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忘れ形見 事件編

一部不明な歌詞はあるが表向き恋人との別れを歌った歌だ。しかし、「玉」を財宝とすれば、財宝の隠し場所を示す歌にも聞こえる。

その宝はきっと相当な値打ちものだろう。

「これだけじゃなぁ、ウラ面は?」

「わからないよ。だって恋の歌になっている。」

米ちゃんは力説する。

「ネットじゃ表がそうだ、と言っているぞ。」

米ちゃんは徹底的にネットを調べたと言っていた。

「ちょっと待ってよ、外部ではあたしたちが初めて聞いているはずの曲でしょ?何でネットに流れているの?誰が流したの?」

智美の疑問ももっともだ。曲に携わった者以外、内容を知るものは俺たち以外いない。未発表曲というのだ、多くの者は存在すら知らない。米ちゃんも困惑顔だ。かれもそれに気付かなかったらしい。

「それは・・」

「わかった!」

ハセナンが手を挙げた。

「きっと、CIAの陰謀よ。昨日のスパイ映画でやってた!」

「んなわきゃ、ねぇっての・・・」

この娘の天然ぶりは圧倒的だ。そんな大袈裟な物であるわけがない。でもこの歌が誰かに何かを伝えたいと言うなら、情報をリークした人間は、歌を知っている関係者だ。作曲者が死んでいる以上、本日この館にいるメンバーの中にいるはずだ。しかも何かの意図がある。でも、この曲を聞いただけでは、なんのことかもわからない。

そういや、こういうのって、取材に似ているなぁ。乱雑にちりばめられた事実をつなぎあわせ、真実をあぶり出すのだ。芸能レポーター故の独得な感想を正田は感じた。

「どこから手をつけよう・・・」

皆顔を見合わせ、ため息をついた。

「はーい、はーい」

「はい、奈緒ちゃん。今度こそいい考え?」

「突然光ったの!ぜったーい、いいアイデア!」

何が光ったの?なんとなく皆が注目した。

「本人に聞こうよ!謎は全て解ける!」

時が止まった。

「それができないから悩んでるんでしょ?」

「“疲れちょると思案がどうしても滅入る。よう寝足ると猛然と自信がわく“寝よう。」

うっとおしい言い方ではあるが、先人はいい事言う。栗太郎の言うとおりにしようか。

「確かに寝た方がいいかも。」

どっと疲れてしまった。何も分からないまま、その日は暮れてしまった。


朝は快晴だった。撮影にはもってこいだ。昨日見た入り江はうって変わって海面はキラキラと輝き、なるほどいい景色に変わっていた。朝食を終え、午前中はゆかりの地の探索をした。昨日のような重い雰囲気はなくなっていた。今日の番組収録は快調と思われた。


午前十時の休憩で一同ホールの喫茶スペースで飲みものを飲んでいた。

そこでは飯山と城島が相変わらずひそひそ話をしていた。まるで今回のロケ全てが、彼らによって仕組まれたかのようなそんな気にすらなる。当然それは違うが裏情報の交換しているのだ。観賞植物に隠れ、なにげない顔をしていて正田は耳を澄ませていた。

「ケーキおかわり!」

「あたしも!」

目の前では女性陣が満喫しております。

「・・・ともかくよ、ひばりは、ああ見えて時間にうるさいんだよ。俺も何度か時間、間違えて大目玉食らったんだよ。そりゃ、忙しい人だが異常だよ。」

飯山は長年の付き合いで結構詳しいようだ。

「インタビューまで何しているんでしょうか。」

「んー、そうだな、基本的には何もしてないが、薬の時間だけはきっちりしている。」

「薬飲んでいるんですか」

「そりゃそうだろ、末期がんなんだぜ。内科治療は続いている。衰弱が激しいと言ってもまだ動けるうちに遺影を撮ろうと言うのが本当のところらしい。今日は麻酔うっての収録だとよ。」

正田は遺影と聞いて死を意識した。この企画は彼女にとってこの世の最後の演技であるのだ。徐々に素顔の彼女が現れてきた。

「薬は食事の時百地に処方される。」

「そういえば、ひばりさん、朝食には現れませんでしたね。」

「当然だろ。起き上がるのもやっとの状態だ。メニューも違う。流動食だ。」

飯山は腕時計で時間を確認した。

「十二時ちょうどが昼食だ。食事後に設定しているわけだ。」

正田にはごく当たり前の習慣に思えたが、このことが大きく問題になるとはその時は思わなかった。


五階の海の見える突き当たりの大きなスイートはひばりの寝室だ。普段起き上がっている間はじっと海を見つめている。

「師匠、起き上がっていては、体に障ります。どうか横になってください。百地先生もおっしゃっていたではありませんか。」

「いいの、このままにさせて。」

泉谷は弟子として、ひばりのそばにいつもついていた。最近は衰弱し看護師たちが世話をするのだが、その様子を離れることなく見ていた。

「私は本当にいい弟子にみとられ、幸せだったよ。」

「何を気弱なことを。百地先生は神の手を持っている先生です。きっと、いい方法を・・・」

ひばりは勇気づけられたのか、それとも死期を悟っているのか、穏やかな顔をしていた。毎日体中激痛で苦しむ。痛みで夜が眠れない。いつまでたっても明けない夜・・・。もうどれだけ続いたか。心の夜も永遠に明けなかった。しかし、あの事だけはあの人に伝えなければ・・・。しかし、あの人は絶対に聞きはしないだろう。失う時にわかっていた・・・。

泉谷はひばりの手に重ねるように手を置いた。

「大丈夫です。」

「そうね・・・」

死期を迎えていることはわかっている。もう時間がない・・・。


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