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第15回

 高校生になってからというもの、変な部活に入ってしまった所為か時間が経つのが早く感じられる。九月半ばに愛好会の会員数が五人となって、今現在も脱落者が出ることなく人数維持を継続中。

 緑色の若い葉が熱烈な恋をしてしまったのか、真っ赤な色を出し山々を紅く染め上げたいた景色も今や真っ裸。それだけ時間が流れている。

 十一月十一日。探せば何らかの記念日なんだろうが、眼鏡の日や耳の日など同じように特に生活に支障は無い。

 もう冬が目前まで来ているこの時期、もしアナウンスがあれば「まもなく、まもなく冬がやって参ります、お待ちのお客様は厚着をしてお待ちください、薄着で飛び出すと大変危険ですので厚着をしてください」なんて流れているんだろうな。そんな意味の無い思考が頭の中を占拠してしまうほど、俺は暇を持て余している。

 いつもの会室、少し違うといえば内装が段々豪華になってきた事ぐらいか。会室の扉には猛獣注意というプレートが掛けられ、室内の壁には日めくりカレンダー、靴べら模造花、はんてんなどが掛けられ、隅には湯たんぽ窓にはカーテンと風鈴などと季節感がバラバラで統一感が無い状況。何にも無かったあの頃が少し懐かしい。そんな会室の中央に五人集まって、授業中配られたプリントの裏に何かを書いている。

 なんで、こんな事をしているかと言うと、時は三十分ほど遡る。


「だぁぁっ、暇、ヒマ、ひまッ! この時間を持て余している感じはどうにかならないのよ!」

 いつものように集まって雑談をしている最中に中留御が叫んだ。その声に驚き、一同騒音元を見つめる。

「いや、実際暇しているわけだからしょうがないだろ?」

「はい、ユーヒは黙る!」

 俺の人権というものは無いのか、もしあるとするならばトレース用紙並に薄っぺらいものなんだろうな。

「でもぉ〜実際やることなくて〜おしゃべりしているだけですよぅ」

「そうよね、人数も集まったのに何もすることが無いと言うことは由々しき事態よね」

 ちょっと待て、何だその態度の違いは。言ってる内容は変わらないのに何故だ。相手が春日さんなら許そう、いやまず俺がとやかく言えるはずも無いが、言ったのが夏目なつめなら話は別だ。これは納得できん、断固上訴し最後まで戦うぞ。それにだ、色々と突っ込まねばなるまい。

「いや、まずその考え方からしておかしい。人が集まってする事が無いじゃなく、本来やることがあって人が集まるもんだろ。バスケをしよう人数は居るけどボールが無いなんて事はまだ何とかなるが、ボールはある人数も居る。さぁ何をしよう? なんて話だと門前払いだぜ。しっかりとした目標があって、やる事を決めるんだろう。今はこの状態でも何とかなるが、生徒会選挙があって、新生徒会の初仕事は部活の見直しから始まるだろうよ。そのときまでには確実に活動の方向性を決め、何らかの形で認めてもらわなければこの活動は潰されるぞ?」

「ユーヒ君……」

「ユーヒ……」

「日暮さぁん……」

「馬鹿ユーヒのクセに……」

 会室内を変な空気が漂い始める。四人とも俺の顔を見て驚いたような表情を浮かべている。いや、そんな顔で見られても困る。

「な、なんだよ、皆して」

「ユーヒ君って、いつもどうでもいいやってか、ダウナーな感じばかり出してたけど、ちゃんと部の事考えてたんだね。そういえばそろそろ生徒会選挙があって、新生徒会になれば何らかの形で現状の改善を図るよね……」

 春日さんはどうやらそのように俺を見ていたのか。それは置いておいてだ。

「そろそろ、活動を決め始めても遅くは無いんじゃないか? さっきはあんな事言ったけど、きっと今なら何か見つけられる気がするんだ」

 場の雰囲気に押されてか、ガラにも無い台詞が口から飛び出した時は正直、自分の頭を疑った。

「なーんで、ユーヒが副会長になっているか、何となくわかったなー」

 並木が感心した面持ちで頷きながら俺の肩を叩く。悪い並木、副会長だと言うことをすっかり忘れていたし、もし入会の順番がお前と逆だったならその肩書きはお前のものだっただろうよ。

「ゆ、ユーヒに其処まで言われたんじゃしょうがないわね、皆で活動内容もしくは会の名前を考えましょう!」

 中留御がパンと手を叩いて場を仕切り直す。皆意欲的に鞄から紙を取り出し、それぞれアイディアを練り始める。こうなってから言うのもなんだが、ヤッパリこの時点でおかしいよな。

 頭の中にいいアイディアが浮かぶはずも無く、真っ白なプリントから逃げ出すように周囲を見渡し始めた。こうして冒頭の状況に至ると。

 火を付けた俺だが、もうその時点で役目は終わりを告げたようなもんだ。ケーキ上のキャンドルに火を灯す人間が入刀するか? 放火をする奴が責任持って消火活動までするか? そうさ、俺はスタートの合図を出しただけさ。

 俺が暇を持て余し、時間だけを浪費している間にも四人は意見を出し終えたみたいだ。

「じゃぁ、個人個人で意見をいって、いいところを混ぜましょう」

 中留御がシャープペンを回しキャップを並木に向ける。

「えっと、カウンセリング愛好会。活動は生徒のカウンセリング、学校内に案内のプリントを貼り付けて知らせるってのは?」

「ふむ、なかなかいい案ね。もし他にまともな意見が無ければ採用するわ、そうしたらアンタを会の企画課長か何かにしてあげるわ」

 満足顔の中留御が自分の紙にアイディアを走り書きをし、「櫻並木 企画課長こーほ」と付け加えた。

 櫻並木って漢字で書けるんだな中留御。俺は絶対に無理だ。だが、それが書けておいて何故候補が書けない?

「じゃぁ、次は春日ちゃんね、いいアイディアを期待しているわ」

 確かに春日さんの意見ならきっと素晴らしいものだろう。一般人と芸能人が同じ飲み物を飲んだとする、当然美味しそうに見えるのは芸能人が飲む飲料水のほうだ。というようにイメージだけでも十分いける。

「えっと、困った人たちを手伝う活動なんだけど……ほら、夏休み田中先生を手伝ったじゃない、ああいうのをやって行ったらどうかな? もちろん先生だけじゃなくって他の一般の生徒もオーケーにして」

 確かにいい案だ。もしそんな活動内容になったのならば、副会長という肩書きは捨てて東高校いち生徒、日之出夕日として指名つきで春日さんに依頼を出そう。勿論他の指名の依頼は夏目なつめに回し、毒牙から春日さんを守らなければ。

「それも捨てがたいわね、春日ちゃんにも企画課長候補に挙げておいて上げるわ」

「あ、有難う御座います」

 春日さんは書記じゃなかったか? いや、別に課長でも何でもなっていいけどな。俺は真っ先に春日さんの部下にもなろう。副会長? そんな肩書きは速攻捨ててやるさ。

「お次は夏目ちゃん」

「はい〜待ってましたぁ〜」

 カタガタと音を立て椅子から立ち上がり、腕を伸ばして姿勢よく紙を読む。一つ突っ込ませろ、お前は昭和の子供か?

「まずは五人もいることですし〜何か運動をしたらどうかなーって思うんですよぅ。で、五人でやるスポーツといえばぁ〜ポートボールなんてどうですかぁ? これなら運動苦手な夏目ちゃんもちゃーんとお役に立てますよぅ」

「……」

 流石に中留御も反応に困っているようだ。周囲に「誰か突っ込みなさいよ、ユーヒ!」と言っていそうな目で見る。名俺指しするなら誰かなんて要らないぞ? まぁ、見てる分は面白いし、もう少しこのままにしておいてやろう。

「いっ!」

 笑いを堪えて顔を逸らした途端俺の脛が痛み、咄嗟に中留御を睨むと顎で夏目をしゃくる。ヤッパリ俺なのね……。

「待って夏目、ポートボール部ってのは確かに斬新だが、発想が斬新すぎて他の高校でもそれは存在するのか?」

「他の高校に無いからいいんじゃないですかぁ〜もしそれが中学校に広まれば、きっとポートボールをするために入学してくる人が居るはずですよぅ〜」

 それは何年に一人の逸材だよ。まず人数が増える前に俺たち卒業、部は自然消滅しそうなんだけど。

「いや、運動系の活動で他の学校に無いって駄目だろ。それじゃぁ大会実績とか残せないし、街の大会って言ってもそう無いぞ?」

「あ〜それは盲点でしたぁ〜夏目ちゃんうっかりうっかり」

 デコに手をあて微笑する夏目なつめ。お前のうっかりにはそろそろ慣れてきた。とりあえず春日さんや並木らも苦笑いを浮かべている。

「じゃぁ、次はユーヒね」

 必死に夏目なつめを説得した俺に待っていたご褒美は、かつて無い残酷なものだった。

「あー、全く思い浮かばなかった」

 腕を組んでふんぞり返って聞いていた中留御の目がつり上がる。あぁ、大惨事三秒前。にーいち、ぜろ。

「ちょっと、何よそれ! 皆考えてたってのにアンタは全く考えてなかったわけ?」

「そういうわけじゃない、思い浮かばなかったんだ」

 まぁ、考える気が無かったというのもあるけれど。

「あー駄目ダメ、全っ然だめね。ユーヒはリストラ候補最有力ね」

 おうおう、俺の席が窓際になったのか。それはそれでいいだろう、次は春日さんに雇ってもらうから。

「じゃぁ、お前はどうなんだよ?」

「わっ、わたしぃ!?」

「そう、私。見る限りお前の紙も真っ白じゃないか、それとも頭の中に大層立派な考えがあるんだろうな?」

 負けじと喰いついてゆく。中留御は焦りながらコメカミのところをを人差し指でもじもじと遊んでいる。もの事を考えるなら両手でするべきだ。そうしたなら俺は木魚ぐらいは鳴らしてやるさ。きっといい意見が出てくるはずだぜ、何処かの和尚さんもよくやったみたいだしよ。

 ふと視界を並木と春日さんに向けてみると、二人はひそひそと会話をしているようだった。

「今のところユーヒが優勢ですね」

「中留御さんの反撃を塞いでまずは先制攻撃と言ったとこですね」

 俺が中留御に喰いつくことに慣れきった二人はのんびりと実況をやっている。前々から思ってたんですけど、春日さん。並木と微妙に仲いいですね!? いえ僕は気にしませんよ、えぇ。この両目から流れる雫は心の汗で御座います。泣いてなんかなーいさ、涙なんて嘘さ、目の悪い人が見間違えただけなのさ。

「わ、私はその…意見をまとめ…そう! 私は意見を纏めるのが仕事なのよ、みんなを成長させるために!」

「なら今回は纏めるのは俺がやろう、きっとそうすることで俺は更なる成長を遂げられそうだ。そういうことで中留御、お前は思う存分頭を使って考えてくれ。俺たちに会長として納得できるところを見せてくれよ?」

 何ヶ月の付き合いになると思ってんだ? 少なくとも俺は似たような状況で何度もお前にそう言われてきたんだ。そろそろ対抗策ぐらい考えるさ。

「ユーヒ君の強烈なストレートです、これを切り返せるでしょうか、中留御さん!」

「いやぁ、やられっぱなしのユーヒじゃないって事が証明されましたねぇ」

 解説者は楽しんでるらしく、多分この集まりの活動は人生を楽しむ方法教えますとかでやったら手っ取り早いんじゃないか? 効果は春日さんで立証済み。百人の結果よりも春日さん一人の結果は信憑率高いぜ。

 言葉に詰まった中留御は、大逆転出来る可能性を探しているがそれは無理だぜ、お前は周囲を囲まれた王将なんだぜ、全方向動けるにしても所詮1マスのみ。いずれは囲まれるさ、無駄な抵抗はやめて負けを認めるんだな。

「あー、もううっさい! たまたま調子悪かったから考えが浮かばなかっただけよ、家に帰って風呂入ったらちゃんといい意見出せるんだから!」

「逃げるか?」

「逃げるんじゃないわ、勝利への転進よ!」

 がつりと脛をもう一度同じところを蹴られ、溜まらず机の下に潜り込んで脛を摩る。悶えながら「今日は終了、気を付けて帰るのよ!」と不機嫌な声で言い残し、扉を強く閉める中留御の声が聞こえた。

「ユーヒ君、大丈夫?」

 屈み込んで顔を覗き込んで心配してくれる春日さん。もう大丈夫です、これだけで俺の古い細胞は新しい細胞へと生まれ変わりました。

「まぁ、戦には勝ったが勝負には負けたな」

 並木が苦笑いを浮かべ肩に手を置く。戦には勝ったが勝負には負けたって、死んでるじゃん、俺。

「中留御さんも、此処の事全く考えてないってわけじゃないから、ほらユーヒ君も多めに見ないと、ね?」

「別に中留御に腹なんて立ててないよ、ちょっとからかいすぎただけ。でもそろそろ活動内容決めないとホント厳しいよなぁ」

 そろそろ生徒会選挙が執り行われる事で、学校内の廊下などに候補者の名前なんかが出ているのを見かけたりする。何か一つ考えなくてはいけないのかもしれない。

「あれ? 夏目は何処行った?」

 会室内に一人人間がいないことに気が付き、キョロキョロと会室内を見渡すが居ない。

「帰ったんじゃない?」

「私たちもそろそろかえろっか?」

 三人揃って会室を後にし、バス通学の春日さんと別れ、チャリンコ通学の並木と校門まで一緒に帰る。

「じゃ、また明日な」

「おう、気を付けて帰れよー」

 お決まりの言葉を交わし、帰る方向が逆の並木と別れる。

 家に向けてチャリを漕ぎ出した時、なんだか気になる人物が居た。コンビニの公衆電話で誰かと連絡をしている東高校の女の子。何か話をしているのか、ガチャガチャと硬貨を連続投入している。信号がちょうど赤に変わったところで、もう少し眺めてみるか。

 よほどの長電話なのか、焦りながら女の子は受話器に耳を傾けている。何をそんなに慌ててるんだろうか?

 そんな俺の意志とは裏腹に、携帯のバイブレーターが鳴り響く。

『ユーヒ帰りにコンビニでゴミ袋と輪ゴム、牛乳買ってきて』と母からのメール。一体この母は俺が金を持ってなかったらどうするつもりだったんだろうか? ため息一つついて俺はコンビニへとチャリを止める。

「ありがとうございましたー」

 店員に見送られ、俺はコンビニを後にする。頼まれたものは全部買ったし、少し牛乳は高級な奴を買ってみた。

「あっ、ちょっと……」

 受話器を手にしていた女の子がガクリと頭を垂れる。どうやら用件が伝わってないのに電話が切れてしまったようだ。ちらりと女の子を見ると恥ずかしそうに顔を逸らす。バックから財布を取り出して中身を見るがどうも十円玉や百円玉がないらしい。

「あっ……」

 女の子の声がして足元を見ると、五円玉がコロコロと足元に転がってきた。それを拾い上げると、女の子がぺこりと頭を下げたので俺はその子に近づいてゆく。

「はい、落としたよ? まだ用件言い終わってないうちに電話切れちゃった?」 

 無言でお金を渡すのも気が引けたので、さりげなく話題を振りながら五円玉を女の子に返す。

「はい……家の人に迎えに来てもらおうかと思ったんですが、叔母がなかなか……」

 多分ボケちゃっているんだろう。となるとまだ用件を言ってない訳か、で小銭は底をついたと。

「良かったら携帯貸すけど?」

 迎えに来てもらうということは相当な距離があるんだろう、それを歩いて帰る事になると少々辛そうだ。それだったら携帯ぐらい貸したっていいだろう。

「え、あ……その、私携帯など使ったことなくて、使い方がわからない……」

 ごにょごにょと最後の部分が聞き取りにくかったが、携帯を使ったことがないらしい。いや、高校生にもなってそれは。まぁ、家によっちゃあるところはありそうだな。

「あ、そうなんだ」

 ふと財布の中にテレホンカードが入っていたような気がして財布の中を見る。

「あった、あった」

 子猫が寝そべっている写真の写ったテレホンカード。まだ全然使っちゃ居ない。六十度の奴でまだ五十と目か。これならまだまだ話せるだろう。

「はい、これならいいんじゃない?」

 テレホンカードを女の子に手渡すと、驚いたような表情を浮かべ、何度も頭を下げてきた。

「あ、有難う御座います……いいんでしょうか、使っても?」

「気にしないでいいよ、俺それ使わないからさ」

 女の子はもう一度礼を言うとテレホンカードを公衆電話に入れて家の番号を押し始めた。さて、これで長居する必要はもう無いな。そろそろ急いで帰らないと、お使いをして帰ったのに怒られるなんて嫌だからな。

 買い物袋を鞄の中に入れ、音楽プレイヤーの電源を入れて颯爽と自転車を漕ぎ始めた。何となく人助けをしたからか、気分がよかった。


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