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ガイラルの迷宮  作者: 光崎 総平
第五章 地を覆うもの
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第五十五話

 先に攻撃を仕掛けたのはサラだ。

 一歩目から最大速度、超音速機動による大上段からの一撃。脱力と力みの狭間で生まれる絶大な威力と当たる瞬間に超加重される戦鎚の一撃を防ぐ術はない。直撃を許すのならば、魔王すら吹き飛ばす狂った破壊力を持つだろう。

 金剛や神化鉄すら土塊と同然とする威力は、しかし千層を超える頑強な障壁と一瞬で引き延ばされた限定空間に阻まれる。僅か手のひらほどの空間を見た目を変えないままに拡張することで実質的な距離を引き延ばして柔らかい風船のようにしたのだ。固いものは砕けるが、しかし柔らかいものは砕けない。

 打撃武器の弱点だ。衝撃を殺されてしまえば威力は消し飛ぶ。

 舌打ちし、サラは相手の動きを見ながら幾百の魔弾を放つ。障壁ならば問答無用に破壊できる。問題となるのは空間拡張による衝撃分散だ。

 そう、それが勘違いである。

 幾百の魔弾。たった、千以下。

 相手は最上級の魔人。たかだか万も超えぬのでは、数ですらない。

 更に言うのなら『増殖』に特化した爵位持ちの最上級魔族。魔弾の打ち合いなど、得手中の得手だ。

 サラの思い上がりを打ち砕くように、レギオンは凄まじい数の魔弾を構成する。一発一発に砲撃級の魔力を込めた魔弾が、実に億。最早驚愕する暇さえサラには与えられない。

 本当の意味での質を伴った数の暴力。加えて、レギオンはこの魔弾にほとんど魔力を使っていない。何せ、この魔弾の内でレギオンが構成に魔力を使ったのはたった一個だ。残りは全て『増殖』させた、力を伴った複製品である。

 これが本来の使い方の一つ。軍勢など、余技に過ぎない。あの程度も超えられない存在では、このレギオンの前に立つことすら許されないのだ。

 殺到する魔弾を前に、サラは笑う。僅か一瞬にも満たない時間の中で、確かに笑う。

 自分の不明が招いた窮地。戦いの初回からこれだ。笑うしかない。

 しかし、絶望はしない。嘆きもしない。湧き上がる感情はただ一つ、歓喜だ。

 こんなに強い敵がいる。もっともっと強い敵がいる。

 世界は広くて狭い。この先に行けば、そんな強い敵と戦える。だから、まず目の前の敵を、殺そう。

 獰猛な笑みを浮かべ、サラは自ら億の魔弾に突っ込む。

 全てが必殺の威力を秘める攻撃。それはつまり全部打ち砕けばいいというだけの話だ。どれかを選んで攻撃しなければならない、というならともかく、全部砕けばいいだけなら簡単すぎる。

 このサラ・セイファートと、『砕くもの』ならば、造作もないと言っていいだろう。

 笑みと共に、サラは膨大な魔導練氣を戦鎚へと纏わせる。その全てを喰らい、『砕くもの』は一時的にその真なる力を解放した。

 砕く。その一点のみを追求した神器であるがゆえの、人智を超えた力。単純にして絶対たる"破壊"だ。

 空間を、世界を、概念を、存在を、ありとあらゆる全てを。

 ただ、破壊する。打ち砕く。

 魔弾の存在する空間そのものを完全に破壊し、魔弾ごと虚無の彼方へと消し飛ばす。世界すら砕いて穴を開けることを可能とする『砕くもの』だからこそ可能な荒業。単一性能特化の神器であるがゆえに、複製品でも本物に劣らない『砕くもの』だから出来ることだ。

 だが、流石に連続使用はできない。サラの魔力体力がそこまで追いついていないということもあるが、所詮『砕くもの』は複製品だ。超絶の威力に何度も連続で耐えられる頑強さを持っていない。

 何の障害物もなくなった空間をサラは疾走する。一度距離を離してしまったが、しかし近付く以外に勝ち目はない。魔弾の打ち合いでは向こうの方が圧倒的に優れている。もう一度距離を離されてしまえば勝ち目は薄い。

 当然、レギオンもそれは心得ている。わざわざ懐に入らせる真似はしない。

 魔力で出来た無数の槍を構成し、全身から生える手で一斉に投擲する。各々超音速で飛翔する槍は確かな威力でサラに集中する。

 当たれば即死。当たらなくても、撒き散らされる衝撃波は確かな威力でサラを叩くだろう。

 打ち砕く――それはサラの速度の問題で不可能だ。向こうの槍の方が速い。ならば、どうする。どうしようもない。

 ならば、前に出ろ。後ろに道はない。未来はない。ならば進め。前へ、前へ、前へ!

 百を超える槍が、サラを貫かんと飛翔する。その数はどんどん増えていく。一つ二つ防いだところで、後続の百がサラを穿つだろう。

 サラは、賭けに出る。全力で大地を蹴ると同時に自分の体を地面と水平に倒し、全てを打ち砕くほどの硬度を有する『砕くもの』の鎚部分を盾にして飛翔する。

 槍に追尾能力が付与されていれば、それで終わる。だが、なければ。槍による弾幕を突破できる。

 幸いと言うべきか、それとも複雑な術式を『増殖』させることは難しいのか、追尾はない。だが、ある意味無防備で突っ込んでいくサラの真横から凄まじい威力の打撃が叩き込まれた。

 砲撃級の魔力を拳に宿した、常識はずれの一撃。それは『動く山』さえも真正面から一撃で消し飛ばして余りある威力を有する。

 ギリギリのところで戦鎚の柄で防ぐが、しかしサラは数マイルほど軽く吹き飛ばされていく。

 次元違いの攻撃力。だが、サラは吹き飛ばされながらもレギオンの力量を見破っていた。

 なるほど、強い。単純な能力ではサラを軽く上回るだろう。しかし、勝機は見えた。この敵には致命的な弱点がある。

 そして、サラは空中を蹴って三次元立体的な機動を始める。

 先ほどのように真っ直ぐ突っ込むのではない。空中を円を描くように動きながら、徐々に間を詰めていく。その動きに、レギオンは付いてくることは出来ても追い抜くことは出来ない!

 多腕多脚であるがゆえに、瞬間的な高速移動は出来ても、長時間の音速機動ができない。また、基本的に砲台であるため、高威力高連射の攻撃は出来ても、複雑な攻撃が出来ない。

 初見殺しに近く、また群体であるがゆえに耐久力も次元が違うだろう。だがそれでも、人間にとっては脅威と言える。

 純粋な高火力、途切れることを知らない速射性、全てを飲み込む攻撃範囲、地平の果てまで届く射程距離。その全てが、人間の枠内にいる者にとっては手の出しようのないものだ。ましてや全て揃っているのなら、抗うことも許されずに消される。

 ここをレギオンが守っている理由になるだろう。最上級の魔人と同格の力を持っていなければ、どうすることも出来ないのだから。

 だが、サラは違う。

 最上級の魔人並の戦闘能力を有し、神や魔王の実力を一部とはいえ知っている。それは、このレギオンに対して極めて大きな武器になる。

 レギオンが数多くの魔弾や槍をサラに向けて放ち続けるが、しかしサラはその全てを回避していく。自分より速い飛翔物の弾幕に真っ向から向かっていくのなら、まず回避など出来ない。しかし、レギオンを中心に円を描くようにしながら近付き、上下などの要素を加えながら近付いていくため、相手に狙いを絞らせず弾幕効果を薄めているのだ。

 密度濃い弾幕を回避できないのなら、薄めてしまえばいい。魔弾より速い槍を射出するには腕を使わなければならない、という制限もあるため、弾幕効果を薄めるのは容易だ。

 そして、サラもただ距離を縮めていくだけではない。自分の走る軌跡の要所に術式を仕込み、巨大な空間魔法陣を形成していく。


「――――」


 あまりにも高速の詠唱のため、人語として聞き取ることが出来ない歌をサラは囀る。

 音よりも早く動くためか、その歌は何かに反響し、増幅し、世界を満たすように静かに広まり、そして。


「キサマ! それは! 正気か!?」


 術式から何を使おうとしているのか読み取ったレギオンが悲鳴染みた声を上げた。

 魔法陣として設置された術式が、歌に反応するように活発化し、増幅していく。それはサラが今までに使ってきた魔術とは、まさしく次元の違う出力を有し。

 サラは、何も答えることなく、ただ笑みを以ってレギオンに手を向けた。


「――いきますよ? スーパーノヴァッ!」


 それは、完成した宇宙属性上級魔術。以前、闘技場を消し飛ばしたものとは完全にわけが違う。

 レギオン周辺の空間を完全に外界から遮断し、その中で超新星爆発を再現する。完全密閉された空間内に吹き荒れる超高圧超高熱の奔流は、あらゆる存在を抹消して余りある。

 ただし、それが最上級に分類される、魔人でさえなかったのならば。

 声にならない叫びを上げながら、レギオンは七百六十五億重の障壁を展開する。それは現在のレギオンが全力で張ることの出来る限界。たった一枚でさえ己の全力攻撃を容易く受け止められるほどに強固な防壁をそれほどまでの数、展開する。

 本来ならば、およそありとあらゆる攻撃を遮断できるだろう。たとえゼイヘムトであっても、一撃で全てを砕くことは出来まい。

 だが、そんなものは上位四属性の上級呪文――魔法にさえ及ぶ超絶の攻撃術には意味をなさない。

 僅かな空間に閉じ込められた熱量は、同時に発生した圧力と相俟って限界を超えて高められる。また、宇宙という属性を重ねられているため、時間属性以外の全ての魔力防壁を貫通する。

 これを止めるのなら絶対零度を以って全ての熱量を相殺するか、時間属性魔術による時空破砕で閉鎖空間ごと魔術を消し飛ばすほかないが、そんなものをすぐさま用意できるわけがない。

 注ぎ込んだ魔力が切れると同時、閉鎖空間が解かれ、中から何か黒いどろっとしたものが溢れてくる。

 生半可な存在ならば蒸発どころか因果の彼方まで焼却されているだろうに、しかしまだ原型を留めていないとはいえ形あるままで存在できるのは流石と言えるだろう。

 だが、もう終わりだ。『増殖』の能力で、あの超高熱は防ぎきることは出来ない。

 サラは、軽く戦鎚を担いだままで、その黒いドロッとしたものへと近付き――

 音を超える速さで伸ばされた槍を、ひょいと躱して『砕くもの』を振り下ろした。


「さようなら、『地を覆うもの』」

「見事だ、『金色の颶風』。先にある絶望を、その手で打ち砕くがいい」


 その言葉が言い終わるか否かで、戦鎚はレギオンの残骸を完全に粉砕した。

 トドメの感触を確かめ、サラは両の足で歩いていく。

 言われずとも、サラはそのつもりだ。この迷宮の最奥に待つ災厄を、自らの手で粉砕するまで足を止めるつもりなど全くない。

 ほぼ全魔力と氣が枯渇するほどに全力を絞り尽くしたが、しかしサラは揺らぐことなく次の階層を目指す。

 その足は、決して止まることはなく――













 そして、迷宮の奥底で。

 大きく力を吸われ、それは苦鳴を上げる。

 眠りから覚めるほどではない。しかし、それでも無視できないほどの力を吸われ。

 苦痛に身をよじりながら、目覚めの日を待つ。

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