りながら演説してたらどうなる?」

「そりゃぁ、こいつ面白いことしてんな……って、思うが」

 本心を言えば、ビキニパンツで踊るミナサンブの姿など、死んでも見たくないがな。

 中留御は俺の答えに満足したのか、口元を揺るめ、指を突きつけてくる。

「それよ! つまり、何か話題になる事をすれば、その分関心が高まる! それを狙っているのよ!」

「じゃぁ、なんで屋上でやるんだよ? 下からだと、全然見えねーぞ?」

「よし、これは説明するより実際にやったほうが良いわね」

 中留御は皆を集め、円陣を組み、作戦を説明する。

「そんな無茶な……」

 作戦を聞いた俺はそんな言葉しか出なかった。

「じゃぁ、所定の位置について。ミッションを始めるわよ」

 春日さんと夏目なつめが屋上を離れ、中留御がアンプを弄り始める。並木は屋上入り口の扉にスタンバイ。相樹さんはブレザーを俺に返し、お立ち台へ。

 時計を見ると丁度十六時二十分になった。

 すると、下校する生徒を狙って演説を始めたミナサンブの声が少し遠くで聞こえ始める。

「よし、林ちゃんレッツゴー!」

 中留御が親指を立てて合図を送ると、相樹さんも演説を始める。

『えー、この度、生徒会長に立候補した相樹 林です』

 アンプを通して馬鹿でかい音が周囲に響き渡る。傍に居る俺達は手で耳を塞ぎたくなるほどで、この音量は確実に学校内だけじゃなく、学校の外まで聞こえているだろう。

 順調に演説を進めると、並木が合図を出す。

「よし、一時避難!」

 中留御の合図で、屋上の用具倉庫に機材などを持って逃げ込み、中から鍵を掛ける。

「こんな馬鹿でかいアンプ、何処から奪って来たんだよ!」

「えっと、演奏部からよ」

 演奏部なんてこの学校にあったのか? 部室棟にはそんな部ないが。

「音楽室でやってるとこ何回か見て、仲良くなったからね、その部の人たちと。で、それで借りた」

「そして何で此処に逃げ込んでるんだよ、先生に見つかったらやベーだろ!?」

「大丈夫、前もって選挙担当の先生には話をつけておいたわ。今隠れているのは野次馬対策」

 全く、何でそんなに知恵が回るんだよ。いらんところで。というか、野次馬対策って……。

 狭い用具倉庫に押し詰められ、息を殺す。

 屋上に人が上ってきたらしく、何か話し声が聞こえる。そんな時、並木からメール着信が。

 マナーモードにしていたので音は出ない。急いで中を確認すると、まだ暇な野次馬が張り込んでいるらしい。もうしばらく待つことに。

 再びメールを着信。演説の続きを開始する。

『えー、私が生徒会長になったら、まず、学校と生徒会。生徒会と生徒をより親密にしていきたいです』

 相樹さんは流石生徒会長に推薦されるだけあって、頭がいい。俺なんかじゃ到底書けそうに無いような文をスラスラと読んでゆく。

 野次馬が来ると隠れ、居なくなると姿を現すと言う事を数回やる頃には、校舎の下には結構な人だかりが出来ていた。

 ユニフォームを着た奴や、道着を着た奴ら。つか、お前ら部活しろよ。

 日が落ち始める頃に、機材を元の部活の場所に返したりして、今日の活動は終了。とりあえず突っ込ませろ。やっぱり体操着で演説する必要なんてなくなかったか!?


 翌日。また前日と同じように頭のおかしい演説を行うと中留御が言うものならば、縛りフェチと汚名を被せらせようとも断固、中留御を縛り上げて、まともな演説路線に戻すつもりだったのだが、今日の活動はみんな学校指定の体操着で運動部が部活をするグラウンドへ行く事になった。

 中留御の予定では運動部の指示を持つための活動だと言っているが、ただ単に自分が運動部の部活を体験したいだけじゃないのだろうか? 選挙違反になるのではないかとビクビクしていたのだが、選挙担当の教師に許可を取ってあり、選挙違反にはならないとの事。この無駄に良い中留御の行動力には毎度の事ながら驚かされる。近い将来、この高校の生徒会選挙は大人の選挙顔負けの内容になるのではないかと、密かに危惧し、その時にこの流れを作った生徒として、俺や春日さんらの名前が公表されない事を切に願う。

 まず始めに野球部とのふれあいから。グラウンドには多くの野次馬がこの頭のおかしい選挙活動を一目見ようと押し寄せている。

 ピッチャー相樹。ファースト俺。セカンド春日さん。サード並木。キャッチャー中留御。ライト夏目ほか野球部員。相手はバリバリ現役の野球部二年チーム。始球式のようなほんわかムードで行われるものと甘く見ていた俺は、相樹さんの一球に己の目を疑う。

 ウィンドベルだが、ティンカー……だかで、見事にストライクゾーンに投げ込む。

 野次馬も声を上げて驚く。

「やーるじゃない、林ちゃん!」

「しょ、小学校の頃と中学校の頃授業でやりましたので……」

 いや、それでそれだけ投げられるのは凄いとしか言いようが無い。

 それを見ていた野球部員も闘志に火がついたのか、はたまた、女子ソフトボール部がなく、女の子と練習試合が出来ないのだが、この特別な計らいにより、練習試合ができる事が嬉しいのか、バッティングフォームにも気合が入っている。

 だが、ちょっと待ってくれ。俺達はプロじゃない。野球はほんと齧ったぐらいしか知らないのに本気にならないでくれ。

「ユーヒッ! ファースト行った!」

「ちょっと待て、はえぇぇぇっ!?」

 やはり授業で投げた程度の球では野球部のスイングから逃れられるはずも無く、バッティングマシーンのようにボカスカと打たれる始末。いや、打たれるのは問題ではないのだが、こっちに向かってくるその球の速さときたら。

 春日さんと夏目は流石に危ないという理由でマウンドから降りられたが、俺も降りていいでしょうか?

「ユーヒくーんがんばってー」

 マウンドをいち早く降りられた春日さんは応援に回っている。

 ふ、貴方の声援を受ければ僕はもっともっと頑張れますよ!

「もっかい行ったわよ、ユーヒ!」

「ひぃぃぃっ!?」

 へっぴり腰で手を突き出す情けない格好の俺。

 日が暮れるまでこの地獄のような親善試合を続けたのであった。

久々の更新。もうじきある程度話がまとまります。いや、長かったなぁ。終わりまではまだまだ遠いですが、これからも頑張っていきますよー!

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