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第19回

 翌日、教師らに呼び出されるのかとヒヤヒヤしながら一日を過ごしたのだが、俺たちが危惧していた様な事はなく、いつも通りの一日だった。

 中留御や春日さん、並木についでに夏目にも今日は絶対活動に出るようにと一言伝え、昨日の成り行きをどう説明したら良いものか迷って、一人頭を抱える。

 お祭り好きな中留御はこの申し入れは願ってもない事だろうが、並木や春日さんはどう思うだろうか。並木と夏目はまぁ、どうでも良いという言い方は悪いと思うが、成り行きに身を任せそうだから、其処まで深く考えなくてもいいのだが、問題は春日さん。俺達と違って、こういう騒動にはあまり巻き込みたくない。優等生な春日さんに余計な気苦労を背負わせるわけにはいかない。

「とは、言ってもなぁ……大体、候補者を後押しする係りなんてやったこと無いから、どーすりゃいいかわかんねーし、皆の意見聞かずに簡単に手伝うなんて言ってしまったのは……」

 口にして思う。

 これ以上の物を相樹さんは抱えているわけで、自分から手伝うって言った俺がこんな簡単に愚痴を言って良いのか? いや、良いわけがない。此処でウダウダと文句や弱音を吐くのは、中途半端な気持ちでその場を取り繕うって事になってしまう。そんなつもりで言ったわけじゃない、此処は意地でも皆を納得させなければ。

 長い学業の時間が終わり、一日のお勤めを終えて家に帰る生徒の姿が目立つ。中庭にはミナサンブがまた演説の準備を始めていた。そんな中、教室の廊下の前で窓からこちらを窺い、声を掛けるべきかと悩んでいる相樹さんの姿が見えた。

「あ、相樹さん。丁度良かった、今日はこれから少し時間いい?」

 こうなったらやれることをやろう。

 窓の外で同じ場所をウロウロしていた相樹さんを呼び止め、愛好会の会室まで連れてゆく。

 いや、勿論相樹さんは承諾したぞ、今の話の流れでこれだけは言っておかないと、中留御と同じように拉致したと思われては堪らんからな。

「で、俺が軽く皆に説明するから、俺が呼んだら中に入ってね?」

 何分会室の外で待たせることになるか解らんが、最初に軽く説明して中に入って貰った方が、メンバーの混乱も少ないだろう。

「皆居る?」

 会室の扉を押して開け、中に居る人を数える。四人……よし誰も欠けていない。

「どうしたのよ、ユーヒ。急にアンタが召集するなんて珍しいじゃない?」

「やっぱり、昨日の事?」

「結局メールくれなかったし」

「あー日暮れさぁ〜ん、こんばんわぁ」

 中留御は俺の登場で頬杖を付いていた姿勢から顔を起した。春日さんは流石としか言い様がありません。貴方のその予測で間違いはありません。寧ろ、違ったら無理矢理答えを変えます。

 並木は少し寂しそうに携帯をチラリと俺に見せる。すまん、マジで忘れてた。そして夏目なつめ、もういいよな?

「うん、大体解ってると思うけど、今日集まって貰ったのは昨日の事で、まず皆に謝んなきゃいけない……」

 俺が口を開くと、四人はそれぞれ表情を変えた。若干一名、もう何を言おうが、今は気にしないことにする。

「何よ、急に言われても解るわけ無いじゃない、もう少し解りやすいように言いなさいよ」

 中留御が口を尖らせて言う。機嫌は悪くなってないようだ。

「昨日あの後、相樹さんと話してさ……その、この愛好会で選挙を手伝うって勝手に決めちゃったんだ」

 三人は驚いた声を上げる。もう一名の事は気にしないと言ったはずだ。

「一声も掛けないで勝手に決めちゃった事、ホント申し訳ない。やりたくないってなら、無理にやらなくていいから」

「……」

 中留御は俯き、ゆっくりとこちらに近付いて来る。その表情は見えないが、歩き方からして結構怒っているように見える。

「ふぅ」

 俺の目の前に立つと、中留御はため息を一つ吐き出し、手を振り上げた。その状態から平手打ち、ビンタが来るんだな、と客観的に考え、歯を強く食いしばり、目を閉じた。

「ッ!?」

 頬に痛みは無く、左手の肩の辺りがリズムを取るように痛い。

「やるじゃん、ユーヒ! そりゃ、何にもなしでそんな事決めちゃったのはアレだけど、うん別に私は謝ってもらわなくてもいいわよ!」

 上機嫌な態度で俺の肩をマダムのように叩く中留御。ビンタが来なかった事と、怒られなかったことで俺を安堵感が包み込む。

「んーなんか訳解らんが、とにかく選挙を手伝えばいいんだな、それが今回の活動?」

 ちょっと勘違いしている並木だが、別に訂正する必要も無いのでそのままにしておこう。

「わぁーい、今回の活動……」

 年中お花畑の夏目は何を言っても喜ぶからもう良いや。

「ユーヒ君……」

 ちょっと険しい視線を俺に向ける春日さん。いや、これは水深1.5メーターのプールより深い訳がありまして……別に貴方様を困らせようとかそんな事を考えていたわけではありません、決して!

 焦る俺に春日さんはにっこりと笑いかけた。

「ユーヒ君って以外にお人好しだから、可愛そうだとか、大変そうだって思ってる時に、手伝ってなんて言われると断れないもんね」

 春日さんは俺が頼み込まれたものだと勘違いをしているようだ。これは訂正しておかなければ、これは俺が言い出したことで、相樹さんは一言もそんな事言ってない。

「って、思ってたけど、其処の外見れば、なーんとなくそれは違うんじゃないかなって思ってきた。ふふ、ユーヒ君。早く相樹さん入れてあげれば? 窓からこっち見てるし、流石に廊下は寒いよ?」

 って、相樹さんの存在忘れかけていた! と、いうか相樹さんアンタ窓から覗うの好きだな!?

「ご、ごめん、寒かったでしょう?」

 会室の扉を開けて相樹さんを中に招く。

「い、いえ……」

 やはり夕方の廊下は寒かったのか、少し歯を鳴らしながら相樹さんが会室内に入ってくる。

「わっ、これが中なんですね……」

 統一感の無い内装で装飾された会室内を見て、相樹さんは歓声を上げる。

「あ、これ可愛いですね……」

 可愛いというより、渋いという感じのする誰が持ってきたかイマイチ不明のはんてんを見て相樹さんは目を輝かせる。

 いや、此処には選挙の事で来て貰ったのであって、中留御や春日さんらとおしゃべりをしてもらうために来てもらったんじゃないんだけど……。

 女子三人集まれば喧しいとか、そんな感じの言葉があったよな、まさにその通り。とりあえず話も進められないし。

「あ、あの……それで、皆さん、俺と一緒に相樹さんを手伝うって事で良いの?」

 取り残された感じが強く、俺はそれでもめげずに、皆の意思表示を聞く。

「あーもう、ユーヒ皆乗り気なんだから、そんな事言わないの。で、林ちゃんは見る目あるよねー、これ私がインテリアになるかなーって家からもってきたんだけど、いい柄してるでしょ?」

「最近ははんてんも増えたよね、私中学校の頃、受験勉強するとき着てたんだ。最初はかっこ悪いとか思ってたけど、この暖かさは馬鹿に出来ないよね」

「あ、春日さんもですか? 私も冬はこれがないと駄目で駄目で……」

 同じ性別からか、中留御と春日さんと相樹さんは会話を弾ませ、学校から帰って、ずっとジャージ姿で居た俺が入り込む余地の無い話で盛り上がり始め、同じように話に入れない並木に話しかける。

「今から、状況説明のメール打とうか?」

「いや、おせーよ!?」

 存在感が消えた夏目は、何処から見つけ出したのか、知恵の輪なるものを熱心に解いていた。あれ、なんかやったこと無いのに解ける気あする……俺ってエスパー?

 とまぁ、編集がめんどくて、置き換えるより、新しく書くことが楽だと思い、放置されたものは黒歴史にして。

「とりあえず相樹さん、選挙は良いの、皆強力してくれる事だし、早くやったほうが……」

 会話に没頭し始めた三人を止めるため、俺は中庭を指差して言うが……。

「まずは連携を取らないと何にも出来ないじゃないの! それにもう生徒は殆んど帰って、演説を聞く人間なんてそう居ないわよ」

 確かに今は部活中の時間だし、帰宅する生徒の波も途絶えている。

「こんな時にわざわざクソ寒い外で突っ立ってるより、此処で今後の作戦会議として、皆でunyoしましょ」

 そう言うと中留御は黒いトランプのようなものを取り出し、人数分配り始めた。

「いや、それ何処の次元の作戦会議だよ!?」

 こんな作戦会議で、今後の選挙の何に役に立つのだろう? きっと一ピコグラムも役に立たないだろう。

「はい、春日ちゃんドロツー」

 いや、中留御。お前は外に出たくないだけだろう? 子供は風の子、元気な子だぞ。

「ごめんね、林ちゃん、ドロフォー、色は赤で」

 春日さん……いえ、貴方は両親の子ですから、風邪を引かないようにお願いしますよ。もし病原菌にやられたのなら、それを僕が貰ってあげましょう。寧ろ、下さい。

「あ……ドロツー……二枚です」

 相樹さぁーん、貴方も中留御のペースに巻き込まれないで下さいよぉー。

「ほらユーヒの番よ!?」 

「え、あぁ、ごめん、今赤色だっけ……って、うぉぉぉおい!? いきなりなにこのドロの嵐は!」

 えっと、ドロツー三枚、ドロフォーで合計十枚? うぅ、大人しく喰らいますよ……見てろよ。

「あはは、ユーヒ超カード持ってるわねー」

「復讐してやるからな、中留御」

 チラリと手札を見ると、RやSはあるものの、肝心の奴らが居ない。

「つーか、数字ばっか!?」

 結局、俺が一生懸命カードを減らしている時、中留御や春日さんの思いもよらぬフェイントで、結局手札を減らしても増えるし。騒ぎながらunyoをして、俺も選挙の事なんか全く忘れていたのだった。

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