表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/28

第12回

 こちらに返って来て欲しくないものが俺の意思なんか関係無しに懐に返って来て驚き半分、落胆半分でその現実を受け止めることにした。まぁ、この現実をすんなりと受け入れる事ができたのはもう長期連休まで指折り数える事後指三本。俺だけではなく、学校内の人間の殆んどの思考は三日後の午後まで飛んでいる。

 そして本日は珍しく愛好会会室の人口密度が滅茶苦茶多い。いつもなら部活開始前まで松木や早田が居たりするんだが、今の時刻は子供が帰る時間を十分ほど過ぎたぐらいだ。今の日照時間を考えると部活も折り返しを迎えた頃か、そんな時間帯に間違っても松木や早田がこの愛好会会室に居るのはおかしい。そして更に付け加えるなら夏目なつめと平田望ちゃんが居るということも。

「ちゅーかこの部屋暑いわよ!?」

「当たり前だ。いつもなら三人プラス精々一人ぐらいしかこの部屋に収容されてないんだからな。今の人数は収容人員を軽くオーバーしているんだぞ」

 フェリーの安い船室のようにぎちぎちと狭い会室の中に人間七人とその荷物がある。見るっからに狭苦しい光景である。そして不思議とむさくるしくはないのである。有難う春日さん。

 なんでこんな密入国者のような状況になっているかというと、夏休み前でなんでか部活が無く、バス通学組みの時間つぶしのためである。ただでさえ学校が終わり帰りのバスが混むというのに、部活の人間まで同じ時間に解放されちゃその混み具合は四割増しだそうだ。そういうこともあって半ば無理矢理バスが余裕で座れる時間まで俺は拉致された。

 で、バス通学組みは中留御をはじめ、夏目なつめ、春日さん、望ちゃんである。こう考えていると余分な奴らが二人も居る。ま、余分な奴らが此処に居る理由を改めて語っても仕方ないだろう。どうせ予想すればすぐわかるし。

「きゃぁ、朝日さんどこを触ってるんですか〜えっちですね〜」

「夏目、はっきり言わせて貰う。それは不可能だ。お前と俺との距離を考えろ」

 よほど暇なのか、会室奥の窓際に腰掛けている夏目なつめは会室入り口側の机に座っている俺の方を向いて身体をくねらせながら寝言を言ってきた。

 会室の大きさはおおよそ四畳あるかないか。これが同好会や部になってきたら五畳、六畳と広がっていくのだろうが、いくら広くても剣道部やテニス部、バスケット部などのように人数の多いとこは部屋が多くても密度がすさまじい。噂話としては剣道部やバスケット部の部員が部の部室は要らないから文化系愛好会の会室を二部屋譲ってくれと職員室に乗り込んだことがあるそうだ。結局会室の位置なんかの関係で却下されたと聞いた。

 文化系の部室と体育系の部室では少し部屋の数が違うのだ。体育系の部活は部室のほかに競技練習のための場所が必要で、文化系の部活は特別な場所が必要な部もあるのだが、校舎内にある特別教室で代用が利いたりするので、そう学校敷地内に特別な場所を設置しないで良い分、部室等の大きさが体育系と比較にならなかったりする。

 だが、少子化の影響なのか、文化系の部活棟の使用状況としては半分使って居いれば良い程度である。そしてその使用状況も七割はまともな部や愛好会の部屋だが、残り三割は俺たちのような訳わかんない連中の溜まり場と化していたりする。そう考えると体育系運動部の面々が少し哀れである。

「まぁ、それにしても此処に居ても空気よどんで嫌な感じよね。あ、そうだ! 皆で此処の探検でもしてみない?」

 暇に耐え切らなくなったのか、中留御はぽんっと手を叩いて提案を出した。面々はめんどくさそうに腰を上げるかと思いきや、

「いいですね、私実はこの階の下の部活とか何があるか知らなかったんだよ」

「その提案ナイス! 氷雨っち」

 とまぁ、面々は乗り気で、乗り気じゃないのは俺だけだったりする。

「えぇ!? めんど…」

 面倒臭いと言いかけて俺は言葉を遮った。

 此処で一人だけ乗り気じゃなく、不平不満を口にしたら場の雰囲気が盛り下がる…そんな葛藤の後、俺は渋々首を縦に振った。

「じゃー皆まずは一階から見てきましょ!まずは一階にひぃあうぃ、ごー!」

 ノリノリで宣伝する氷雨の号令に中に居た面々は一階に目指した。が、ジュースを片手に探索しようなどと望ちゃんが提案したので、会室内に設置されている安っぽいロッカーに突っ込んであった靴を片手に皆コンビにまで出ることになった。

「ユーヒ、早くしなさいよ、アンタ出ないと鍵閉められないでしょ?」

「わーったよ、でもなんでコンビニに行くんだよ、ジュースなんか下の自販でいいだろ?」

「まぁ、私もそう思うのよね。ま、大方何かジュースとおにぎりとか食べたいんじゃない? ちょうど間食したくなる時間だし」

 そんな無駄話をしながら俺と中留御は部室棟の一階まで降りてきた。

「んぁ、そういえばその靴もう履いてきてるんだ」

 中留御は俺の手に持った靴を覗き込んでそう言った。

「あぁ、靴は履かないと足に馴染まないだろ? お出かけするからっておニューの靴履いて出かけた日には一日歩いただけでクタクタになっちまうだろ?」

「そういえばそうよね。見栄張っていつも履かない様なサンダルとかハイヒールとか履いて出かけたら凄いよねぇ」

「いや、俺にその経験はわからん。サンダル履かないし、ハイヒールなんてもっての他」

 そういえばそうねと一人納得してポンと手を叩き俺に百円硬貨と五十円硬貨を手渡してきた。

「何のつもりだ、これは?」

 大方予想はついているが、この世の中何が起こるかわかりやしない。とりあえず聞く事は聞かなければな。

「コウラダイエットね、無かったらコウラ若しくはスリアロね」

 やはりそう来るか。しかし此処で折れてしまっては奴の思うがまま。断固抗議しなければなるまい。

「俺をパシリに使うのか? 良い度胸だなコラ。ちょっと面貸しな」

「はいはい、三流のヤンキーの真似はいいからさっさと行く!」

 自動販売機のある方向を指で指し俺を促す。仕方ない、最終手段だ。

「あいわかった」

 靴の踵に指を入れするりと足を靴に入れ紐を結んで俺は颯爽と自動販売機まで走った。本当にパシリだななんて苦笑を浮かべながら。

 数分で購入物を手にして中留御の元に戻るとまだコンビニメンバーは帰っておらず、一人ぽつんと佇んでいた。このままトンズラしてしまおうかと非常に甘い誘惑が頭の中に浮かんだが復讐が怖いのでそのまま中留御の元に歩み寄る。

「コウラダイエットでよかったよな」

「サンキュー」

 ぱしっと俺から受け取るのではなく強奪し、中留御は上機嫌でジュースでお手玉を始めた。炭酸だから開けたら悲惨なことになるぞという警告は胸の中に閉まっておこう。

「あー皆遅いわねー集合時間ぐらい決めておくべきだったかしら」

 携帯を手のスナップだけで開け時計を確認し中留御はまたそれをスカートのポケットに突っ込んだ。もっとも、向こうのメンバーも俺たちが遅いと思ってるんじゃなかろうか?

 暇を持て余した中留御はじろじろと俺の身体を上から下へ、下から上へと見つめる。

 よせ、そんなに見つめられても俺は何も出はしないぞ、寧ろ見物料取るぞ。

「なんか変だと思ってたんだけど、気のせいかしら?」

 あぁ、気のせいだ気のせい。きのせいひのせいみずのせい。

 そんな俺の内心の突っ込みに気がついたのか、中留御はぽんっと手を叩いた。

「あぁ、靴紐が縒れているのね、だからいつも以上に不恰好なのか!」

 ひどい、言葉の暴力だ。

 中留御に反撃の一言を口に出そうと思った矢先、中留御はしゃがみ、俺の紐を解き始めた。

「な、何すんだよ!これじゃぁ脱げちまうだろうが!」

 もし周囲に人が居たならその視線を全て集めそうな台詞を吐いて中留御を制止しようとするが時既に遅し。スニーカーの靴紐は一番下まで解かれていた。

「スニーカーって縒れてる紐じゃダサいわよ?」

 そう言って力一杯紐を穴に通し縛ってゆく。これじゃ脱げないだろというツッコミが浮かんだときにはもう片足のスニーカーは綺麗に縛られていた。

 別に靴紐如きで綺麗汚いを求めない俺はしょうがないので中留御の気の済むように放置し、コンビニメンバーのお帰りを待った。

「よし出来た!」

 パンッと無意味に俺のスネの横側を叩いて立ち上がる中留御。本当に無意味だ。

「いーい、男ならこれぐらいきちんと靴紐通しなさいよ?」

 靴紐をきちんと通す通さないはその人個人の性格であって男も女も…いや、老若男女関係ないだろ。

 色々と突っ込みたい気持ちを抑え俺は一応礼を言うと、中留御はいつもの罵倒を吐いてそっぽを向いた。

 待つこと五分弱、コンビニメンバーも無事帰還し、文化棟の探検へと移った。

 一階、俺たちの使ってる会室とは部屋の作りがちょっと異なる。どう見ても部屋の数が少ないのだ。そして全ての部屋の入り口上部にはナントカ部と書かれたプレートがある。

「うわ、此処広いな」

「此処は部の部室みたいだからね、えっと、囲碁部、将棋部、新聞部、漫画研究部なんかが使ってるみたい。どこの部活も今日はやってないようだね」

 早田はやはり一年多くこの学校に通っていそうな雰囲気をかもし出しながら次々にと部の説明をする。

「ソーダさんは物知りですねぇ〜」

 夏目なつめの率直な意見に皆うんうんと首を振る。他の部の部室がどうなっているか非常に気になるが部屋の窓は薄い白い色で中が見えない。

「なぁ、早田、二階は同好会とかの部室だろ? それだと文化系も部って少なくねーか?」

 部屋の大きさが大きい分ワンフロアに収まる部の数も少なくなるのは当然で、そう考えると一階が部で二階が同好会の部室ならば今目に見えているプレートの部しか存在していないことになる。

「いいや、二階にも三階にも部用のちょっと大き目の部屋はあるよ。まぁ、三階はあっても用具室みたいな感じになってるからあんまり大きさを感じないけど。それにお昼の放送や音楽を流しているのは放送部だし、文化系の部活はそういう部で使用する特別な物があるならそれが置いてある部屋の準備室とかを部室にしてるね」

 そう言われればそうだ。水泳部みたいに更衣室を部室にしているように、美術部とか科学部とか吹奏楽部とかは専門の教室の準備室を根城にしているんだな。

「部は王道過ぎて何やってるか丸分かりよね、私が求めているのは何をやっているか名前じゃ解らない部が知りたいのよ」

 よく言うよ、その訳のわかんない活動集団筆頭なのに。求めるだけじゃなくちゃんと周囲に何をやっているかわからせろっての。まぁ、周囲とは言わないが、会員たる俺や春日さんに何のために作ったか説明してわからせてくれ。俺の中では放課後の井戸端会議愛好会にしか見えない。それかレクリエーション愛好会ぐらいにしか。

「二階に行けば変な部活増えるよ?」

 早田は天井を指差し中留御に告げる。それを聞いて目を輝かせ一団を率いて中留御はずんずんと階段を二段飛ばしで昇ってゆく。俺はため息交じりでその背中を追った。

「二階にとうちゃーく!」

 ロープレのダンジョンの一階を制したような声で中留御は踊り場で手を広げる。その姿を見て見回りの教師に見つかればまず盗難の容疑で疑われそうだ。

「二階は一階に比べて空き教室が少ないよね」

「あぁー此処にもっと空いてる部屋があればバスケ部がひっそりと使っちゃうのにさっ」

 きょろきょろと周囲を見渡して春日さんと望ちゃんが談笑している。

 確かに二階の使用状況は多いようで色々と部のプレートが入り口上部に掛けられてある。

「えっと、トランプ同好会と弁論同好会、読書同好会、文芸同好会…他にもたくさんあるなぁ」

 松木と俺は一緒になってプレートを眺めながら呟く。

「ってまて、待て! トランプ同好会って何だよ! 弁論同好会って何だよ!? というかこの階何やってるか名前じゃ解るが、何やってんだって突っ込みたくなるような部活多いぞ!」

「まー、一番同好会がそういう趣味の人が集まるのに最適な活動だしね。微々たるけど学校から活動金も出るし」

「でもぉー私このトランプ同好会ってかなり心惹かれますぅ〜」

 夏目なつめはトランプ同好会の前で立ち止まり、見えもしない部屋の中を覗こうとがんばっている。

「あぁ、トランプ同好会ね、聞きは馬場抜きや大富豪、Unyoなんかやってるように思えるけど、ぶっちゃけ此処カードゲーム同好会ね。モンスターバトルゲームとかロボットカードゲームばっかやってるみたい」

「窓さえ開けなきゃ活動わかんないしな…というかよくこんな部活に顧問付いたな…」

 一瞬脳裏に田中先生の顔が浮かんだが、それと似たような経緯ならその先生に同情する。

「いーや、先生も大好きみたい。だからこそ顧問になったんじゃない? しょうがないなぁとか言って」

 うわ、顧問もそうなら凄く納得がいく!

「じゃぁかなり極端に言うと、このトランプ同好会はずっと活動しているときは俺のターン、俺のターン! なんて言ってるんだな。ずっと俺のターンって」

「そうじゃないかなぁ、夏目さんどう? 部活入って無いんだし仮入部でもしてみたら?」

 早田は悪戯っぽい笑みを浮かべ夏目なつめに問うが、

「駄目ですよぅ〜なつめちゃんは一人称が俺じゃないから無理ですよぅ〜」

 とまぁ、根本から間違った解釈をしていた。

「で、この弁論はどういった活動してるの?」

 中留御は少し興味が湧いたのか早田をちょちょいっと手招きし弁論同好会の前に佇んでいる。

「あぁ、此処は一つのテーマに皆で討論するんだよ。文化系部活の発表会とかにまとまった論を発表してるみたい」

「じゃぁぶっちゃけ活動は異議有り! とか言ってるわけね。それで逆転させて論を作り上げてるのねぇ。でも、こういうのって興味ない人間からしてみればお経よね。演劇ならまだしも、未来エネルギーとかより良い学校とか熱く語られてもねぇ」

 中留御の意見には確かに同意する。演劇とかなら見てると面白かったりするんだが、見てる分にはな! 弁論は確かに聞くだけで、意見を述べないとなると面白くないよな。

「そういえば見たかったなぁ、日の出っちの演劇」

 クスクスと笑いをこめて嫌な目で俺を見つめる望ちゃん。だからその話題は忘れさせてくれ、永遠に。

「で、結局愛好会の階にまで来ちゃったわね」

 かなり無駄話で盛り上がりながら下から昇って来たわけだが、言いだしっぺはぶっちゃけ飽きたらしい。熱しやすく冷めやすい。フライパン女め。

「そろそろバス来る時間だし帰る?」

 春日さんは名残惜しそうな表情で周囲の意見を聞く。俺は貴方となら何時間でも付き合いましょう!

「そうね、ぶっちゃけ飽きたし、かえろっか?」

 言っちまったよ、この女! 薄々と皆も気がついていたことをしゃぁしゃぁと!

「ソーダ! なんか面白い活動しているところをリストアップしておいて。もちろん報酬金は無しね。よろしく!」

 なんだ、その一方的な指令は!? 流石に可愛そうだろ、早田が! って、早田お前は嬉しそうに頷くんじゃない。

 そんなこんなで解散の流れとなり俺たちチャリ通組みは三人並んで非常に歩行者に迷惑な陣形で日が傾きかけた道を帰る。

「なぁ、松木そういえばお前口数少なかったけどつまんなかったのか?」

「そうだよねー松木がオツ言わないからこっちもなかなか言えなかったよ」

「いや、部活動の活動内容を脳内で美少女部員で考えていた」

 沈黙が周囲を包む。

「お前一回病院行けよ」

 俺は松木にそう言って、手を降った。早田と松木は曲がり道を曲がってそれぞれの家へと帰っていった。

 畜生、俺もそんな風にフィルター張っておけばよかった……

やっと夏休みに入った模様です。

ヤッパリ進行速度は遅いですががんばりますよ。

とりあえず今回もお付き合いいただいて有難う御座います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ