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第1回

 世の中には『運命』と言う言葉があるが、それを信じている人は一体どれぐらいいるだろう?

 俺、日之出夕日ひのでゆうひはどちらかというと、『運命』なんて言い訳に過ぎないって思っていた…

 小学高学年の頃から少しずつ、心が荒み、何か目標を打ち立てて、それに向かって一生懸命がんばるということもせず、ただ流されて中学校の三年間を過ごした。

 で、自分の成績と、通学距離との相談が始まり、その結果『東高校』を受験し、合格、そして俺は高校生になることになった。

 高校生になったからといって学校生活は中学校とそう大差はないものだと思う。ただ、少し難しい勉強、バイクの免許が取れる、バイトが出来る、留年があるということが追加で、後は変わらないだろう。

 平凡、平和に、また三年間を過ごすのだろう…と思っていた、甘い俺が居た。中学を卒業し、春休みだからといって昼過ぎまで寝てぐーたら過ごしてる間にも、刻一刻と『運命』は俺のすぐ傍まで近づいてきていた。

 そんなことも知らず、俺は少し長い春休みを満喫していた。今思えば、何かしら心の準備とかをしておけばよかったと思う…本当に今更だけど。


 真新しく、少しデカいブレザーを着て、俺は椅子に座って必死に校長先生の話を聞き流す。

「〜で、あって、新入生諸君はこの校訓をしっかりと守り…」

 だらだらと同じことばかりを話す校長先生。この話が終わっても、保護者学校役員と言っておこうかな……まぁ、英語三文字の会長の話があって、保護者代表の話があって、来賓の話と……

 本当に長い。

 長い話をするってことはそれだけ期待をしているという表れだろうが、まずやめといたほうが良い。あんたたちの期待には俺は答えられそうにない。

 …長え、それ先刻も言った、いや、関係ねーし!とまぁ、心の中で大人の人の話の内容をツッコンで、ひたすらこの時間が終わるのを待つ。

 入学式のプログラムも校歌斉唱と終わりの挨拶だけ。この時点になると、俺は自分の一年間勉強するクラスが気になっていた。

 まだ、クラス発表もされておらず、この後、何らかの形で発表がされるのであろうと、期待に胸を膨らませていた俺がいた。もし、『時間逆行』という行為が出来るなら、俺はこのときのまだ儚い幻想を抱いてる俺に何か今後のアドバイスを真っ先にするだろう……

たとえば…『あの女には気をつけろ』とかね……

 まぁ、所詮は夢の話。あの時、もし、などといった言葉は言い訳にしかすぎない。

 そして校歌斉唱。何処の学校でもそうだが、この効果斉唱ってのは真面目に歌う生徒より教師の数のほうが多く、ましてや入学したての俺たちが校歌など歌えるはずもなく、先生たちの放置プレイが此処でも始まった。いつ見てもこれは涙を誘われる。

 入学式も終わり、なにやら先生が紙を配っている。俺の前に座っていた奴が、半身をこっちに向け、紙を手渡してくる……

 俺はそれを貰い、横に座っている人数分のプリントを確保し、後ろに回す。『ほい』『ありがと』『サンキュ』と名の知らぬ人との交流も済ませ、俺はその紙を見る……

 その紙には、A組…四十名の名前が載っており、その下にはまた別のクラス四十名の名前が載ってあった。俺の名前は苦労して探すことなく速攻見つかった……

 A組…日之出夕日…

 なんか凄い悔しい。

 他の奴らは『あったぁ!!H組だって〜』などと、明らかに入試合格の気分をもう一回満喫しているというのに。少し悲しいな……

 まぁ、出席番号一番の秋山…何とかさんは俺以上に、ショックを受けたのだろう。探すもへったくれもないしな。

 この時、あいつは何処で何をしていただろうか?自分のメガネに合う名前を二つも見つけて『ニヤリ』と怖い笑みを浮かべていたのだろうか…?


 自分のクラスへと移動した俺は、クラスの中に知り合いは一人もおらず、担任の先生が来るまで一人寂しく過ごしていた……

 しばらくすると、担任の女先生が大量のプリントなどを持って教室内に入ってきた。そして先生の軽い自己紹介。

 田中一たなかはじめという名前で、今年新任の教師らしい。少し名前にトラウマがあると、まぁ聞かなくても良いことまで話していて、次は個人の自己紹介になった。思い思いに自分の持ちねたを披露し、すべる奴、当たり障りなく言う奴。前の奴の言った項目をそのまま真似する奴。自己紹介と言っても色々とある。

 もう少しで俺の番。

 横の席の奴は『面白い事一発!』とまぁ無茶な注文をけしかけさせる。俺としてもまぁ何かやろうとは思っていたし、それに、『今年こそは』と大いなる野望を抱いていた…

「えっと、西中出身の日之出…」

 とまぁ、其処まで言ったのは良かったのだが……

「日之出て名前マジで!?」

 けたけたと笑いながら、一人が俺の自己紹介を中断させる。

 あぁ、本当だとも…ギャグでこんな名前は言わないさ……

「兎に角、日之出夕日ってい……」

「日之出の次は夕日か!!」

 別の席の奴が声を上げる。

 あぁ…今年も負けた……実は俺、小学校三年生から今まで、自己紹介を中断させられることなく終えたことがない。いつもこうやって中断させられる……

「とまぁ、今年も負けたわけですが、何卒、よろしくお願いいたします!」

 ぺこりと頭を下げて自分の趣味などを言わず、そのまま自己紹介を終わらせる。くすくすとクラスメイトの笑い声が聞こえる。失念の中…俺は『早く帰りてーなぁ』と思い、窓の外を覗く……

 そしてこれまた恒例のクラス委員決め。

 俺は『誰かがやるからいいや』という気持ちで傍観していたのだが…ミスった…確実にミスった。

 残る委員は『クラス委員』のみ。普通ならこの席が一番に埋まりそうなのだが、俺の中の普通で考えるのが馬鹿だった。

 沈黙が教室内を包む……

「俺、やります!」

「私…やります」

 同時に、ベストタイミングで二人が名乗り出る。よくやった、よくやったぞ!!

「はーい、クラス委員は日之出君と春日かすがさんね」

 すいません、俺…この雰囲気嫌いなんです…

 一先生はなにやら紙に何かを書き、手短に話を済ませ、解散の声を掛ける。

 教室内の人間が数えるほどにまで減った頃か、一先生は思い出したように口を開く。

「あ、掃除してもらうの忘れてた!!」

 気のせいだろうか?今の声を聞いて俊足で教室から姿を消した人間がたくさんいた事は……

「お願い、今いる人で教室の掃除をして!!」

 一先生は顔の前で手を合わせて『お願いします』のポーズをとる。

 そしてそのポーズを見て更に人間が減った。何だ?このクラスの人間、奥歯に加速装置でもついてるのか?回りを見渡すと、俺一人…ではなく、さっき俺と同じくクラス委員になった春日さんがおろおろとたたずんでいる。

 結構可愛いなぁ。なんて思っていたからか、撤退もかなわなくなり、否応なしに掃除をさせられることに……

 俺はやれやれと肩を竦ませ、掃除を始める事にした。

 春日さんは黒板などの軽い仕事を任せ、俺は机を一気に後ろへ下げた。

 窓の外には、保護者と一緒に写真を撮るやつらも居た。そういやうちのお袋は式が終わって早々に帰ったなぁ…などと考えていると、春日さんと目が合う。

「…あ、そういえば家族の人と写真とか取らないで良いの?」

 何気なく話を振る。春日さんは作業の手を止めて…

「あー、お母さん式が終わったら帰っちゃったなぁ…妹が明日中学入学式だからその準備のほうが忙しいみたい」

「へぇ、妹さん居るんだ、羨ましいなぁ」

 などといった会話をしつつ、掃除を満喫していた。いや、満喫はしたくなかったがな。そういえば解散の合図は今より遥か昔に言われたような気がする。

 たった三十分…されど三十分。この三十分はでかいと思いながら、俺は鞄を手にした。

「さ、あとはこの箒とかを片付けて…」

 そう言い掛けた時、教室の扉が勢いよく、開かれた。

「やばっ〜家の鍵多分、引き出しの中に…」

 …同じクラスの…誰だっけ?まぁ、多分この教室に入って一目散に目標の机に向かっていったし、他のクラスの奴ではなさそうだ。女の子が結構凄い勢いで教室内に入ってくる。

「あれ?無いな…」

 どうやら探し物をしているらしく、机の中を覗いたり、周辺をきょろきょろと探している。生憎だがその周辺は俺が魂を込めて掃除したから、チリ一つ落ちてないぜ。もっとも、この教室を使ったのは今日が初めてだから何もごみ等は無かったがな。

「あ……」

 本当に今更だが、女の子が俺たちの存在に気が付く。

「あんたたちもちょっと手伝いなさいよ!!」

「はぁ?」

 思わず俺は聞き返した。

「だから、私は今家の鍵を探してるの!!

というわけで洗いざらい話したから当然手伝う義務が此処で生まれたわ、というわけで鍵を探しなさい!!」

 ちょっと待て、俺はお前が何をしていたか聞いたわけでもないし、勝手にそっちが喋ったことで、当然のように手伝えっていわれてもな…とか何とか思いつつ、手伝ってしまう俺の心の優しさ。

 探す事十数分……

「なぁ、此処には鍵はないと思うぞ?俺たちさっきまで此処を掃除していたから、鍵なんて落ちてなかったし……」

「はぁッ!?何でそんな最重要的なことを先に言わないのよ!!

 そんなこと知っていたら此処での十三分二十三秒、強いていえば、青春の十三分二十三秒無駄にしなかったじゃない!!」

 …時間数えていたのかよ。

 それに俺に文句を言う件ではないと思うのだが……

「なぁ、鞄に入ってたりするんじゃないのか?」

 俺は女の子の持つ鞄を指差して言った。

「そんなことないわよ、家の前で鞄の中ちゃんと確認して、此処まで戻ってきたのだから!!」

 そういって『ふん』と何故か胸を張る女の子。

「なぁ、その鞄の前ポッケからでてる奴は?」

 俺は目の前でぷらぷらしていた、ストラップみたいなものを指差して言う。

 その刹那…女の子の表情が固まる……

「で、あんたたち、この時化た教室でこんな時間まで何やってたの?」

 それだったんだな?

「クラス委員としての初仕事だ」

 そんなことはないのだが、体面上こう言ったほうが聞こえが良いと思ったのでそう言うことにした。

「へぇ、で、そんなどうでも良いことは置いておいて、いいからちょっと来なさい!!」

 ど、どうでも良いって言うな!!

 女の子は俺たちの首根っこを捕まえ、ずるずると引きずり…いや身体が地面と平行に動いていたかもしれない。抵抗する暇さえも与えず、女の子は俺と春日さんをとある一室に拉致を敢行した。

「……で、だ。こんなとこに連れて来てどうするつもりだ?」

こんなところとは、文化部棟の一室で『星座観測愛好会』と書かれたプレートが目に付く。

「星座を見るのが好きなのか?」

 普通は『星座観測愛好会』というところに来たということは、頭の計算式が色々と働いて、『イコール星座を見るのが好き』という最終結論がでるのは当たり前だと思う。計算式でケアレスミスなどをしなければ、容易に想像できる答えだと思う。だが、この女の脳内コンピューターは『1+1=2』という答えを許さず、『1+1=1〜100』というケアレスミスどころの騒ぎではない数値を叩き出す。

「んな暇なことはしないわよ。

 あんた達は私と一緒にこの部室で、私の作る愛好会の一員として、青春の一ページ…いや全てのページを達筆で執筆するわよ!!」

 女の子は堂々と、さも当然のことを言うように、そう言った……そして、女の子は達筆で書く執筆の大切さやら、青春の一ページは常に書き進められているということなどを言っていた。

「…お前、馬鹿だろ?」

 素直な俺の気持ちをぶつけてみた。

「馬鹿とは何よ、馬鹿とは!!偉大なる部長に対して…いや愛好会会長に対してその物言いは何よ!!」

 あぁ、そうか…がんばってな。

 俺は心の中でそう告げ、女の子と春日さんに背を向け、背中越しに手を振り、愛好会会室のドアノブを握る……

「きゃぁっ!!」

 春日さんの短い悲鳴と共に、背中に何か柔らかい感触が……

「…ッ!!好きなの!!」

 次は女の声、またも何か感触が。って今重大発言だよねッ!?

「好きな人と一緒に好きなことをしたいの!!」

 くぁっ!!

 何だこの破壊力は!!

 恥ずかしながら、男、日之出夕日……こういうのには案外弱い……

「ちょ、ちょっと待て、急にんなこと言われてもだな…つーかめんどくさそうだしな……」

「ちっ…」

 背中で短い舌打ちが聞こえた後、背中の感触が一気になくなる。

「がッ!!」

 外部から背中を通り、肺に衝撃が走り、肺の野郎がパニックを起こし、一瞬息が止まる……

「なッ、なにすんだよ!!」

 俺は振り返ると、其処には、女の子に抱え込まれるような形で春日さんがおろおろしていて、俺が振り返った事がそんなに嬉しいのか、女はにやりと笑みを作る。そして、ずいっと俺に手を差し出す。

「……堪能料」

 金とるんかい!!つーかそれは当たり屋よりタチ悪いぞ!!

「いくらだ?」

 金で解決するなら、それでもう済まそう。これ以上この女と係わってはいけない。そう遺伝子が危険信号を発している!!

「春日ちゃんのが一万」

 えぇ〜

「私のが十万」

 十万かぁ…ってうおぉぉぉいッ!!

「うおぉぉぉいッ!!ぼったくりか!?いや、クエスチョンマークいらねぇ、ボッタクリだ!!」

 おもわず、心の声まで口に出してしまった……

「料金は後一秒で払う事、払えなかったら…即入会」

 女の子はそれが当然だと言わんばかりの表情でそう言った。俺の意思とは関係無しに入会が決まった。今日は俺の意思は蔑ろにされすぎる。カレンダーに記念日として記録しておこうかな……

 この後、春日さんへの入会交渉…というか、まぁ、この件はあまり触れないほうが彼女のためだと思う…そして、入会者が決まったのがそんなに嬉しいのか、女はそのまま上機嫌でスキップをしながらトリプルアクセルをしそうな勢いで家に帰っていった……

 俺と春日さんは昼下がりの街を歩いている。春日さんはバス通学、俺はチャリ通学。

「今日は…その、災難でしたね」

 俺は自分の愛車を押しながら、春日さんの隣を歩く。

「その、今日のことは…秘密に……」

 少し赤くなって春日さんは言う。

 あぁ、今日の出来事は胸にしまっておきますよ。でも、脳内レコーダーでは何度もその拷問シーンが蘇りますが。

 くすぐられて、格好とか気にしないで悶える春日さん。其処まで言えば、俺がどんな役得を得たか、解ると思う。

「で、あの愛好会…どうする?」

「が、がんばるしかないですよね…?」

 二人して少し気落ちする……

 交差点で春日さんと別れ、愛車にまたがり、ヤレヤレとため息をついて俺は家への帰路につく。

 後々から考えてみれば、掃除を頼まれ、鍵探しを強制的にさせられてのも運命…いや、運命は大げさすぎるか。兎に角なんか必然的にそうなるべき縁。平凡、平和な高校生活とはかけ離れた高校生活が始まった……

お久しぶりです水無月五日です!

始まりから少し話が変わってますね〜

古いほうと比べながら読んで違いを楽しむのも良いかもしれませんね。

暑いですががんばっていきます!!

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