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第13回

 いつも寝ている時間に起きて行動するという事は滅茶苦茶辛い。

 おおよそ一ヶ月間九時過ぎまで寝ていた俺からしてみれば地獄そのものである。

 頭は重いし、身体はだるいし。クラスの他の連中もそんな感じだ。

「ふぁ……ねむぃ」

 始業式当日だというのに早速授業が始まる東高校。ホント素晴らしいよね。

 思わぬところでゆとりのしわ寄せが来るとは……。

 この調子なら半日で終わる終業式の日の午前中が授業になる日もそう遠くはなさそうだ。

「ユーヒ、夏は全て部活だったの?」

 早田が俺の前の奴の席を占領して聞いてくる。

「それは嫌味か。お前とは結構登校時に会ったような気がするけど」

 俺が少し機嫌が悪そうに言うと、早田はニコニコ笑って俺の肩を叩いた。

「冗談冗談。で、夏の間に中留御さんか春日さんと何かあった?」

「もし何かあったなら今こうしてお前と話してると思うか?」

 早田はそれもそうだと言って、夏に買った漫画とか見つけた面白い店の話で盛り上がっていた。

「日暮さぁ〜ん」

 狭いクラスの中で一際大きい声で俺を呼ぶ声。四十人居るクラスで俺を日暮と呼ぶ馬鹿は一人しか居ない。

「大声で人の名前を呼ぶな、夏目なつめ」

 夏の間に密かにマネージャーとくっついた部活の人間や、ちゃっかり付き合ってたりする人間の噂をそれとなく聞いている人間が一斉に俺となつめを見る。

「いやぁ〜お話していたみたいでぇ〜大きな声で呼ばないと気がつかないかもーって思っちゃいました〜♪」

 トコトコと俺の机に近寄ってくる夏目なつめに周囲の視線が集まるが、本人は気がついてない。

「で、何か用か?」

 半目で夏目なつめを見ながら俺は少し身体を傾ける。

「それがですねぇ〜なつめちゃんうっかりしちゃって今日提出課題一つやってきてないんですよ〜」

「おぉ、それはご愁傷様だな」

「あるある、夏休みの間に宿題終わんなくて優先順位を決めてやっていったら、勘違いしていることとか」

 俺と早田は夏目なつめの話を笑いながら聞いている。

「それでですねぇ、今から真面目にやっても時間掛かっちゃうので、日暮さんに見せてもらいたいんですよ〜」

 てへっと舌を出すような仕草をして、夏目なつめはすっと数学のテキストを取り出す。

「あぁ、確かにコレは終わらないよな、でも他の奴の写したほうが正解率的にもいいぞ? なぁ、早田」

 俺より数学の出来の良い早田に話を振るが、

「あ、ごめん朝出してきたんだ」

 と肩をすくませて笑う早田。

「何の話やってんのー?」

 ちょうど何処からか帰ってきた中留御と春日さんが俺たちの輪に加わる。

 まぁ、いつものメンバーといえばいつものメンバーだ。二名ほど忘れていそうだが。

「あぁ、夏目が数学のアレやってきてないらしくてよ、写させてって言ってきてんだよ。どうだ、中留御?」

 中留御は勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

「私は朝出してきたわよ? 春日ちゃんと一緒に。それにアンタもやってないんじゃない? 夏目ちゃんをダシに使おうっていったって、そうは行かないわよ」

「俺は終わってるっつーに」

 中留御の言動に軽い眩暈を覚え、俺は夏目なつめに数学のテキスト集を渡す。

「写し終わったら俺のも一緒に出しとけよ?」

 嬉々としてその行動を見て我が道を行く中留御。

「うわーマジ鬼畜〜。なつめちゃんに宿題やらせるなんてッ!」

 誰かこいつのなくなった頭のネジを探してきてください。

 そんなとき、掃除開始のチャイムが鳴り響く。

「じゃ、俺掃除行って来るわ」

「ユーヒ君今何処掃除?」

 東高校の掃除のローテーションは二週間ごとにクルクル変わっていく。教室、教室前廊下、昇降口、昇降口トイレ掃除。

「今、昇降口掃除。夏休み掃除されてなかったのできっとスッゲー砂埃とか溜まってそうだから嫌だよ」

「えっと、ユーヒ君が昇降口なら私は教室前廊下掃除か。ありがと。」

 皆それぞれの掃除場所に散ってゆく。

 掃除も終わり、帰りのHRも無事終了し今日一日の授業が終わりを告げる。

「一日長かったぁーっ」

 愛好会のアジトでだらしなく長机に突っ伏して一日の開放感を味わう。

「始業式の日から授業ってちょっとめんどくさいよね」

 春日さんも夏休みの調子が抜けていないようで何処か辛そうな顔をしていた。そんな顔も愛らしいですけど。

「つうか、中留御おせーなぁ」

「まぁ、何をするって決まってもないですし世間話するだけだからね」

 本当に此処は部活動なのか気になる会合だが、それになれてこの一室を占拠してしまっているのが当たり前に感じてきている。

 密かにこのままではヤバイなと思ったりもするのだが、俺の力でこの愛好会を変えられるなんて幻想なんか遠の昔に諦めているさ。

「あ、春日さん、そういえば夏休み家族と何処か出かけた?」

「うん、家族でプールに行ったりしたよ。従兄弟も居たなぁ、えっとウォーターアイランドだっけ隣のそのまた隣の県の」

「あぁ、あそこね俺も行ったことあるなぁ、何か変わってるのあった?」

 そんな感じで春日さんと夏の思い出を語り合っているときに、愛好会会室前が少し騒がしくなってきた。

 なんだ、弾圧集団がとうとう来たのか? それとも春日さんとの甘い時間を邪魔しに来たのか、それならば許せん。

「皆、集まっているわねー!」

 愛好会の扉を開け放って中留御が上機嫌に言い放つ。

 くそ、お前か。薄々気がついていたんだが、絶対部屋に入ってくるタイミングを計っているだろ? いやらしい奴だ。

「何よユーヒ、その『おっせぇよ』っていう文句垂れ垂れの顔は。理由のある遅刻なんだから多めに見なさいって!」

 中留御の様子が何処かおかしい。

 真っ先に頭という選択肢が出て来たが、今に始まったことじゃないのでこの際頭はスルー。よくよく見てみれば中留御の姿勢がおかしい。何か踏ん張っているようなそんな感じがヒシヒシと伝わってくる。

「で、夏休みに話したわよね、一学期は準備期間だって。生徒会に申告するためにも実は結ばなきゃね。と…言うわけで」

 中留御はぐいっと何かを引っ張り出し、会室内に押し入れる。

「うわァッ!?」

 人影はバランスを崩し尻餅をついて周囲を見渡す。

『……』

 静まり返る会室内。俺と春日さんは突然の騒動に言葉を失い、呆然とその人物を見つめる。

 俺と同じ制服、髪型はトゲの付いたボールを彷彿させるようなショートのツンツン頭の男子生徒、生憎ながら見たことのない顔だと思う。クラスメイトだったら許せ。

「あーえっと、中留御。ニ、三質問していいか?」

 中留御に向き合うと上機嫌に奴は指定席にふんぞり返って座り、机に足を乗せる。

「とりあえずこの人は誰だよ。仮に依頼人だとしても相当嫌がっているように見えるんだが。それに机に足を乗せんな馬鹿」

 俺の注意が効いたのか、中留御は椅子から立ち上がり、腰に手を当てその場を徘徊する。

「まったく、ユーヒはホンッと鳥頭よね。さっき入って来たとき私がなんて言った? まぁ、此処は省略するけど」

 ちょっと待て、省略すんな!? 百歩譲って俺がよくお前の話を聞いてなかったとして、もう一度説明するのが筋ってモンじゃないのか?

 とりあえず突っ込みを考えてみたんだが、マシンガントークは止むことを知らない。

「で、この愛好会に入会者が居れば活動準備って言っても問題はないし、活動内容も決められるしね」

「ふ、普通逆じゃない? 活動内容決めてから人を誘うんじゃ…」

 おぉ、春日さんが珍しく中留御に突っ込んだ! ナイスファイト! 俺は貴方が最後まで戦うというのなら援助を惜しみません。そう、欲しがりません勝つまでは!

「別にそんなんどっちでもいいでしょ?」

「あ、そうですよね」

 中留御が肩をすくめてため息を一つ。春日さんもそれにつられて苦笑い。って、降伏しちゃったよ!?

「ちょっと待て待て、全力で俺とこの人を置いて行かないでくれ、何がどうなっているんだよ一体?」

 俺は全く話の内容が理解できない俺自身と、保健所員に捕獲された事が解らずきょとーんとして野良犬のような雰囲気をかもし出している男子生徒を救うべく中留御に立ち向かう。

「あんた達鈍いわねェ。脳トレで鍛え直さなきゃ」

『脳トレ全く関係ねぇよ!?』

 中留御は呆れ、ヤレヤレっと言った顔で俺たち二人を見る。

「解りやすいように言うと、そこでへたり込んでいる奴を愛好会に入会させるって事よ」

「ちょっと待て、激しく待ちなさい中留御氷雨君。それはいくらなんでも無茶苦茶だろ!?」

 机を叩いて俺は中留御に詰め寄る。

「何よユーヒ。アンタだって嬉しいでしょ、数少ない同志が出来て。あ、それともハーレムを邪魔されて悔しいの?」

 人差し指を立てて、それを俺につき付け得意げに語る中留御。

「そういうわけじゃねぇよ!? 第一、知らない人を拉致勧誘ってマジで洒落にならんぞ!」

「あぁ、私の知り合いだから無問題モーマンタイ

 何時の流行語だよそれは。って、ちょっと待て知り合い?

「遅れたけど紹介するわ。えっと、さくら並木なみき西中出身でクラスはC組」

『さくらなみき……』

 俺と春日さんはお互いに顔を見合わせ、紹介された人物の名前を復唱する。ぶっちゃけひどい名前だ。

「いや、其処!? 俺と同じような名前でしょ!? 日之出夕日と春日春日!?」

「あれ、何で俺の名前を?」

 俺は東中で西中には練習試合なんかで行った事もないし、それに西中に知り合いすら居ないしな。

「いや、だってよぅ。ほら…ねぇ……」

 あぁ、何となく察しが付いたぞ。このクラブの所為か。

「と、言うわけで並木も勿論明日から部活動に参加ね」

「ちょ、まてよなんで俺が!?」

 並木は慌てた様子で手を思いっきり振る。その気持ち解らんでもない。

「何、何か問題でもあるのかなーさくらなみきくん♪」

「なんで、俺がはいらな……いやいや、喜んで参加させていただきますよ、僕は!!」

 中留御の睨み一つで抵抗の心を折られた並木。この二人の過去に一体何があったんだろうか…大体は想像できるが。

「じゃ、今日はこのあたりでいいわね。ちゃんと来るのよ並木。まぁ、私に背いたらどうなるかなんて解ってるはずだし♪」

 嵐のように走り去る中留御。会室に残された俺と春日さんと並木。今此処がグラウンドなら木の葉を巻き上げたつむじ風が寂しく髪を撫ぜるだろう。

「で、だ。結局櫻君は入会すんの?」

 此処あたりは聞いておいてやらないとな。これ以上被害者を作ってはヤバイ。一致団結されて立つとこに立たれちゃ勝てるわけがない。

「仕方ないけど入ることにするよ。あ、俺並木でいいよ」

 中留御につかまった人間は皆こうやって諦めていくのか……俺たちもそうだったように。

「よろしくね、並木君。あ、私春日春日です。A組の」

「えっと、俺は日之出夕日ね」

 こうして新たに愛好会に被害者もとい、会員が増えたのだった。

 少し、いやかなり不幸な並木を見ながら俺はメンバーが増えたことを心の中で喜んでいたのだが、中留御の計画はコレだけで終わるなんて事がないって俺達は後になって気がついたんだ。


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