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ガイラルの迷宮  作者: 光崎 総平
最終章 最後の英雄
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第八十一話

 戦況は絶望的の一言である。

 一体一体は魔王級なら問答無用で粉砕できる程度の戦力に過ぎない。

 だが、あまりにも数が多い。多すぎる。

 恐るべき巨体を誇る巨神は四方八方へと散って行き、姿としては美少女の形態を取っている魔神は大攻勢をかける巨神に隠れてどこかへ消えていく。

 また、巨神の速度が異様に速いため、侵攻を止めることが出来ないのも恐ろしい。

 何せ止める手が少ないのだ。ゼイヘムト、シャティリアが最前線で戦い、広域攻撃を可能とするルーベンス、セシルが何とか規模の拡大を防いでいるが、それでも無理だ。数を頼みに四方八方へと移動する巨神の群れは、どうあがいても抑えきれない。


『恐怖せよ』


 厄介なのが巨神や魔神は倒れ際に超広域に飛散する無数の魔弾を放つ。一発一発は大した威力ではない。当たっても一般人でさえ、よほど当たり所が悪くない限りは死なない程度なのだ。

 最初、その弱さに騙され、ゼイヘムト達はそれを見逃してしまった。

 ――気付いた時には手遅れだった。その弱さこそが、デミウルゴスの目的だったのだ。

 痛み、苦しみは恐怖を呼び起こす。

 頭に鳴り響く何者かの恐ろしい声とあいまって、全世界の一般人は恐慌を引き起こしていた。


『憎悪せよ』


 周到なのは少なくない数の誰かが死んでいる事か。

 痛みや苦しみは当人の恐怖を呼び起こす。だが、死は、大切な誰かの死は、憎悪を呼び起こす。

 憎い、これを行った者が憎い。防いでくれなかった者が憎い。隣にいる無事な奴が憎い。

 そう思うことを誰が止められるだろうか。嘲笑うように全世界に念話を飛ばすデミウルゴスはそれすらも計算の内にしている。

 神、その邪知こそが最強の武器と言えるだろう。


『嫉妬せよ』


 家を壊された者は、田畑を焼かれた者は、財貨を砕かれた者は、そうでない者に嫉妬する。

 なんで自分だけ。なんであいつは壊されていない、奪われていない? ああ、誰もがそう思うだろう。

 奪われた者は、同じ条件下で奪われなかったものを見れば妬むのも当然のことだ。

 だから、デミウルゴスはわざと全てを砕かない。殺さない。傷つけない。

 差をつける。全世界を覆う悲劇において、見て分かるだけの差をつける。

 大きく奪われた者を、他の誰かが憐れむことが出来るように、見下せるように。

 疑心暗鬼を、世界全体に広められるように。


『絶望せよ』


 そして、心弱きものは絶望の淵へと立たされる。

 迷える子羊達は、全てを奪われることで、燃え上がる世界を見ることで簡単に絶望する。

 世界の終わり、それを予見できる巨神達の大攻勢と、魔神による大規模幻覚魔術はいとも簡単に人々の心から希望を奪い去っていく。

 全てはデミウルゴスの掌の上で踊っていた。

 ああ、そうとも。

 迷宮の管理者達の大半がデミウルゴスの創造した魔人なのだ。彼らが使った特異な能力を、全てデミウルゴスは神の域で扱うことが出来る。

 『増殖』や『霧散』、『同化』などの恐るべき能力を、神の域で。

 この巨神や魔神は全て力を消耗しない程度まで劣化させ、『増殖』したものだ。そのため、どれだけ打ち倒されても何一切の問題がない。

 まさに災厄の神。禍いの神と言っていい。

 だが、これも一種の賭けだった。

 この巨神も魔神も、たとえば蛇神やエンリルが後の事を承知で動いていれば、完全に一切の被害を出すことなく全滅させられていたのだ。

 また、サラが外に出ず、そのまま打ちかかってきていても危うかった。サラの性格上、ありえないことではあったが。

 一万年の眠りと幾度に及ぶ迷宮の階層破壊の補修で魔力を大きく奪われていたため、『神葬真理』で攻撃され続ければいずれ削り殺されていただろう。

 しかし、デミウルゴスは賭けに勝った。

 更に、デミウルゴスは札を伏せている。この世界を奪いきるに足る手札を、まだ揃えているのだ。

 勝利は目前に近い――そう、真なる鬼札さえ現れなければ。


「狂い咲け、無限の葬列。世の全てを滅ぼさんとする者にこそ、滅びを与えん」


 迷宮の地上部分を根こそぎ消し飛ばし、迷宮内にいた全ての魔神と巨神を殺し尽くしたサラが地上へと躍り出る。

 サラが迷宮を逆走し始めてからわずか二時間程度。その間に世界は蹂躙され、しかしサラは諦めることなく朗々と詠唱を歌い上げた。


「滅びよ、災厄の神々。無限顕現・根源流星砲」


 それは魔法。世界干渉。

 世界そのものに一時的ながら法則を刻みつける魔なる法。

 迷宮内にいる間に巨神と魔神の持つ因子を解析しきったサラが、その因子を持つ存在全てを滅ぼすための法則を世界に刻み込んだのだ。

 数など関係ない。倒れ際の魔弾など、何一切意味がない。

 絶対にして無敵の根源属性を帯びた流星が虚無から現れ、ただ全ての巨神と魔神を打ち砕く。

 例外は無い。

 他のものには全く影響を与えることのないそれは、まさに神の御業に近い。

 一瞬で全ての巨神と魔神が消え、僅かな時間世界に安堵が押し寄せる。

 ああ、それは希望。

 世界を覆い尽くした負の感情を、一瞬だけ洗い流す光。

 そして知るがいい。

 絶望とは希望が見えてこそ、ドス黒く輝くのだと。

 光差した後にそれを砕いてこそ、より深く絶望は刻み込まれるのだと。




 この世界を狙う異世界からの侵略神が、デミウルゴスただ一柱だけなどと、一体誰が言ったのか。




 空が割れる。世界を覆う天蓋が砕かれる。

 機を窺っていた他の世界からの侵略者が、我先にと押し寄せる。

 神話に語られる世界終焉の時が来た。

 敵の数はいくらだ。億か、兆か、京か、垓か、それとも那由多か無量大数か。

 数えきることすら出来ない異界の神々の軍勢が、世界を覆いつくし、全てを凌辱せんとする。

 もう、魔王級に出来ることなどほとんどない。一柱につき、一つの街を守れるかどうかだ。

 これはどうしようもない。世界は、終わるだろう。

 だが、しかし――


「――この程度が、どうしたぁあああああああ!!」


 終焉に抗い、サラが全ての力を解放する。

 たかだか少々頑張れば指折り数えられる程度の数。

 理不尽に遭い、泣き叫ぶ人々を守るために戦うことこそが、セイファートの出発点だ。

 ああ、ただ一番最初に戻っただけだ。一体何の不可能があろうか。

 天に向かい、サラは突撃する。

 無数の流星が神々の軍勢に突き刺さっていく。一撃で百万は消し飛ぶか、それとももっとか。

 足りない、足りない、足りない。

 何もかもが足りない。あまりにも。

 サラが十人いれば足りるか、それとももっとか。

 それでも、全力を絞り尽くしてなお足りぬと知りながらも、サラはただ鬼神の如く戦い、そして――
















 イーリスは、燃え上がる街並みの中、オリオールが全開で展開している城塞障壁の内側でそれらを見ていた。

 大好きだったみんなが、苦しんでいる。

 オリオールがどう頑張っても、充分な強度を保ったままで展開できる広さは学園の敷地内程度だ。

 不安に震える人々が、イーリスの目に映る。


『誰か、この声を聞いている誰か――力を貸して』


 そんな彼女の脳裏に、いつか聞いた声が響く。

 邪悪にして威圧するデミウルゴスの声ではない。悲哀に満ち、しかし全てを慈しむかのような声が。


『もう、時間がないの。誰でもいい、私の声が聞こえてる誰か、力を、身体を貸して』


 必死な声。

 それは、目の前の人々と重なって。

 イーリスは、声にこたえていた。


「あなたは、だれ?」

『! 私は『世界の女神』アスフィリア・ルーゲイン。世界樹の種、まだ、生きていてくれたの……?』


 声――アスフィリアは感極まったように、声に涙をにじませる。

 しかし、すぐに立ち直り、イーリスへと語りかける。


『力を、身体を貸して。世界が、危ないの。一度滅びた私は、誰かの身体を借りないと、再び現世へは戻れないの』

「みんなを、お姉ちゃんを、守って、くれる?」

『貴方のお姉さん? ――サラ・セイファートは守れない。彼女を救うには時間が足りない。彼女にはもう、時間は残されていないから。

でも、他の人は守れる。貴方の友達や知り合いを、必ず』


 サラを救えない。

 分かっていたことだ。サラは、別れの言葉をあまり言わない。また今度、とかありがとうございました、そういう言葉を残して去っていく。でも、あの日、サラはさようなら、と言った。

 それは、つまりもう二度と会えないことを、サラは知っていて言ったのだ。

 だが、イーリスは前を向く。

 もうイーリスの世界はサラだけではない。ジンも、クレールも、他の友達も、たくさんの人々がイーリスの周りにいる。

 失いたくない。もう、誰も。

 だから、イーリスは頷く。

 この世界が持つ、最大最強の鬼札が、今切られる。


「私の身体を使って。だから、みんなを、守って――!」


 泣き叫ぶようなイーリスの言葉と共に、風が吹き、イーリスの被っている帽子が飛ばされた。

 今まで隠していた頭の上の蕾、それが綻び、花開き、そして。

 そして。そして。

 今まで、一万年間一度も咲くことのなかった、世界樹が満開の花を咲かせる。


『ええ、我が愛しき子。貴方の願いは受けました。私の世界は、もう傷つけさせない』


 イーリスの姿が変わる。

 幼い少女から、十代後半ほどの美少女へと。

 緑色だった髪は、常に色の移り変わる足元まで届く長さの髪となり。

 常に誰かの庇護下にあったか弱い雰囲気は、全てを産み育てた大いなる母性に。

 顕現する。

 世界より消えていた原初神族――そのうちの一柱が、今、再び世界に降り立った。


『まずはみんなを』


 アスフィリアは蹂躙されようとしている全ての生命へと、自らの『加護』を与える。

 生命を創造したアスフィリアにのみ可能な芸当。

 神の域にない全ての存在を、この一時あらゆる全ての攻撃から防ぐ。

 サラが討ち漏らした異界の軍勢でも、その守りは決して打ち抜くことは出来ない。絶対に。


『次に、感謝を。蛇神、ギルフィー、エンリル、ウルズド、アーカム、ティアマット、今まで世界を見守ってくれてありがとうございました。

なので、貴方がたにお礼の代わりに許可を与えます。この私、『世界の女神』の名において、この世界で全力の戦闘を行って構いません。

今まで、他の世界からの干渉を防ぐために、最小限にとどめていたその力を、存分に揮ってください』


 それは。

 デミウルゴスの想定していた全てを完全にひっくり返す一言。

 一万年前に滅び去った原初神族の復活など、誰一人として想定していなかったのだから、当然と言えるだろう。

 『神災厄禍』よ、恐怖を知るがいい。












「ク、ハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」


 一番早く動いたのは、エンリルだった。

 単純な話だ。指を弾くだけなのだから、誰よりも早いに決まっている。

 そう、ただそれだけで、世界の空から異世界の軍勢が消え去った。代わりに現れたのは剣、剣、剣、剣、剣。

 空の全てを埋め尽くし、世界の全てを埋め尽くし、世界の外まで全てを埋め尽くす無限の剣。

 その剣の全てが世界剣――エンリル・アーガトラムが創造してきた世界そのものだ。サラでは力を分割しなければ使えなかった代物を、まさに無限に扱ってなお余裕がある。

 エンリルがやったのはただの雑魚散らしだ。この程度も防げない存在など死んだ方が良い。

 たかだか光速で放たれただけの、ちょっと力が強いだけの剣だ。エンリル本人が手に持っていないのに、この程度で死ぬなど戦うにすら値しない。

 事実、幾らかの敵は剣を何らかの方法で防ぐことによって、活動を再開している。

 それを見て、エンリルは嘲笑う。

 これで死んでいれば、マシだったものを、と。














 そして、次に動いたのは『破壊神』ウルズドだ。

 サラの持つ戦鎚に酷似した戦鎚を担ぎ、飛翔する巨躯の男。

 咆哮を上げながら、ウルズドは無限の剣を戦鎚で打ち据える。

 ただ、それだけ。

 それだけで、世界一つと同等の力を持つ世界剣が無数に砕け散り、動き出そうとしていた異界の神々ごと全てを打ち砕く。何のためらいもなく世界剣を粉砕しているが、世界剣はエンリルが生きている限り、いかなる状態になっても中身への影響がないことを知っているからだ。たとえ微塵に砕いたとしても、まるごと消滅させたとしても、エンリルが生きてさえいれば特に問題はない。

 ウルズドは特殊能力を何一つ持たない。

 戦鎚も頑丈なだけで、特に攻撃的な概念など刻まれていない。

 必要ないのだ。そんな些細なものなど。

 あらゆる存在から隔絶した腕力と魔力。ただそれだけで、あらゆる全てを破壊する存在である。

 かつて自らを下したとある存在との契約を果たすために、ウルズドは異界の神々を粉砕していく。

 敵が多いだの少ないだの、そんなことはどうでもいい。

 概念や法則すら破壊する彼にとって、光など蝸牛と同じだ。のろまな塵芥どもを滅ぼすだけで、盟友との約束を果たせるというのだ、なんと楽な事か。

 桁外れの速度でまだ生きている軍勢を滅ぼしていくウルズドの前に、膨大な力を持った剣神が立ちふさがる。


「『破壊神』ウルズド、カビの生えた破壊者よ。貴様を殺し、最強の破壊者の名を頂くぞ」

「黙れ、塵」


 剣神にウルズドが戦鎚を叩きつけた。と、音とすら認識できないほどの轟音と共に、世界全体が衝撃で震える。

 全てを破壊する戦鎚を、剣神が受け止めたのだ。

 ニヤリ、と笑う剣神。しかし、ウルズドは興味なさげに戦鎚を構え直した。

 なんと意味のないことをするのだろうか、この剣神は。

 ウルズドに敵する者は、全て死ぬというのに。















 『堕龍神』ティアマットはゆっくりと目を開け、そして咆哮する。

 まったく、無粋な連中だ。

 ゆっくりと眠っているというのに、大きな音を立てて起こしにくるとは。

 世界樹の頂上でティアマットは一万年の間に苔生し、生態系が構築されてしまった大陸よりも巨大な体の表面の環境が壊れないように注意して体を動かし、いつのまにか周りにいる不愉快な連中を見た。

 なんだ、こいつらは。

 ティアマットは幾万年も感じたことのない、とても久しい感情を向けられていることに気付き、それを思い出そうとした。

 と、この不躾な連中はせっかく背中に出来た生物環境を破壊し始めたではないか。

 なんと酷いことを。

 思わずティアマットは涙ぐむ。

 そんなに壊されては、また千年ぐらい元に戻らないではないか。

 咆哮を上げようとし、ティアマットはふと思い出す。そういえば、この向けられているのは殺意とか敵意と呼ばれる感情か。

 ……もしかして、これはティアマットを倒そうして、その余波で上の生き物たちは攻撃されているのか?

 だとしたら、なんと愚かなことをする者達だ。

 今行われている攻撃の兆倍は強力な攻撃を持ってきてもらわないと、ティアマットの龍鱗の上に生えている産毛一本すら傷つけることは出来ないというのに。

 仕方ない。

 ティアマットはこの愚かでちっぽけな敵に、本当の力というものを教えてあげることにした。

 そう。

 かつてはエンリルと覇を競った、創造神の力を。















 クワッ、と目を見開き、アーカムはわなわなと手を震わせる。

 世界が壊された。たくさんの研究対象が死んだ。

 なんということだ。なんということをしてくれたのだ、このゴミ共は。

 ド許せぬ。

 ギロリと全世界にいる異世界の軍勢を見回すと、アーカムはその全てを対象に取り、絶大な魔力を解放した。

 アーカムは、実は上位四属性を一つとして使えない。才能が無いのだ。

 だから、アーカムはひたすら研究に研究を重ね、実験に次ぐ実験を行い、ついに一つの属性を創り上げるに到達した。

 それこそが消滅。

 根源属性以外では、混沌にさえ耐えきれる精神の持ち主以外の全てを消して滅する究極に近い属性。上位四属性と根源の中間にあたるだろうか。

 そもそも、なんという恩知らずな連中だ。アーカムの見たところ、攻めてきた者達はどれもこれもアーカムが魔術を伝えた世界ばかりだ。

 恩師のいる世界に、ずけずけと土足で踏み入るとは言語道断。

 無限にさえ届かぬ程度の数で、『魔導神』に挑むなど可笑しすぎてヘソで茶が沸くわ。

 世界剣ごと天の全てを消し飛ばし始めるアーカム、そんな彼を、天空から神域の何かが襲い来る。


「消えろ」


 見もせずにそれを消し飛ばし、アーカムは恩知らずどもを懲らしめるために進撃を始める。

 『魔導神』を止められるものは、誰もいない。



















 最後に。

 蛇神は世界の外で、首謀者を睥睨する。

 ギルフィーは動かない。この一件で大量に出た死者の魂を弔い、出来る限り早く輪廻の輪に戻すためだ。

 この馬鹿騒ぎしながら侵略してきた中で最強の神を見下し、蛇神は他の全てと完全に隔絶した力を解放している。

 直接戦闘能力ではエンリルとウルズドに二歩譲らざるを得ないが、神としての能力ではエンリルに次ぐ。これは他が低いのではない。エンリルが全ての面で凄すぎるのだ。

 そして、蛇神も伊達で『万物の覇王』などと呼ばれているわけではない。


「さて、この落とし前をつけてもらおうか……ああ、名乗る必要はない。貴様如きの名を覚えておいてやるほど、こちらは優しくないからな」

「ハハッ、たった一万年呆けている間に、随分と間抜けになったか? 朕は貴様ら如き、容易くひねりつぶせるほどの力を得たというのに」


 姿を描写する必要すらない謎の神っぽいものがわめいているが、蛇神は気にせず、未だ凄まじい勢いで侵略の軍勢をブチ殺しているサラへと念話を飛ばす。


『サラ、お前は迷宮へ行け。あそこは現状、お前しか最深部に入れない。そういう場所だ。だから、ここは我々に任せてデミウルゴスを張り倒して来い』

『分かりました。御武運を祈ります。さようなら』

『ああ、さよならだ』


 サラが物凄い速度で迷宮へと向かうのを確認し、蛇神はようやく意識を神っぽいものに向けた。

 どうやら頑張って蛇神に攻撃していたようだが、残念なことに蛇神には何一切の攻撃は届いていない。

 無意味だ。

 単純な格の違いがそこにある。全力を解放している蛇神は、そこらの神々とは純粋に存在の格が違う。

 デミウルゴスなら、あるいは蛇神に攻撃を加えることも出来ただろう。

 だが、この神っぽいものはデミウルゴスが目の前に散らしたエサに食いついただけに過ぎない。

 恐らくはこれらを使って蛇神達が『他の神が創造した世界内で、その創造者に無断で戦闘を行った』という、大義名分でも得ようとしたのだろう。

 そうなれば周辺世界から、空白世界であるこの地を欲しがる神々が殺到してきて、どうしようもなくなっていた。

 ところが、今の蛇神達はここの主宰神から許可を得ている。デミウルゴスはさぞ悔しがっているだろう。

 不安要素は、負の感情をたっぷりと喰らい、全盛に近い力を取り戻しているであろうデミウルゴスにサラが勝てるかどうかか。サラが撃破された場合、迷宮を完全支配し、そのまま世界から切り離して逃亡されるだろう。

 そして、逃げられたら追うことの出来る面子が限られるうえ、今後の世界防衛上この世界を離れることの出来ない者ばかりなので、追いかけることは不可能だ。

 ――サラは、どちらにせよこの世界から消えるだろう。出来れば、この世界での最後を勝利で飾って欲しいところだが、さて。


「なんにせよ、貴様には大量の罪状がある。安心しろ、殺さん。死なせてなどやるものか。未熟なまま神域へと至り、世界を侵略するなどと言う愚を犯した貴様に、真正の神という存在がどれだけ残酷かを思い知らせてやろう」


 そう言って、蛇神はゆっくりと手を伸ばす。

 最早数える事すら出来ぬほどの年月を生き、無数の世界を創造してきた神の力を知るがいい。














 そして、サラは最後の敵の前に立つ。

 先ほどのような様子見ではない。

 手に持つは体の一部同然と化した戦鎚と、身体感覚を拡張して一部とみなした神殺しの槍。

 サラの血に刻まれた業と智は、それらを同時に扱うことを可能とする。

 何一切の出し惜しみは無い。

 最後の戦いが、始まる。

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